オプション@paris

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国立写真美術館である「Jeu de Paume(ジュ・ドゥ・ポーム)」は2箇所ある.1つがチェイルリー公園にある「Jeu de Paume - Concorde(コンコルド)」で,もう1つがマレ地区にある「Jeu de Paume - Hôtel de Sully(シュリー館)」.

コンコルドは1861年に室内球戯場として作られ,そこで行われていたのがジュ・ドゥ・ポームというテニスの原型となる球技で,そこから建物の名前が付けられたそうだ.1909年から展示室に機能転用され,22年には美術館,47年からは印象派美術館として利用されていたが,オルセー美術館の開館に伴い作品が移管され,91年からは写真や映像を中心とする現代美術館となった.改修はAntoine Stincoによる.入口から斜めに上がってゆく階段が大げさだが,動線としてはそのまま真っ直ぐに1階の展示室に入り,奥の階段で2階に上がってから降りてくることになるので,この階段は下りにしか使われない.展示室自体はヴォリュームの大きいホワイトキューブであるものの特筆すべきところはなく,元々の建物もそうだったのかどうかはわからないが窓が塞がれている.2階の壁際にトップライトがあったようだが(参考リンク:4-Met三田村氏報告書p15-16)あまり記憶がない.
ここではシンディ・シャーマン回顧展が行われており,初期の作品から最新作までほとんどの代表作を網羅したすばらしいものだった.日本でもシャーマン展は行われているので大部分は見たことがあるものだったが,初めて見る70年代の作品(ショートフィルムまであった!)は非常に興味深いものがあった(参考リンク:展示の動画あり展示の写真).しかし,コンコルド広場に面した絶好の場所だし,企画もよいのだから,もう少し展示室に個性がほしいところ.
一方のシュリー館は,1624年に建てられた有名な邸宅の1階にある.ここも紆余曲折の末に1994年から写真ギャラリーになり,2004年からジュ・ドゥ・ポームの別館となったそうだ.建物自体は歴史的建造物に指定されているが,展示室自体は地下室をきれいに改装して使っているという雰囲気で,悪くはないけれども特別なものでもない.もちろん住宅なので天井高が高くないのだが,小さな写真の展示には全く問題がない(ここに展示室の写真あり).「Poétique de la Ville: Paris, Signes et Scénarios」展を開催中で,パリの街を撮影した作品が並ぶ.
何れにしても,国立の美術館だけでルーブル,オルセー,ポンピドゥーとありながら,パレ・ド・トーキョーやここのようなオプションがあるというのはすごいことだ.
写真はコンコルドの横にあったジャン・デュビュッフェ

美術 | Posted by satohshinya at November 4, 2006 12:08 | TrackBack (0)

インテリア@paris

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3度目のパリだったが,「Musée d'Orsay(オルセー美術館)」は初めてだった.コレクションはもちろんすばらしいものばかりなのだが,ガエ・アウレンティによる改修がどうしても気になってしまった.

ヴィクトール・ラルー設計による鉄道駅とホテルを,1986年に美術館として開館させたことは有名な話で,機能転用美術館の典型例である.実際の改修時の設計はRenaud Bardon,Pierre Colboc,Jean-Paul Philipponによるもので,アウレンティはインテリアを担当した.アウレンティが美術館の改修やディスプレイを得意としていたために選ばれたのだろうが,そのデザインはどうも装飾的な気がする.
有名なホール部分だが,大空間を19世紀の美術作品に見合うように丁寧にスケールダウンしようとしていることはわかるが,そのために空間と作品との関係がうまく取り結べていないように思える.一方で6階の展示室はゴッホなどの印象派による名作が並んでいるのだが,ここは大変に狭く,その上に柱や梁などに装飾過多なデザインが施されていることが鬱陶しかった.その顕著な例が展示壁面にある等ピッチの穴.上部では絵を架けるために,下部ではタイトルを表示するために使われるのだが,これが結構うるさい.何れにしても迷宮のような館内を足早に回っただけなので何とも言えないが,インテリア的なデザインが優先されすぎているため,作品と一体となった展示空間の魅力を獲得できていないように思える.
オルセーでも企画展示が行われていて,1階の大きな企画展示室ではJens Ferdinand Willumsenの個展「From Symbolism to Expressionism」を開催していた.その他にも現代アーティストを招いた企画や,3階の小さな企画展示室では日本の国立西洋美術館が協力した「Auguste Rodin / Eugène Carrière」展か行われていた(日本ではこれだけで西洋美術館の企画展になる!).また,グラフィック写真についても随時展示が替えられているそうだ.この美術館のコレクションを思うと企画展は添え物のように思えるが,それでもしっかりと行われているということだろう.

