展示室にある縦長の扉@luzern

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初めてのスイス.ルツェルンにて「Kunstmuseum Luzern(ルツェルン美術館)」へ行くと,4つの展覧会が同時に行われていた.「Kunst überforden」と題されたAldo Walkerという画家の回顧展.どれもどこかで見たようなコンセプチュアル・アートという感じで,年代によって様々に作風が変化しているが,それが更に一貫性を失なわせている.展示壁面に直接描くグラフィックのような作品(再制作)など,悪くないものもあるのだが,全体的にはB級に見えてしまう.「Der Lesesaal」は読書室という意味だが,スイスの有名な画家(らしい)Hodlerなどのコレクション展.それと同時に,それらの画家にまつわるテキストを展示室内で読むという企画.そのために読書用の特別な家具(Vaclav Pozarekによる)までもデザインされている.本を読み上げる人たちの映像を映し出すビデオ・インスタレーションも同時に展示され(Rémy Markowitschによる),絵画とテキストの関係を探ることで単なるコレクション展には留まらない工夫をしている.しかし,残念ながらドイツ語がわからず,その効果は不明.この2つがメイン展示となっており,奥まった展示室に,「Have a nice Day」と題されたWerner Meierという画家の新作展と,Barbara Daviによる「NANTUCKET」というインスタレーションが展示されている.

美術館は,ジャン・ヌーベル設計による「Kultur- und Kongresszentrum Luzern (KKL)(ルツェルン文化会議センター)」の最上階の一部を占めており,他にもコンサートホールや会議場などを持つ大型複合施設であるが,コンベンションが行われていて,ホワイエの中にすら入れてもらえなかった.この建物は,Vierwaldstätterseeという湖の湖畔に位置しており,カペル橋などの観光名所に向き合うと同時に,「ルツェルン中央駅」(カラトラヴァ設計)が目の前にあって利便性もよく,更に背景にはアルプスの山々が広がる絶好の場所にある(写真右端の黒い建物がKKL).その割には,写真で見ると格好のよい外観に見えるが,実際にこれらのコンテクストを同時に目にすると,やや閉鎖的な印象が強すぎる.特に駅側のグレーチング状のものに覆われた立面は牢獄のよう.
建物全体は大きく3つの棟に分割されており,駅側の2つの最上階に美術館がある.基本的には,駅に最も近い幅の狭い棟は,手前の展示室(5室)がコレクションを中心とした展示で,その奥の1室はプロジェクトルームといった趣き(今回のインスタレーション展示)であり,幅の広い棟は,手前の展示室(10室)が企画展で,奥まった2室が小さな個展を行うようなスペースである.見に行った日が,ちょうど幅の狭い棟の展示初日に当たっていたが(「Der Lesesaal」,「NANTUCKET」),全てを一斉に替えるのではなく,部分的に展覧会を入れ替えながら活動しているようだ.
展示室は標準的なホワイトキューブで,全て同一レベルにあり,広い空間がいくつかの大きさの部屋にグリッド状に分割されているが,天井高は変化しないために,印象としてはやや単調である.天井は全面が光天井(おそらく自然光も入れることができる)による同一のシステムで,きれいだけれども,これも単調.ビデオが展示されていた部屋は,天井全体の明るさを落として対応しており,それは後述の小さな入口と相まって効果的.床は濃いグレーのテラゾーのようなもので,これは目地も少なくミニマルな表情がよかった.
2つの棟の間には,展示室同士を繋げるガラス張りのブリッジが何本かあり,そこから湖の風景を垣間見せることによって,展示室の単調さを回避しようとしているようだが,それにしてもブリッジが奥まりすぎていて,それほど開放的ではない.一方の棟には外部避難階段が湖側に下りていて,それに通じる出口もガラスの扉となっており,それに合わせて展示室同士の入口が開いているため,最も奥の部屋からも外の光が見えるといった工夫もされている(詳しくはこちらの写真を参照).
最もおもしろかったのは,展示室同士を繋ぐ全ての入口が,高さも幅も小さく抑えられており(W1.2m×H2.4mくらい?),そのために小気味よく部屋が分割されていて,その一方で,全ての部屋の壁の一隅に,幅は1.2mくらい,高さは天井高さいっぱいの扉が付いており,どうやらそこから作品を展示室に搬入するらしい.壁の目地が気になると言えば気になるけれども,なかなかおもしろいアイディア(残念ながら,展示室内は撮影禁止).巨大な立体作品はどうするのだろうとも思うけど,あんまり大きいとエレベータにも載らないだろうから十分成立しているだろう.
おまけ.美術館のチケットを持っていると入ることのできるArt Terraceがあるのだが,巨大な大屋根の真下の空間で,建築空間としてはおもしろいかも知れないけれど,なんだかよくわからない場所.
更におまけ.コンサートホールなどのホワイエ面のガラスには,様々な言葉と筆者(話者?)が,様々に印刷されており(コスースか誰かの作品?),それは悪くないグラフィックだった.
ちなみに,ヌーベルに関するおまけ.駅前にあるバス停もヌーベルのデザイン? 同じルツェルンにある「The Hotel Luzern」は,客室(の天井)はよさそう.外から見ただけだけれども.

