さすがウィーン@wien

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実際に訪れるまではその存在を全く知らなかったのだが,ウィーンでおもしろい美術館を見つけた.正式名称は「Österreichisches Museum für angewandte Kunst(オーストリア応用美術博物館)」,通称MAKという名で呼ばれている.日本名を見たときにはあまり興味が湧かなかったのだが,たまたま美術館の前を通ったところ,イヴ・クラインの展示をやっているのがわかった.アートもやっているんだと思って中に入ると,それどころかそこはコンテンポラリー・アートの巣窟であった.

1871年に開館した建物に入ると,大きなホールに面していくつもの展示室が繋がっている.そこには確かにゴシック,バロック,ユーゲントシュティールなどに分類された応用美術(工芸)が展示されているのだが,それぞれの展示室のデザインを,なぜかドナルド・ジャッドやジェニー・ホルツァーといったアーティストたちが担当している.1986年にPeter Noeverが館長に就任してから現代美術のコレクションがはじまり,これらの展示計画が進められたらしい.中でもジャッドの展示室は「バロック ロココ 新古典主義」のテーブルや棚を展示するものだったが,そのミニマルな展示方法は1つのインスタレーション作品として成立するすばらしいものであった.その他にも,普通の博物館とは異なる不思議な展示室が並んでいる.クリムトの作品が段ボールの展示壁に掛けられてあったり,やりたい放題にやっている.
展示ホール(1909年に増築)ではジェニー・ホルツァーの最新作展「XX」展をやっていた.光天井(トップライト?)を持つ大きな展示室は真っ暗(ダークキューブ)で,床・壁・天井にプロジェクションされた巨大な文字が部屋中をクルクルと回転し,並べられたクッションに横たわって鑑賞する.建物の壁面にプロジェクションするものは以前にも写真で見たことがあったが,その室内版.単なる文字がプロジェクションされるだけで,しかもドイツ語だったので意味もよくわからなかったが,それでも迫力のあるものだった.それ以外にも大きな展示室が並んでいたのだが,そこも真っ暗で以前の作品をプロジェクタで映写していただけ.さすが大物,大胆かつ大雑把な展示だった.ついでということはないけれど,ウィーン市内を走るトラムに書かれた「I WANT」もおそらくホルツァーの作品だろう.
ちなみにクラインの展示は「Air Architecture」展という建築的プロジェクトの紹介.地下の小さなギャラリースペースが使われていた.

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MAKでは美術館外にも作品を設置している.美術館の敷地内にはSITEの作品など建築っぽいものがいくつかある.更に敷地外にはパブリック・アートとして,ジャッドやフィリップ・ジョンソンの作品がある.ジャッドの『Stage Set』(1996)は公園の中に設置されていて,黒いフレームに原色を使った布が張られている.布は発色がよく,光を透過するため,半透明のレイヤーのようにきれいに重なり合う.残念ながら大きな布の面を作り出すために途中で繋ぎ合わせる必要があり,その繋ぎ目が目立つと同時に汚れの線ができてしまっている.さすがジャッドだけあっておもしろい材料を使っているが,一方でパブリック・アートとして考えると耐候性に問題があり,ややみすぼらしいものに思えてしまう.元々は展示ホール内の個展で展示されたものを移設したようなので,外部での常設展示をどのくらい考慮して制作されたのかわからないが,その辺がもっと考えられていればよかった.
今回は行くことができなかったが,その他にも9階建ての元砲塔を倉庫と展示スペースに使っていたり,郊外の大邸宅を分館に用いて,庭にジェームズ・タレルの作品を設置していたり,果てはロサンゼルスにルドルフ・シンドラーの住宅(ウィーン出身ということらしい)を所有していたり,とにかく幅広い活動を行っている.

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MAKではこれらの活動を収めたガイドブックを出していて,独語,英語だけでなく,伊語,日本語版まである.その中にはウィーン案内があって,ワグナーやロースの作品の住所が掲載されている.それを見てわかったのだが,MAKのすぐ近くにコープ・ヒンメルブラウ設計の「ルーフトップ・リモデリング」(1983/87-88)を見つけることができた(郵便貯金局からもすぐ近く).今となってはデコンストラクティビズムの歴史的名作にちょっと感動した.