美術 | Posted by satohshinya at November 2, 2006 21:45 | TrackBack (0)

シンメトリー@paris

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「Palais de Tokyo(パレ・ド・トーキョー)」「Musée d'Art Moderne de la Ville de Paris(パリ市立近代美術館)」は,1937年のパリ万博の際に美術館として建てられた建物である.ガイドブックなどでは日本館として利用されていたと書かれているが,その時のパリ万博日本館は坂倉準三が設計した有名な建築で,全くの別物である.実際には近代美術館としてJean-Claude Dondel,André Aubert,Paul Viard,Marcel Dastugueにより設計されたもので,建物全体の名前がパレ・ド・トーキョーという.トーキョーと付いているのは建物が建っている堤の名前Quai de Tokyoにちなんだものらしい.

庭を挟むシンメトリーな外観の建物がセーヌ川に面して並び,西翼がパレ・ド・トーキョー,東翼が近代美術館.それにしても,いつの頃からかシンメトリーなデザインは敬遠されるようになった.こんな例もある.『横浜港大さん橋国際客船ターミナル』を設計したfoaのアレハンドロ・ザエラ・ポロは,そのデザインを説明するために動物の顔を引き合いに出している.一見するとシンメトリーに見えながらも,細部はさまざまな要因で形が異なっているのが当たり前で,同様にターミナルもシンメトリーではないそうだ.確かに人間の顔だって厳密にはシンメトリーではない.

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それはともかくパレ・ド・トーキョーは,パリで今回見た美術館でもっともおもしろいところであった.現代美術の企画展専用のギャラリーであり,1階に全ての展示室が納められている.展示室は壁が真っ白く塗られているものの,床はモルタルのままで,天井も既存のコンクリートやレンガによる躯体が剥き出しになっている.特に奥の展示室は途中からカーブを描いており,そこには切妻屋根の架構と木製の下地が露出している.一歩間違えると廃屋に見える,というよりは人によっては十分に廃屋に見えるような,そんな寸止めの手の入れ方に好感を持った.外部が間に入り込む櫛形の平面形であることから,ハイサイドライトより自然光が十分に入ってきていて,この巨大で荒っぽい空間は本当に現代美術にふさわしいと思う(参考リンク:).建設後はポンピドゥーが開館する1977年まで国立近代美術館として使われ,国立映画学校などを経て,アン・ラカトンとジャン・フィリップ・ヴァサルの改修により2002年に現在の形でオープンしたそうだ.つまり,この現代美術館もまたフランス国立である.
大きな展示室を1人(組)のアーティストに割り当てたグループ展「Tropico-Végétal」を開催中で,タイトルが示すとおりリゾート感覚溢れる内容だった.特にHenrik Håkanssonweb)の本物の植物を使った作品は展示空間にふさわしい迫力のあるものだった.他のアーティストはJennifer Allora & Guillermo Calzadillaゲルダ・シュタイナー&ユルグ・レンツリンガーweb),Salla Tykkäweb),セルジオ・ヴェガ.奥には仮設だか何だか分からないが,木製の巨大な客席による映写スペースがあって,これもまた1つの作品のようにすら見えた.しかし,これほどの空間を使いこなすためにはアーティストの力も問われることだろう.

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今回の展示とは関係ないようだが,建物に隣接してアーティストRobert Milin,建築家Laurent Dugua,Marc Pouzolによる2つの庭がある.敷地の高低差と建物の間に生まれた隙間を木製デッキで歩くだけだが,不思議な場所へと変化させることに成功している(参考リンク:).

