丘の上と旧市街@salzburg

R0011065.jpg

「Museum der Moderne Salzburg(ザルツブルク近代美術館)」には2つの建物がある.丘の上にある新しい建物が「Mönchsberg」,世界遺産でもある旧市街の中にある古い建物が「Rupertinum」

R0011030.jpg

「Mönchsberg」は,ミュンヘンの建築家Friedrich Hoff Zwink(若い!)がコンペに選ばれて2004年にオープンしたもので,旧市街のさまざまな場所から見上げることができる大変に目立つ場所に建つ美術館.丘の上まではエレベータ(有料)で上がることができ,EVホールに美術館のエントランスが直結している(この断面図参照).最近のミニマルなデザインで,階段部分のスリットで展示空間を分けながら段差のある敷地に対してうまく納めている.床はモルタル,壁はRC打ち放しで,おまけに天井も全てRC打ち放し.よくやっていると呆れる一方で,敷地の関係で高さが抑えられたためか,展示室の天井高さがあまり高くなく,自然光も時折開けられた窓だけで,スリット状の動線空間には光が降り注ぐものの,肝心の展示室はRCの天井に埋め込まれた蛍光灯が並ぶだけでもの足りない.
メインの展示は,「ZERO」展という1960年代にフォンタナやクラインたちが中心となったZEROというムーブメントに関連した作家たちによる作品.その他に,Erwin Wurmという作家の個展「Adorno was wrong with his ideas about art」ZKMでも個展をやったことあり),「Kosmos & Konstruktion」というマレービッチなどのロシア近代美術のささやかな展示が行われていた.
「Rupertinum」は1350年に建てられた宮殿を2004年に美術館に改装したものだが,「Mönchsberg」よりも好感が持てた.元は外部であったと思われる中庭にガラス張りの屋根を架けており,そこを介しながら展示室を廻ってゆく.巨大なスケールの建物ではないので展示空間のボリュームはそれほど大きくないが,むしろ「Mönchsberg」のように横に拡がる展示空間よりは,プロポーションが適切な部屋がいくつかある方がよいのかもしれない.
モーツァルト生誕250周年ということもあって,ザルツブルクに限らずウィーンなどでもモーツァルト関連の展示などが盛んに開かれており,ここで行われていたRobert F. Hammerstielの個展もモーツァルトをテーマとしたものでありながら,現代美術だけあって「Vergiss Mozart(モーツァルトを忘却せよ)」というアイロニカルな内容.実際にモーツァルトが生まれた旧市街に位置する美術館の中で,映像を中心としたコンセプチュアルな作品を展開していた(この個展の全ては「Café Mozart」で観ることができる).その他「Reflexionen」というコレクション展も行われており,「Mönchsberg」ほど派手ではないが,内容のある展示を行っていた.
何れの美術館もザルツブルクの要所に位置していながら,現代美術までを対象とした展示を行っており,しかも2カ所もスペースを持って活動していることに驚く.もしザルツブルクに行くことがあれば,丘の上だけでなく,ぜひ旧市街の近代美術館を訪れてほしい.

美術 | Posted by satohshinya at June 20, 2006 15:59 | TrackBack (0)

ダークキューブ

R0010771.jpg

HfGのアトリウムが今度は展示空間として使われ,「Kunst Computer Werke」展が始まった.ZKMのホワイエも会場に使われている.

とは言っても,アトリウムには展示壁面がないのだが,メディア・アートの展示を行うことから,多くの作品がプロジェクタを使用するために暗い空間を必要としていた.その結果,仮設のテント地のようなもので部屋を仕切ってみたり,作品そのものを覆い尽くす巨大な部屋を作ってみたり,大掛かりな仕掛けが必要とされていた(展示作品はこちらを参照).

