ショッピングモール@basel

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「アート・バーゼル」と同時期にいくつかのアートフェアが開かれていた.「Volta Show 02」もその1つで,昨年から開始されたそうだ.「アート・バーゼル」でSCAIのUさんより勧められて急遽訪れてみることにした.他にも若いギャラリー(笑)を中心とした「Liste 06」などが開催されていたが,時間がなくて訪れることができなかった.

「Volta」の会場はバーゼル中心部から遠く,「アート・バーゼル」からはシャトルバス,「Liste」からはなんとライン川のシャトルフェリーによって無料送迎が行われていた.もちろん「Liste」(「バーゼル現代美術館」の対岸)からフェリーに乗り込むも,フェリーとは名ばかりの20人乗りくらいの小さなボート.しかも30分以上の長旅を経て会場付近に到着する.会場周辺は明らかに海運倉庫が立ち並ぶエリアで,運河に浮かぶ船を降り立ち,鉄道の線路を鉄橋で跨ぎ,やはり海運倉庫と覚しき建物へと入ってゆく.ちょっと横浜トリエンナーレを彷彿とさせるが,運河から直接アプローチするのでもっと特殊な場所に降り立つ気分になる(倉庫や周辺,フェリーなどここに写真あり).
アプローチまでは非日常的な雰囲気を十分に演出してくれるのだが,大きな倉庫を使った会場に入ると,結局普通のアートフェアと同様に細かく仕切ったブースが並ぶだけ.仮設で階段と2階を作っている非常に大掛かりなものであるが,結局普通のブースになってしまっている.しかも空調なんてないから2階は異常に暑い.もっと違う方法もあったと思うが,結局は小綺麗なギャラリースペースが再現されているだけ.当たり前だけど,場所の使い方は横浜トリエンナーレの方が断然おもしろかった.ここは観賞する場所というよりも買い物をする場所で,もちろん目的が異なるのだから仕方がない(内部の写真はここ,設営風景はここ).
こういう場所では,これがよかったとか作品個別の印象を持つのはなかなか難しい.もちろん見ている時間が十分でないこともあるし,こんなふうにスペースのことを考えている時点で場違いであるのかもしれない.「Volta」についてもいろいろ報告記事があるので,中身の詳細はそちらを参照してほしい(Volta報告1階2階京都造形大の研修報告,出展(店?)していたKaikai Kikiの報告(このページ後ろの方),伊東豊雄さんではなくて伊東豊子さんの報告(6月24日の日誌)).

美術 | Posted by satohshinya at August 13, 2006 14:33 | TrackBack (0)

動く美術,そして音楽と建築@basel

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ジャン・ティンゲリーはスイスのフリブールで生まれ,バーゼルで育った.そして「Museum Tinguely(ティンゲリー美術館)」が,スイス人建築家マリオ・ボッタの設計によって,1996年にバーゼルに建てられた.