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一方の近代美術館は多層に亘っていて,地下にピカソやモネなどの近代美術から現代美術に至るまでの膨大なコレクションが展示されている.しかも,ここだけは無料である.1937年の建設後,戦争を挟んだ1961年にようやく開館したそうで,90年代の改修は2000年のポンピドゥー改修を担当したJean-François Bodinにより行われ,最近も2年間の休館を経て今年2月に再オープンしたばかり.そのためかパレ・ド・トーキョーと同じ外観でありながら,内部は全く異なる上品な美術館に改修されていた.地下には年代順に並べられたコレクションの他に,いくつかの作品のために特別に用意された展示室があり,マティスの作品にダニエル・ビュランの作品が向き合う部屋や,ニエーレ・トローニやクリスチャン・ボルタンスキーのインスタレーションが常設された部屋がある.更に2階レベルにはラウル・デュフィがパリ万博のパヴィリオンのために描いた巨大な壁画を展示する部屋があり,なぜかその中央にはナムジュン・パイクの作品が置かれている(参考リンク:).
1階の企画展示室ではダン・フラヴィンの回顧展が開催中.パレ・ド・トーキョーと同じカーブを描く展示室を持つのだが,完璧に手を加えられている展示室は全く異なる印象を持つ.展示室は小さく区切られており,更に上階に展示室を持つために天井の高さもそれほど高くなく,部分的に窓を持つ展示室もあるが基本的には人工光のみである.しかし,床に光沢のある薄いグレー色の材料(塗り床?)を使用しており,床に作品が映り込む様子は特にフラヴィンにはふさわしいものだった(参考リンク:Hayward Galleryにおける同一巡回展).3階レベルにもう1つ企画展示室があり,ケリス・ウィン・エヴァンスの「...In Which Something Happens All Over Again for the Very First Time」展が行われていた.ここだけは最上階であるために全面トップライトの天井を持ち,洗練された展示空間を作り出している.ぶら下げられた照明器具がJ.G.バラードなどのテキストに呼応して明滅する作品などを展示していた(参考リンク).
この2つの美術館はシンメトリーな外観によってほとんど同じヴォリュームを持ちながら,全く異なるインテリアを持つ.一方は巨大な空間をそのままに荒々しい展示室を作り出し,一方はさまざまに空間を分割して広大で洗練された展示室を作り出している.当初の建物がどのようなものであったのかはわからないが,これだけ対比的な美術館が並び合うことがおもしろい.特に計画により実現させることが困難であると思えるパレ・ド・トーキョーの荒々しい空間は非常に魅力的であった.

美術 | Posted by satohshinya at November 2, 2006 9:32 | TrackBack (0)

音楽と映画と美術館

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ZKMMedienmuseumに新しいスペースが登場した.「Das Museum der zeitbasierten Künste : Musik und Museum - Film und Museum」展と題し,音楽と映画という時間芸術を美術館の展示スペース内に組み込むためのものであり,音楽(Institut für Musik & Akustik)と映画(Filminstitut)のそれぞれの部門を持つZKMならではの試みである.

コンサート映像を上映するKonzertRaum,電子音楽アーカイブを常設するHörRaum,映画を上映するFilmRaumの3室が新たに作られた.とは言っても,ビデオインスタレーションを上映していた展示室を改造しただけで,残念ながら特別に建築的な仕掛けがあるわけではない.しかし,企画展に関連した映像を上映するだけでなく,美術館に展示されている作品として映画や音楽を扱うとことはあまり例がないように思う.
KonzertRaumでは「Ein Viertel der Neuen Musik」と題し,ルイジ・ノーノヴォルフガング・リームヘルムート・ラッヘンマンなどの現代音楽家による作品のコンサート映像に解説テキストを被せたものが上映されている.HörRaumでは,国際的な電子音楽アーカイブであるIDEAMA(The International Digital ElectroAcoustic Music Archive)から好きな作品を自由に選び出して鑑賞することができる.FilmRaumではアニエス・ヴァルダの作品や,FilminstitutのディレクターであるAndrei Ujica自身による宇宙飛行士のドキュメンタリー作品などが上映されている.残念ながらフィルムではなくビデオプロジェクターを用いているのだが,貴重な作品を見ることができる.
しかし,確かにおもしろい試みではあるのだが,美術館に長時間滞在して映像を見続けるのは骨が折れる.これはこのスペースに限らず,ビデオアートの持つ問題でもあるだろう.美術館で日常的に貴重なコンサート映像や映画を見ることができる,という意味では画期的であるかもしれないが,既に映像を見るアートがこれだけ溢れている現在において,この行為にどのような意味があるのかを考えなければならない.もし上映(展示)される場所やクオリティがどのようなものでもかまわないのであれば,いっそのことYouTubeで見ることができればもっと画期的なのかもしれないけれど.