R0010822.jpg

例えば『Makroskop』という作品は,吊り下げられたスリット状の壁面に実際は映像がプロジェクトされているのだが,アトリウムのトップライトを覆っているものの,途中階の窓から外光が入ってきたりしていて,日中はほとんど作品として成立していない.メディア・アートにおいては,ある種類の作品では暗い展示空間が必須となってしまうのだが,いつもの光に溢れるアトリウムと比べると,どうも陰鬱な空間に見える.
これらのメディア・アートのための展示空間には,ホワイトキューブならぬダークキューブが常識となりつつあるが,果たしてそれしか方法がないのだろうか? 絵画やインスタレーションなどの現代美術が明るい空間を要請するのに対し,現代美術の多勢を占め始めているメディア・アートは暗い空間を要請しており,多くの展示空間はこの2つを満足させることが必要とされる.その結果,単純に展示室の照明を落とすことから,仮設の壁や天井を作ったり,展示用のボックスを作ったりすることになる.何れにしても仮設的,一時的な対応で,それらを展示するベストな展示空間への解答は得られていない.
作品については,Markus Kisonによる『Roermond-Ecke-Schönhauser』がとても興味深いものだった.詳しくはこちらの動画を見てほしいが,パースが付けられた白い模型の上に,webカメラによるリアルタイムの画像が映し出されるというもの(こちらもまた詳細なアーカイブになっている).その他,Holger Förtererの『Fluidum 1』,Andreas Siefertの『Dropshadows』といったインタラクティブな作品がおもしろかった.
その他,展示構成への工夫として,HfGのアトリウムの床が黒であることから,白いカッティング・シートを用いて作品名が床に表示されていた.それ以外にもライン状のグラフィックなどが会場の床全体に描かれていて効果的であった.

R0010838.jpg

詳細はよくわからなかったが関連展示として新しいインターフェイスが紹介されていた.大きなスクリーンの前に立って指を指し示すだけで,画面上の情報が選択できるという,『マイノリティ・リポート』でトム・クルーズが使っていたようなインターフェイスを実現していた.他にもオープニングの日にはIchiigaiのコンサートも行われた.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at June 19, 2006 13:54 | Comments (6) | TrackBack (0)

ブラックキューブ@stuttgart

DSC08313.jpg

「Württembergischer Kunstverein Stuttgart(ヴュルデンベルク・クンストフェライン・シュトゥットガルト)」では2つの展覧会をやっていた.1913年の開館当初からコンテンポラリーアート(同時代美術)を対象としている由緒ある美術館である.こんな美術館を訪れると,ヨーロッパでは過去100年くらいの美術が一続きの歴史を持っていることに改めて気付かせられる.

メインの展示室を使った「Kunst Lebt!」展は,バーデン・ヴュルデンベルク州にある11の美術館・博物館のコレクションを一堂に会したもの.もちろん,その1つであるZKMからも多くの作品が出展されている.「Kunst Lebt!」とは,英語で書くと「Art Lives!」のことで,ワールドカップ(ドイツではWM-Weltmeisterschaftと呼ばれる)開催に合わせた企画とのこと.ZKMのメディア・アートから博物館の遺跡やオオサンショウウオに至るまで,さまざまなものが並列に展示されている.もちろんキュレーターの意図があって配列されているのだと思うが,美術館や博物館では並べて展示されないモノたちが集まった光景はなかなか圧巻で,常識的なコンテクストを無視したポストモダンな展覧会であった.
ドーム屋根を持つ巨大な円形の展示室と,奥にはこれまた巨大な四角い展示室(この辺は1961年の増築らしい)があって,エントランスや途中のテラスに面した廊下状の部分に至るまで,あらゆるところに展示が行われていた(美術館自体の平面図はwebよりダウンロード可能).そこにバーデン・ヴュルデンベルク州にある建築系大学の先生と学生による展示構成が行われており,いかにも建築家が考えそうなシステマチックな構造体が挿入されていて,複数の展示空間を貫いている.悪くはないけれども,ちょっとそれ自身が主張しすぎており,ディテールも意図してラフなものにしているようだが効果的ではない(会場内写真はこちら).
一方,2階に位置する展示室では,Michael BorremansFernando BryceDan Perjovschiの3人によるドローイング展が行われていた.その中のPerjovschiというルーマニア出身のアーティストの作品がとてもおもしろかった.ドローイング自体は社会を風刺した落書きのようなもので,それ自体もおかしいのだが,展示空間に対する仕掛けも考えられている.
今回のインスタレーション『Solid Ground』では,展示室の壁一面にドローイングが描かれている.最初の部屋では白い壁に青いボールペンのような細いペンで描かれ,よく近寄らないと見えないくらい.次の部屋では,やはり白い壁に黒いチョークのようなもので,今度ははっきりと描かれている.次の部屋は壁一面がグレーに塗られていて,前の部屋で使った黒いチョークと白いチョークで描かれたドローイングが混在し,重ねられている.そして最後の部屋では壁が黒く塗られ,白いチョークによって描かれる.写真はわかりにくいが,手前が白い展示室で中間がグレーの展示室,奥が黒い展示室.そのドローイングの中に「White Cube」と「Black Box」と描かれていることからも,この展示室の塗り分けはホワイトキューブへのアイロニーとしての意図も含まれているのではないだろうか.
それどころかPerjovschiのwebを見ると(ここからダウンロード,p.32参照),2003年に行った展示「White Chalk, Dark Issues」では,リノベーション前のスケルトン状態のような荒々しいコンクリートの壁一面に作品が描かれ,迫力のあるインスタレーションとなっている.その延長として,今回は既存の美術館を使いながら,壁をグレーや黒に塗り替えるだけで,そのような質の展示空間を作り出すことを意図しているように思える.