凸レンズ型の屋根架構を用いることで,天井高のある巨大な無柱展示室を実現させており,自然光は妻側のガラス面から入ってくる.坂倉準三と村田豊設計による「岡本太郎邸(現岡本太郎記念館)」(1953)の大型版といった感じ.展示空間としてはどちらかというと大雑把な印象で,普通の絵画の展示には不向きに思えるが,ティンゲリーのような作品にはこのくらいの場所がふさわしい(ここの写真参照).地階にもティンゲリーの作品が並んでいて,作品の中には光やプロジェクタを用いているものもあるために薄暗い展示室が用意されている.2,3階には企画展示室があって,企画展ではティンゲリーの友人などの展示が行われるらしい.
さすがにティンゲリーの作品はどれも素晴らしいものばかり.もちろん初めて見るものが多く,通常は他の作品鑑賞が騒音によって妨げられるために稼働を制限している場合が多いが,ここの作品は全てボタンが足下にあり,全ての作品を子どもでも稼働させることができる(実際には稼働後に再び稼働可能となるためにはインターバルが必要なため,動いている様子を全て見るためには時間が掛かる).ティンゲリーの作品は動かなければ意味がなく,やはり実際に動くところを見るととても楽しい.しかし,ティンゲリー以降にキネティック・アートで特筆すべき作家が現れていないのは残念で,これらのローテクノロジーを用いたアートは,ハイテクノロジーを用いたメディア・アートへと形を変えてしまったのかもしれない.
企画展示室はホワイトキューブによる普通の美術館.そこでは前衛音楽家エドガー・ヴァレーズを紹介する「Komponist Klangforscher Visionär」展が開催されていた.楽譜などの様々な展示をはじめ,もちろん音楽作品も聞くことができる.音楽に関して詳しい知識がないのが残念だが,時間があれば隅々まで見て,聞いて回ると楽しい展示だろう(参考リンク:).ル・コルビュジエとヤニス・クセナキス設計の「ブリュッセル万博フィリップス館」(1958)に関する展示も行われていたが,建築はもちろん知っていたけれども,ここでヴァレーズの作品が演奏されていたことは知らなかった(参考リンク:).展示に併せて分厚いカタログも作られていて,おそらく資料的な価値も高い貴重な展示であったと思う.
この建物はライン川沿いに建てられていて,そのライン川を望むことのできるガラス張りの空間があるのだが,これが単なる1階から2階に上がるスロープ状の動線空間.しかも建物本体とブリッジで接続する分棟配置.ティンゲリーの作品を展示することは設計時から明らかなのだから,絶好の場所をこんな建築的表現で使用するよりは,作品と一体となった空間とすべきであった.非常に無駄な空間になっている.
庭園にはティンゲリーの噴水があり,これがまたすばらしい.噴水を作らせるとティンゲリーの右に出る人はいないのではないかと本気で考えてしまう.建物はともかく,これらのティンゲリー作品を見るためだけに,この美術館を訪れる価値は十分にあるだろう.

美術, 音楽 | Posted by satohshinya at August 13, 2006 6:56 | TrackBack (0)

これは一級品@riehen

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クレーの美術館ではさんざん文句を書いたけれど,この美術館は違った.「Fondation Beyeler(バイエラー財団美術館)」は1997年に開館したレンゾ・ピアノの設計による一級品.特に自然光を採り入れる全面光天井については,よくやっているの一言ことに尽きる.

「アート・バーゼル」開催中のバーゼルは「Art City Basel」と銘打ち,どこの美術館も通常とは異なる開館時間が設定されていて,ここも毎日20時まで開館していた(通常は水曜日のみ).有意義に時間を使おうと閉館間際にここを訪れたのだが,それが失敗だった.実際に訪れたのは19時過ぎで,もちろんヨーロッパの夏はそのくらいの時間でも十分に明るいのだが,この美術館の本当の醍醐味を味わうためにはやはりもう少し日の高い時間に行くべきだったと思う.そんな時間であったが,マニアックな天井のおかげで形容しがたい薄らぼんやりとしたホワイトキューブが生み出されていて,近代美術の展示には相応しい展示空間だった.コレクションも一級品ばかり.特にジャコメッティや,真っ白い空間に展示された真っ白なアルプ(だったと思う)の作品など,彫刻の展示におもしろいものがあった.企画展はマティスの「Figure Color Space」展.さすがによい作品が並んでいる.
強いて文句を書くならば,やや建物が長いために,全てがこの光天井システムであったとしても単調さを回避することができていない.妻側の庭が見える場所は特徴的な展示室となるが,それ以外は天井高が一定のため,部屋の広さを変えるくらいしかできることがない.調べたところによると,展示点数の増加により2000年に12メートル分の増築を行っているそうで,もしかするとその分が余計に建物を長く感じさせているのかもしれない.
展示室だけでなく,美しい庭園が拡がる周囲にも見事な佇まいを見せている.一方で想像以上に近接していた前面道路に対しては,豪邸を囲む閉鎖的な壁(塀)が延々と続いてしまっており,それが残念であった.また,塀や建物自身に用いられている赤っぽい石だが,柱にまで貼っているマニアックなディテールはともかく,訪れるまでは正直言ってそれほど魅力的な素材には見えなかった.しかし実際に訪れて通り沿いに周辺を歩くと,地元産なのだと思うが,そこかしこに同じ石が使われていることがわかる.その延長として通りに面する塀があると思うと少し納得できる.
ちなみに「バイエラー」と「ヴィトラ」とバーゼルは三角形の位置関係にあるが,2つの美術館も下記のようにバス(要乗換)で連結している.
・Vitra Design Museum → Fondation Beyeler
  at 9:47, 10:47...
   Weil (Vitra) Bus 55 → Weil (Läublinpark)
   Weil (Läublinpark) Bus 16 → Riehen (Weilstrasse)
  at 10:30, 11:30...
   Weil (Vitra) Bus 12 → Weil (Marktstrasse)
   Weil (Marktstrasse) Bus 16 → Riehen (Weilstrasse)
・Fondation Beyeler → Vitra Design Museum
  at 9:57, 10:27, 10:57, 11:27...
   Riehen (Weilstrasse) Bus 16 → Weil (Läublinpark)
   Weil (Läublinpark) Bus 55 → Weil (Vitra)