@karlsruhe, 映画, 美術, 音楽 | Posted by satohshinya at October 27, 2006 17:40 | TrackBack (0)

美術館のショーウィンドウ

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市制記念日に続いてこれも古い話だが,ZKMのSubraumでの展示について.ZKM自体は元兵器工場を機能転用しているが,そのエントランス横にガラス張りのヴォリュームが増築されている.2階はコンサート用スペースのKubusで,その下にSubraumは位置している.

つまりZKMの顔とも呼べる場所なのだが,実際には周囲を巡るガラスは部分的にルーバーのように傾けられた半外部となっており,内部は中央に円形のステージがあって,周囲には水が張られている.なぜ水が用いられているかは,設計時のコンセプトの変遷による名残とかで,とにかく正面に位置しながらもなかなか有効に使うことが難しい場所となっている.ちなみにこの全面ガラス張りの増築だが,Kubusもホールであるために窓がなくて青い壁面が見えるだけで,結局ガラスは単なるスキンとなってしまっている.一応Subraumは作品を展示するショーウィンドウとして利用されているものの,この環境では展示できるものが限られてくるだろう.
そこにイタリア作家Stefano Scheda『Meteo 2004』が設置された.この作品はサッシ割に合わせて並べられた6面のスクリーンに映像が映し出され,それに合わせてマシンガンの音が付近に響き渡るというもの.映像は19時頃からスタートするのだが,展示期間が夏だったため,周囲は21時頃にようやく暗くなり始める.作品をまともに見ることができるのは大分遅い時間になってからで,オープニングも22時から行われたほど.その一方で,スクリーン自体はガラスのすぐ後ろに設置されていたために,昼間は内部の目隠しとなってしまっていた(もちろん内部には何も展示されていなかったが).作品自体は外部に展示するにはやや暴力的ではないだろうかと思うが,確かに迫力のあるものだった.展示室でこぢんまりと見せるよりは,このくらいの方がよいのかもしれない.建物と一体となって外部へメッセージを発する,という意味では成功と言えるだろう.

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@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at October 27, 2006 15:21 | TrackBack (0)

世界遺産のある街@speyer

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シュパイアー『地球の歩き方』には登場しないマイナーな街だが,ドイツで2番目に世界遺産に登録されたロマネスク様式の大聖堂がある.1030〜1124年に建造され,当時はヨーロッパ最大の教会であったそうだ.その後のゴシック様式の大聖堂と比べると装飾過多ではない分,内部に空間的な操作が見られる気がする.

それはともかく,そんなシュパイアーには2001年に作られた「Kulturhof Flachsgasse」という名前の一角があって,「Städtische Galerie(市立ギャラリー)」「Kunstverein Speyer(クンストフェライン・シュパイアー)」が同じ建物に入っている(他にも「Winkeldruckerey und Typographisches Kabinett」というスペースもあったらしい).何れの展示空間も天井が低く,美術館というよりは市民ギャラリーといった感じ(なぜかwebではQuickTimeを見ることができる.外部,内部キャビネット).5年前のデザインとは思えない.設計はシュパイアーの設計事務所Architekturbüro Weickenmeier.展示もやはりシュパイアーに関わりのある作家を選んでいるようで,1階の市立ギャラリーではKurt Kellerによる写真展「LichtZeitRaum」,2階のクンストフェラインでは「Neuland 5」と題したBrigitte Ebert,Michael Heinlein,Thomas Koppの3人展を開催中.作品もそれなりという感じ.ヨーロッパにだってこんなところもある.
写真はシュパイアー近くにあるライン川沿いの原発.

美術 | Posted by satohshinya at October 26, 2006 23:12 | TrackBack (0)