美術 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 9:39 | TrackBack (0)

作業中

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こちらはZKMのMedienmuseumのアトリウム.先日のエントリは正確ではなく,常設展示室の方と書いたのは,Medienmuseumのことで,こちらにメディア・アートが展示されている.一方,企画展示室と書いたのは,Museum für Neue Kunst(現代美術館)のことで,現在は大規模な「Lichtkunst aus Kunstlicht(人工的な光から光の芸術へ)」という企画展が行われている.この展示は好評のため,期間が3ヶ月間延長されている.
Medienmuseumは現在展示作業中.今日から4日間イースターの休日で,街は日本の正月みたいな雰囲気になるらしい.だからなのかよくわからないが,とにかく大々的に作業が行われている.以前,フランクフルト近代美術館に訪れた時にも書いたことなのだが,ここでも2,3階のみがオープンしており,アトリウムを介して作業を見ることができる.
このアトリウムは,メディア・アートを展示するためか,トップライトの光も抑えられ,アトリウムとアトリウムに挟まれる部分も囲われていて,全体的に閉鎖的な印象を持つ.アトリウムというよりは,巨大な吹き抜けを持ったホール空間という感じ.ちなみに写真の光は人工の光.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at April 14, 2006 6:38 | TrackBack (0)

記録に残るサーカス

1994年に水戸芸術館で「ジョン・ケージのローリーホーリーオーバー サーカス」という展覧会が行われた.これは,ジョン・ケージが生前に構想し,ロサンゼルス現代美術館により実現された巡回展の日本展.概要を抜粋すると,《1 ケージ自身の絵や楽譜を展示した「ジョン・ケージ・ギャラリー」,2 彼が敬愛したアーティストたちの作品を展示し,コンピュータの指示により会期中に何度も展示換えを行った「サーカス・ギャラリー」,3 茨城県内の博物館・美術館から任意に作品を借用して展示した「ミュージアムサークル」,4 さまざまなイヴェントが予告なしに行われた「オーディトリウム」の四部構成》(『水戸芸術館現代美術センター記録集1990-96』水戸芸術館現代美術センター)ということになる.
とにかく,取りとめもない,よくわからない展示だった記憶がある.もう少し正確に言うと,少しの滞在時間ではその全貌を掴むことなどできないものだった.そして,チャンス・オペレーションというコンセプトの下,さまざまな事件が起こり,観客はその目撃者となっていった.実際,僕自身も藤本由紀夫氏による「電卓と語学学習機」という不思議なコンサートに出くわすこととなった.しかし,その目撃者はごくわずかであった.その結果,その展覧会は,目撃者の記憶だけではなく,このような記録となって残ることになる.
「横浜トリエンナーレ2005」を見て,そんな展覧会を思い出した.こちらもコミッショナーの交代という事件から始まったこともあって,その開催までが大きな事件の連続であったとともに,更に会期中の会場においてもさまざまなイヴェントが繰り広げられていた.会場で販売されたカタログの中でも,川俣正氏をはじめとするキュレーターたちは,その準備期間の圧倒的な不足を嘆いたり,実現される展示が可変する魅力について書いたりしている.そして,会期終了後には,すべての資料を収めた記録集的なカタログが出版も検討されるらしい.
もしかするとその記録集が,この展覧会を,その実際の内容以上に伝説化させてゆく役割を担うかもしれない.それがどのレベルで達成されたかを抜きにすれば,川俣氏が仕掛けたさまざまな試みは,何れも興味深いものがある.そして,1つ1つの作品がどうだったかということは問題にならず,展覧会という事件だけが,大げさに言うと歴史に残っていくのではないかと思う.その意味で,おもしろい展覧会であった.そういえば,この展覧会の副題もまた「アートサーカス」であった.
しかし,本当にそれだけでよいのだろうか?