美術 | Posted by satohshinya at August 12, 2006 2:14 | Comments (1) | TrackBack (0)

トップライト@basel

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クンストハレはコレクションを持たずに企画展示を中心に活動する施設であることがわかった.そしてバーゼルにも「Kunsthalle Basel(クンストハレ・バーゼル)」がある.

ここもクラシカルな外観にホワイトキューブの展示室という毎度おなじみとなってきた取り合わせで,バーゼル芸術家協会の展示空間としてJohann Jakob Stehlin設計により1872年に完成した建物.何度か改修が行われており,2004年に改修された際に「Architekturmuseum(建築博物館)」が併設された.
中ではLee Lozanoというアメリカの画家による「Win First Dont Last, Win Last Dont Care」展をやっていて,コンセプチュアルに見える作品があったり,展示壁面を黒く塗った上に抽象画が掛けられていたり(これは作家自身による指示らしい),その一方でドリルの先端を描いたような具象画があったり,なかなか一筋縄ではいかない作品が並んでいた.
ここの展示室もトップライトによる光天井を持ち,当たり前の話かもしれないが,機能転用による美術館にはトップライトはなく,元々美術館として作られた建物にはトップライトを持つものが多いことに気付く.20世紀以前に建てられたクラシカルな建物の場合,内部空間のスケールの違いがあるものの,一見すると元々美術館であったのか機能転用されたものなのかわからないときがある.結局は室内を真っ白く塗り潰してしまえば,それだけで展示空間になってしまう.それらの違いの1つにトップライトのある/なしが考えられるかもしれない.しかし現代の美術館では,いかに天井から自然光を入れるかという課題に真剣に取り組んだものがある一方で,そんなことにはお構いなく照明を均質に配置するだけのものも少なくない.
「クンストハレ」の横にはバーゼル劇場があり,その前の広場にはリチャード・セラの作品とジャン・ティンゲリーの噴水もある.

美術 | Posted by satohshinya at August 12, 2006 0:46 | TrackBack (0)

オープン・ストレージ@basel

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Emanuel Hoffmann財団が自らの展示スペースとして作ったのが「Schaulager(シャウラガー)」.美術館ともギャラリーとも名付けられず,単に「シャウラガー」.「バーゼル美術館」や「バーゼル現代美術館」だけでは十分な展示が行えないために新しいスペースが必要とされ,ヘルツォーク&ド・ムーロンの設計により2003年にオープン.