美術 | Posted by satohshinya at July 17, 2006 10:41 | TrackBack (0)

好々爺の漫談

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HfGにてダン・グラハムのパフォーマンス『Performer/Audience/Mirror』が行われた.グラハムと言えば,こういったパブリック・アートっぽいものの作者という印象があったので,本当に同一人物なのかと疑いながら見に行ってみた.

場所はHfGのGroßen Studio.HfGのアトリウムの中に作られたBOX状のスペース.舞台上には大きな鏡が吊るされていて,そこに64歳になる少しお腹の出たアーティストが登場する.つまり客席から見ると,鏡には客席に座る自分たちの顔が映るため,本当の観客と虚像の観客の間にパフォーマーが立つことになる.パフォーマンスがはじまるとグラハムは,実際の観客を,または鏡に映った観客を,そして鏡に映った自分自身を言葉で描写しはじめる.簡単に書くとそれだけ.それにより,実像や虚像,言葉による描写などの関係を表現しようとするコンセプチュアルな作品と頭では理解してみる.しかし,実際にはお爺さんが舞台に出て来て,適当に客席の観客をいじっている漫談のようにも見える.おそらく日本語で(しかも関西弁で)やったら絶対にそのように見えるはず.
勉強不足のぼくは知らなかったが,これは伝説のパフォーマンスであり(というほど大げさかどうか知らないが,少なくとも入場制限のために見ることができない人が大勢いたらしい),最初に発表されたのは1975年であるそうだ.確かにその時代に,しかも32歳のアーティストが登場して言葉による描写だけを繰り返すパフォーマンスは,さぞかしコンセプチュアルであったことだろう.しかし,これはアーティストの責任ではないが,それから時日が経ってしまい,今となっては好々爺となったアーティストが登場するパフォーマンスは,当時とは全く異なる印象を与えるのではないだろうか.
いろいろ調べてみると,そのパフォーマンスの構成を記したメモや,75年当時のビデオが販売されていたりしていて,更にここではそのパフォーマンスの全てが音声だけだけれども聞くことができる(ZKMMediathekでもビデオが見られるらしい).声は少し若いが,話し方や内容(と言っても観客によって毎回異なるわけだが)は先日のものと変わらないようだから,どうやら同じ事をやり続けているらしい.
写真は本題とは関係がなく,先日までKubusの下のSubraumに展示してあったSiegrun Appeltの『48KW』.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at July 7, 2006 17:50 | TrackBack (0)

作品でお茶@graz

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グラーツに流れるムーア川にヴィト・アコンチ『Murinsel(ムーア島)』という作品が浮かんでいる.両岸から桟橋で渡る金属とガラスの島には,カフェと円形劇場,子どもの遊び場が入っている.まるで学生の設計のような冗談みたいなものが,しかも世界遺産でもある旧市街を流れる川に浮かんでいる.パブリック・アートもここまでいくと圧巻.

法律上の問題,構造上の問題,環境状の問題,景観上の問題などがあるとは思うが,アート作品という名目による超法規的措置なのか,とにかく川の真ん中に建築物が作られている.一時的なものであるようだが,少なくとも既に建設されて3年は経つようだ.すぐ横の川岸に建つクンストハウスの方が,いわゆる一般的な敷地に建っている分だけ普通に見えるくらい.
もちろん中のカフェでお茶を飲んでみる.確かに川の真ん中の水面ギリギリに位置するカフェ(もちろんガラスで覆われている)は気持ちがいい.こんなところにカフェでも作れたらと多くの人が考えるだろうが,建築物として実現させるのは困難で,しかしアートとなると話は別なのだろう.ところで,これはアート? それとも建築? まあ,どちらでもよいのだけれど,何れにしてもアーティストだからこそ実現できたものだと思う.

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グラーツでは現代建築のガイドブック(独語版,英語版あり)も配布されていて,『ムーア島』の隣にある本物の橋(写真,構造は張弦梁)はギュンター・ドメニクの設計であることがわかる.もっともそれほど有名な建築家による作品があるわけではないのだが…….

美術 | Posted by satohshinya at July 4, 2006 18:47 | Comments (3) | TrackBack (0)

ブラックキューブふただび@graz

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「ノイエ・ギャラリー」のすぐ隣には「Stadtmuseum Graz(グラーツ州立美術館)」がある.おそらくこれもまた何かを機能転用したもののようだが,詳細は不明.