美術 | Posted by satohshinya at January 4, 2006 23:33 | TrackBack (1)

ちょっと大きすぎるコレクション

「21世紀の美術館像を巡って アートがつくり出す特別な場所」(東京藝術大学奏楽堂)に行った.地中美術館の1周年を記念した関連イベントとして,Dia Art Foundationディレクターのマイケル・ガヴァン氏の基調講演の後,地中美術館館長の秋元雄史氏とのディスカッションが行われた.美術学部のイベントで,新奏楽堂が使われるのは初めてとのこと.
《Diaの活動の全貌はわが国においてほとんど知らされていませんでした》とパンフレットに書かれているように,確かにDiaについては全く知らなかったが,その基調講演を聴いてたまげてしまった.ランドアートの歴史的な名作,例えばマイケル・ハイザーの『ダブル・ネガティヴ』,ロバート・スミッソンの『スパイラル・ジェティ』,ウォルター・デ・マリアの『ライトニング・フィールド』などは,全てDiaがプロデュースしたものとのこと.それどころか,現在でもDiaのコレクションであり,見ることができるらしい.ランドアートなんて仮設的なインスタレーションだと思っていたら,まだ現存しているみたい.確かに作るのも大変そうだけど,壊すのも大変そう.他にも,ドナルド・ジャッドの『マーファ・プロジェクト』や,現在進行中のジェームズ・タレルの『ローデン・クレーター・プロジェクト』もDiaが実現させているそうだ.
そう考えると,ランドアートの歴史はDiaによる自作自演のようにすら思える.結局,こんな規模の作品を自費でやっているのはクリストくらいだろうか? そんなDiaのプロデュース能力に驚くとともに,ランドアートの歴史に少し幻滅.
それらのDia作品と共通するアーティストによる地中美術館を並べ,21世紀の美術館像ということだったのだろうが大した話にならず,退屈なシンポジウム.秋元氏は『家プロジェクト』を説明しながら,アーティストが主導を握った建築プロジェクトを語る.途中から現れ(そして,途中で去っていっ)た中村政人さんと並んで話を聞いていた僕は複雑な気分.
それはともかく,Diaはギャラリー(Dia:Beacon)も持っていて(それもアーティストによる工場のリノベーション),かなりのコレクションが常設されている.行ってみたい.

美術 | Posted by satohshinya at July 20, 2005 23:16 | Comments (1) | TrackBack (0)

同じ都立だけれどこっちの方がよっぽど現代美術館

「超(メタ)ヴィジュアル」東京都写真美術館)を見た.写美の地下にある映像展示室でやっているのだが,この場所が時々意外な展示を行う.美術館の名前は写真だが,このフロアでは映像に関係する作品が展示される.先日もOTAKU展が行われたばかり.今回は開館10周年記念による特別展としてコレクションが展示されているのだが,その辺(例えば東京)の現代美術館よりもよっぽど質の高い作品が集められている.
岩井俊雄氏の『時間層2』は何度も見たことのある作品だが,やはりすばらしい.最初期の作品でありながら,非常に高いレベルで完成している.もう1つの岩井作品(題名忘れた)は立体視による作品で,これも気持ちよい.名和晃平氏の作品も気持ちよい(というより気持ち悪い).名和氏の作品は,先日見学に行った竹中工務店東京本店新社屋のエントランスロビーにもあったのだが,どうせならこちらを置いてほしかった.竹中の作品はつまらない.minim++の『Tool's Life』も楽しい.ほとんどふざけた作品しか作らないタムラサトル氏の近作もある.石野卓球氏の『The Rising Suns』のプロモーションビデオ(田中秀幸氏)も,ついつい見とれてしまう.他にもiPod photoを用いた作品として,何人かの作家のアニメーション作品が展示されている.新しい使い方だ.その中に,なぜか舞城王太郎氏の例の山手線漫画が全て収められている.山手線以降のものも含まれていて,55枚(?)による大作として(多分)完成している.本屋で直筆の絵を見て回るのも楽しかったが,iPod photoをクルクル回しながら小さい画面で見るのもまたふざけていておもしろかった.
この展示は今週末までが前期で,部分的に展示替えをして後期が開催される.行っても損はない.