美術 | Posted by satohshinya at June 14, 2006 13:34 | TrackBack (0)

地下室@stuttgart

R0010918.jpg

たまたま通りがかりに見つけて入ったギャラリーがなかなかおもしろかった.「Kunst. Raum」というギャラリーで,Ursula Rosinskyという画家の個展をやっていた.

作品自体はバルデュス風の女児の絵という感じで,悪くはないけれども特別なものでもなかった.ギャラリー自体は外から見ると車庫のような小さなもので,実際に中に入ると確かに車庫だけで,横に地下へ向かう階段がある.それを下りると,元々は倉庫であったと思われる空間があって,そこがギャラリーになっている.もちろん壁から天井まで真っ白く塗り込まれている.しかし,ボールト天井は低くて妻側以外は大きな作品は展示できないし,地下なので自然光は入ってこない.それでもギャラリーとして成立しているどころか,雰囲気として決して悪くない.一体,よい展示室を成立させる要因はどこにあるのだろうか?
このギャラリーの情報は以下の通り.
Kunst. Raum(Filderstraße 34, 70180 Stuttgart)
火〜金 17:00〜20:00 土・休日 11:00〜14:00

美術 | Posted by satohshinya at June 14, 2006 12:49 | Comments (1) | TrackBack (0)

見られるアトリウム

R0010310.jpg

HfGのアトリウムを使って,ローリー・アンダーソンのコンサート「The End of the Moon」が行われた.仮設の舞台と客席による大掛かりなもの.