ここでは「Die Totale」展をやっていた.絵画保管庫と副題が付けられ,700近い数の作品を一同に展示しようとしている企画らしい.モチーフとなっているのはルーベンス(?)の1枚の絵.webのトップページでも見ることができるが,黒い壁に隙間なく絵画が飾られ,床に立て掛けられているものすらある.これを実際の展示空間で実現させることで,大量の作品を1度に展示させようという意図のようだ.そのため壁は全面黒く塗られていて(おそらくいつもはホワイトキューブと思われる),床は塗るわけにはいかないから黒い布が貼られていて,立て掛けてある作品の安全を考えたのか,人が歩くところだけを仮設の通路が巡っている.その通路はなぜか床より少し持ち上げられていて,しかもご丁寧に手摺まで廻っている.この操作によって単に1つの床面を手摺で区切る場合とは異なり,制約された動線が独立して存在し,最後の部屋には足を踏み入れることすらできないといったオマケも付いて,この展示そのものが1つのインスタレーションのようになっている.その一方で,入口で全作品のリストを渡されるのだが,1つ1つの絵を鑑賞するという感じにはなれなかった.実際にコレクション自体はたいしたものではなさそうだったし…….何れにしてもホワイトキューブではない展示空間(かつての展示室はそうだったのかもしれないけれど)への試みは至るところで行われているようだ.
グラーツにもMuseen und Galerien 2006という小冊子あり.駅のインフォメーションなどで配布している.

美術 | Posted by satohshinya at June 30, 2006 12:42 | TrackBack (0)

bye-bye Archigram@graz

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グラーツには「Landesmuseum Joanneum(州立博物館ヨアネウム)」として19館の美術館・博物館がある.その中で現代美術を対象としている主なものに「Neue Galerie(ノイエ・ギャラリー)」「Kunsthaus Graz(クンストハウス・グラーツ)」がある.

ノイエは旧市街の中の宮殿であった建物を1941年から美術館として使いはじめたもので,ZKMのディレクターでもあるPeter Weibel氏がディレクターを務めている.訪れたときには3階で「Support 3」展というフルクサスやハプニング,コンセプチュアル・アートを集めたコレクション展が行われており,Spiegelsaal(鏡の間)という部屋では,オーストリア出身のノーベル賞作家イェリネクの挿画を描いた,Gernot Baurの「Die Klavierspielerin」展が行われていたが,その他のスペースは展示替えを行っていた.
コレクション展は,ZKMでのWeibel氏のキュレーションと同様に,とにかく物量で勝負というくらいに圧倒的な数の作品が展示されており,しかも展示動線が明快ではないため,どのように鑑賞すべきなのか戸惑ってしまう.内容を理解した上で丹念に見ていけば興味深いものが数多くあると思うが,短い時間の滞在ではほとんどよくわからなかった.オーストリアの作家が多いようたが,こんな作品ばかりをよくコレクションしていると感心する.
一方の挿画展は作品はともかく,元宮殿だけあって鏡の間が結構な部屋(写真参照)で,今回は大人しくケースに入れられた展示だったが,ここでもインスタレーションを行ったりするのだろうか?

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前面の道がそれほど広くなく,中庭があるものの比較的ラフな感じのエントランスで,展示室の扉を開くまでの階段や廊下は半外部であった.今回は展示替えの真っ最中だったが,通りに面してガラス張りのプロジェクトルームがあり,立地をうまく利用した展示を行っている(村上隆のような美少女フィギュア?による作品の展示中).
もう1つのクンストハウスは言わずと知れたピーター・クック設計の作品(正確にはコリン・ファーニアとの共作).訪れるまではよく知らなかったが,これもまた古い建物が一部に保存されており,その上に覆い被さるように増築されている.こちらも残念ながら展示替え中で,わずかにエントランスと最上階の展望ロビーに入れただけで,展示室自体は作業中の様子を上から見下ろすことができたに過ぎない.作業中の展示や以前の日本作家展(hyのblogを参照)など,興味深い企画が行われている場所だけに非常に残念だった.その上,肝心の夜景も見なかったので,建物についてとやかく書くのもやめておく.
その増築された古い建物には,美術館本体とは別に「Camera Austria(カメラ・オーストリア)」という写真専門のギャラリーが入っていて,Jo Spenceの個展「Beyond the Perfect Image」が行われていた.ここは今となってはヨーロピアン・スタンダードとも呼ぶべき機能転用によるスペース.クンストハウスの新しい空間と一体になって行き来が可能となっているので,実際にはその展示室との対比も楽しめるのだが,それはまたの機会に.
州立博物館としては,他にも「Künstlerhaus Graz(クンストラーハウス・グラーツ)」「Alte Galerie(アルテ・ギャラリー)」がある.これもまた別の機会に訪れてみたい.