美術 | Posted by satohshinya at June 2, 2005 6:37 | Comments (1) | TrackBack (0)

荒々しいリアリティ

「シュテファン・バルケンホール:木の彫刻とレリーフ」国立国際美術館)を見た.日本ではあまり馴染みのない作家だが,僕はフランクフルトのMMKで偶然見たことがある.それ以来,興味を持っていた作家だったが.まさかこんなにまとまった個展を日本で見ることができるとは思わなかった.「日本におけるドイツ2005/2006」の関連企画ということで実現したらしい.
主な作品は木彫による人物像であるのだが,舟越桂氏の作品が洗練してゆくのに対し,バルケンホール氏の作品はとても荒々しい.それなのに,妙なリアリティが存在している.その絶妙なバランスを持っていることが,これらの作品を魅力あるものにしているのだろう.
喜び勇んで大阪で見たわけだが,実は10月から東京でも開催される.ぜひ見に行ってほしい.ちなみに,大阪の美術館は最悪だった.東京の方がまだましかな?

美術 | Posted by satohshinya at May 18, 2005 7:39 | Comments (2) | TrackBack (0)

テナントビル

明日まで内藤礼氏の個展「地上はどんなところだったか」がギャラリー小柳で開催されている.以前は同じビルの1階にあったギャラリーが,知らないうちに8階へ移動していた.実は1度見に行ったのだが,1階が別の店舗になっていたため,ギャラリーごと移動してしまったと思い帰ってきてしまった.その後によく調べてみたら,同じビルの中で引っ越しをしていたらしい.
以前のギャラリーも,銀座の大通りからそのまま入ると真っ白な空間があるというミニマルで不思議なものであったが,それよりも今回のギャラリーの方がかなりよい.当たり前のテナントビルを改装しただけなので,特別に天井の高さがあるわけではない.むしろ横に広がりのある展示室が気持ちよい.下地を剥き出しにした床や柱と,真っ白にはめ込んだ壁や天井のバランスもよい.照明も壁際に蛍光灯と白熱灯のレールがきれいに並んでいる.誰が設計したんだろう?
内藤礼氏の作品は,相変わらずの非常に繊細な作品.その分,ちょっと展示空間が強すぎるので,うまく噛み合っていないような気もする.もう少し作品に合わせた繊細な空間か,普通の美術館のような無個性な空間の方が,作品が際立つように思う.何れにしても見て損はない.

美術 | Posted by satohshinya at May 13, 2005 7:34 | Comments (4) | TrackBack (1)

最近のパトロン

「秘すれば花:東アジアの現代美術」「ストーリーテラーズ:アートが紡ぐ物語」(森美術館)を見た.もう今回は,動線に関する悪口とかは書かない(笑).
東アジア展は,予想以上の好企画.展示構成に「風水」を採り入れているとかで,会場内は混沌とした状態で密集している.2フロアもあるんだから,もう少しゆったりと展示してくれてもいいのに,とも思うけれど,これはこれでよいのかもしれない.狭い場所に26人もの作家を押し込んでいるから,少し下がって作品を見ようとすると,後ろの床に置いてある作品を踏みそうになる.更に,観光客たちが平気で作品に触るので,作品の前にもデカデカと触らないように書いてある.それでも他の美術館に比べると,子どもが走り回ったりすることには寛容で,さすが観光名所としての懐の大きさを感じる.タフな美術館だ.もう税金を使った美術館でジブリ展なんかをやるくらいだったら,高い入場料を払ってでも展望台に登る方がよい.
というわけで,場所も客層も展示構成も含めて,今回の企画はピッタリはまっている.もちろん,作品もよい.入り口にある小林俊哉氏の作品をはじめとして,ユ・スンホ,ウ・チチョン,丸山直文,スゥ・ドーホー,リン・シュウミン,須田悦弘,マイケル・リン,奈良美智,ハム・ジンの各氏の作品はおもしろかった.
一方の物語展は,大部分がビデオインスタレーションであったこともあり,あまり楽しめなかった.もし行く人がいれば,十分時間を確保してほしい.下の階では「ジョルジオ・アルマーニ展」をやっている.そのまま降りてきてしまったが,これはグッゲンハイムの巡回展で,展示構成をロバート・ウィルソン氏がやっているそうだ.美術館に300円を加えれば入れるらしい.見た人がいたら感想を教えてください.よかったら見に行こう.

美術 | Posted by satohshinya at April 19, 2005 6:34 | TrackBack (0)