R0010374.jpg

このコンサートというよりもパフォーマンスと呼ぶべきものは,ローリーがNASA最初のレジデンス・アーティストとして招待されるところからはじまる物語を語り続ける作品で,途中にヴァイオリンによる弾き語りなどが加わる.上部にはLEDの表示板が吊され,ドイツ語が訳し出されていたから,もちろん即興などではなく厳密に決まった物語を語っていたのだろう.しかし,これがとても長かった.1時間半以上は延々と語り続けている.ローリーの語り方は魅力的だが,ぼく自身の英語能力の貧しさとも相まって,さすがに途中で飽きてしまう.
舞台上にはソファとキーボード,スクリーンが置かれ,床にはロウソクが灯されている.配布されたパンフレットによれば,このパフォーマンスを成立させるために非常に難しいことをやっているそうだが,残念ながらその複雑さを十分に理解することができなかった.おそらく,物語とともに音楽も精密に作られているのだが,それにしても長い.もちろん,洗練された良質なパフォーマンスであるという意見には異論がないが,この長さにはバランスの悪さを感じてしまう.それでもドイツの観客は辛抱強く聞いている.音楽家のイシイさんによれば,ドイツに限らず西洋の人たち(アメリカ人であるローリーも含む)は「間」というものに対する感覚が乏しいためか,同じ調子で淡々と長々と続くことに対して抵抗が少ないらしい.
しかし,ここのアトリウムはいろいろな使い方がされていて,まさしく多目的スペースと呼ぶに相応しい.たった一晩のコンサートのためにこんな労力を掛けるのも大したものだが,こういった使い方に応えるタフな空間があることも重要.もちろんコンサート会場としては最悪の音響であるが,照明用のバトンが吊せたり,舞台上手奥に大きな搬入口があったり,イベント会場としては十分に機能する.上部のトップライトを全て覆うのはかなりの労力のようだが(ちなみにZKMは電動ブラインドを装備),力任せに使い倒している感じが好ましい.

R0010381.jpg

アトリウム内に舞台が作られ,並べられた客席の後部は2階がバルコニー状に巡る下部にまで延びている.その舞台と客席を囲い込むバルコニーには調整ブースが設置されるとともに,ZKMの人たちが無料で鑑賞していた.まさにバルコニー席である.ちなみにこの建物は元々兵器工場であったが,そのときにはアトリウム部分で強制労働が行われ,バルコニーから監視を行っていたらしい.見る見られる関係を持った建物の構成が,そのまま現在でも有効であるようだ.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at June 13, 2006 10:05 | TrackBack (0)

長方形以外

R0010093.jpg

ZKMMedienmuseum3つのインスタレーション作品が登場した.先の2作品は,昨年ZKMで行われた「Making Things Public」展にて展示されたものの修正版.

1つ目はDidier Demorcy,Isabelle Mauz,Studio Ploによる「When Wolves Settle: A Panorama」.アーティストと社会学者のコラボレーションによるこの作品は,オオカミを巡る野生動物保護主義者と地元羊飼いの意見の対立を,アルプスの山と麓の村を再現したミニチュアとインタビュー映像により示したもの.メディア・アートというよりも,学習用のドキュメンタリー作品といった感じ.
Matthias Gommelによる「Rhine Streaming」は,ZKMから6km離れたライン川の映像と音声をストリーミングするもの(ここから昨年の展示の動画などを見ることができる).これもまた学習的な側面の強い作品.もちろん,メディア・テクノロジーを用いなければ成立しない作品ではあるが,全体像がつかみにくい.
最後がPeter Dittmerによる「Die Amme Die Amme_5」.「Amme」とは,ドイツ語で乳母のこと.巨大なマシーンである「Amme」に対して,観客はモニタ上で対話を繰り返す.そのコミュニケーションの結果によって,成功すればミルクを受け取ることができるし(ロボットアームがコップに入ったミルクを差し出す!),失敗すれば霧状の水を吹きかけられたりすることになる.前の2つと比べると,まるでゲームのような作品なのだが,その対話(残念ながらドイツ語なので,ぼくにはわからない)自体が1つの詩のようなものを生み出したり,マシーンそのものが巨大なインスタレーションとして成立させている.この「Amme」は5つ目のバージョンであるが,webを見る限りでは,過去の「Amme」の方がコンパクトに自立していてよい作品だと思う.この「Amme_5」は少し巨大すぎて,1つの生物(乳母?)というよりも工場のような雰囲気.また,アトリウムに置かれているが,プロジェクタを用いた周りの作品のために場内は全体的に薄暗く,もっと明るい場所に置いた方がよいだろう(写真は設営準備中のもの).ZKMでの展示は10月15日まで.
ちなみに「Amme_2」と「Amme_3」を展示したドレスデンのHfBK展示室は,写真を見る限りすごくかっこいい.フランクフルトのMMKもそうだけど,長方形平面を持たない展示室もいいね.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at May 31, 2006 13:49 | TrackBack (0)