美術 | Posted by satohshinya at June 26, 2006 17:52 | TrackBack (0)

至るところで@salzburg

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ザルツブルクでは至るところでアート作品を見ることができた.祝祭劇場前の広場に大きな扉を持つ小さな石張りの建物があって,中を覗くとアンゼルム・キーファーの作品が展示されていた.その建物は明らかに作品のためだけに作られたパビリオンのようで,トップライトまで付いている.こんな旧市街の中で突然キーファーの作品と出会い,一種のパブリック・アートであるのだろうが,選ぶ作家が普通ではないし,その佇まいがとても印象的だった.

丘の上の近代美術館を越えた散策路に面した誰も気が付きそうにもない草むらの中にも,マリオ・メルツの作品が設置されている.これもまた,こんな場所にネオンの作品を作るものだと感心した.もちろん,作品としてもおもしろい.
このキーファーとメルツの作品はSalzburg FoundationによるArt Projectの作品で,1年に1作品ずつ市内に設置されており,後で調べてみるとマリーナ・アブラモヴィッチの作品もあったが,残念ながら見逃してしまった.その他にも,メルツの近くにタレルの作品を示す標識があったそうだが残念ながら発見できなかった.もしかすると2006年作品の予告かも?
市内では「Kontracom06」というフェスティバルが行われていて,コンサートとともに街中にアート作品が設置されていた.中には宮殿であるレジデンツの中庭に実物のヘリコプターを逆さまに展示するものもあって(Paora Piviの作品),何もこんなところにこんな作品をと思うが,その横にはワールドカップ観戦用の巨大スクリーンと客席が準備されていたりするから,世界遺産とはいえ普通に市民に使われている場所なのだろう.

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教会を会場とした展示会も行われていた.フィッシャー・フォン・エルラッハ設計のコレギエン教会の「Blick & (ver)Wandlung」展は,教会自体を分析的に作品化したもの(多分)が並んでいた.日本でも越後妻有では寺院に作品が展示されていたりしたから,これも似たようなものかも知れないが,どんなところにも現代美術は展示できるということだろう.ちょっと乱暴な結論.

美術 | Posted by satohshinya at June 22, 2006 10:14 | TrackBack (0)

呼び方いろいろ@salzburg

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ドイツ語圏の美術館はMuseumだけでなく,KunsthalleやKunstvereinという名称も使われる.Kunstはアートという意味で,Halleはホール,Vereinは協会という意味を持つ.ちなみにウィーン・フィルハーモニーの本拠地として有名な建物はWiener Musikvereinという名前で,日本語ではウィーン楽友協会となる.どのような理由で呼び方が異なるのかはよくわからないが,とにかくザルツブルクにも「Salzburger Kunstverein(ザルツブルク・クンストフェライン)」がある.ザルツブルク美術協会といったところか?

ここではIon Grigorescuというルーマニア出身の写真家の個展「Am Boden」をやっていたが,大きな展示室が1室あるだけで,美術館というよりもギャラリーと呼ぶべきスペースだった.繊細な鉄製のフレームを吊して1つの村を模ったインスタレーションを行っており,教会の平面形状に合わせて写真が展示されたりしていた.ここもやはり1844年に創設されたもので,建物自体がKünstlerhausという名称(建設は1885年,2001年に改築)で,展示室の他に23のアトリエを持ち,最大5年間まで貸し出しているとのこと.いわゆるアーティスト・イン・レジデンスである.
その他にGalerieという呼び方も美術館には使われる.1619年に完成した大司教の宮殿の中には「Residenzgalerie Salzburg(レジテンツギャラリー・ザルツブルク)」がある.宮殿自体は立派な建物なのだが,美術館部分はそれほど特徴はなく,19世紀以前の絵画が展示されていた.「Augenblicke」という企画展を開催中.写真は入口の階段.
ザルツブルクでもKunst in Salzburgという小冊子が発行されていて,32の美術館とギャラリーの地図も付いている.

美術 | Posted by satohshinya at June 21, 2006 12:39 | TrackBack (0)