1階では「The Sign Painting Project (1993-97) : A Revision」展というFrancis Alÿs(フランシス・アリス)の個展.作家自身が描かずに,看板画家に代わりに描いてもらった平面作品を展示.それらを立て掛けて重ねて展示してみたりしていて,絵そのものを見せるというよりもインスタレーションのようなコンセプチュアルなもの.最後の展示室では真っ暗な部屋に裸電球が1つぶら下がり,部屋の隅に小さな絵が1枚掛けられていたりしてなかなかおもしろい.そのためかそれほど大きなスペースを用いておらず,入口近くを壁で仕切って使っているだけで,背後には巨大な展示室が余っている.写真はこの展示室を後ろから覗いたもの(トイレに行く時に見える).使っていない部分の天井照明は点いているが,最後の暗い展示室の蛍光灯が消えている.
地下では「Analogue」展というTacita Dean(タシタ・ディーン)のフィルムや写真などによる個展.大きな展示室の中に16mmフィルムを使った作品のための小部屋がいくつも作られているのだが,これらがパヴィリオンのようにおもしろく配置され,その隙間が写真やその他の展示空間になっている.中心に3つの部屋が繋がったボリュームがあって,それにより単なるホワイトキューブではない展示空間が生まれている.しかも,それらが仮設の展示壁面とは思えないほどキチンと作られていることに驚く.今回は時間が十分になかったが,フィルム作品自体も時間を掛けてじっくり見てみたいものばかり.それにしても「アート・バーゼル」でもビデオではなくフィルムを使った作品を多く見掛けたが,最近の流行なのだろうか? ちなみにここで作品と展示風景の映像を見ることができる.地下には他にKatharina Fritschの巨大なネズミ,Robert Goberの大掛かりな水を使ったインスタレーションが常設展示.
作品,展示ともに質が高い一方で,建築はイマイチ.企画展示室は単なる巨大な空間で,柱も無造作に立っている.悪くはないけれどもよくもない.天井の照明もあまりにも一本調子.外観に至っては,エントランスの小さな建物にもう少し意味があるのかと思っていたけれども単なる通り道に過ぎないし,地下階を覗き込めるガラス窓もミラーフィルムが貼られていて外からは見えないし,大きく凹んだファサードはシンボリックなだけ.
しかし,どうしても腑に落ちないことがあった.天井の照明が一本調子であるのは,展示室の均質な照明を機能的に確保するとともに,地下から見上げた時に増殖して見える風景を作り出したかったのだろうということは理解できる.そうだとしても,2階以上の3層くらいに亘る空間は何なのだろうか? まさか見かけのためだけに照明を付けているわけがないし,事務スペースにしては大げさすぎる.調べてみたところ,そこは収蔵庫だったことがわかった.
美術館には「オープン・ストレージ」というアイディアがあって,展示室に展示しきれない作品を収蔵庫内で研究や鑑賞などの目的で限定的に公開する施設がある.それぞれの美術館が重要なコレクションを持っていたとしても,それらを見ることができなければ意味がないため,直接アーカイブにアクセスを可能にしようというアイディアだ.ポンピドゥーでも行われているというのを本で読んだことがあるし,日本でも博物館では行われることがあるようだ.それでも美術館で実現しているのは,平面作品が掛けられた収蔵庫内のラックが移動して鑑賞できるという程度のことで,インスタレーションを中心とした現代美術では例がないと思う.
「Schaulager」という名前はドイツ語で,「schau」が「みせること,展示」,「lager」が「倉庫,貯蔵庫」で,「見せる収蔵庫」という意味を持つ.その名の通り,この美術館(と呼ぶべきではないかもしれない)は現代美術におけるオープン・ストレージを実現した大きな収蔵庫だったのだ.確かにここで行われる企画展は年に1回で,今年は5月13日〜9月24日までのたった4ヶ月ちょっと.それ以外は基本的に内部は公開されておらず,研究を目的とする専門家や学生だけが上層階を含めたコレクションに一年中アクセスできる(もちろん建築関係者もお断り).
ここまでのアイディアはプログラムに関するもので,もちろんこれは財団が提示したものである.それをH&deMが建築化したわけだが,webなどでオープン・ストレージの写真を見ると,通常よりも接近して展示されている展示室といった程度の場所で,特別な空間の提案が行われているわけではないようだ.その意味でも,建築家の果たした役割が表層的な点に終始しているのが残念であった.何れにしても画期的なコンセプトによる美術館,もしくは収蔵庫であることは事実であり,今後の展開に期待してゆきたい.
余談だが,12年前に制作した自分自身の修士設計において,インスタレーションなどの空間化された現代美術作品を収蔵するオープン・ストレージを提案したことがある.それは地下鉄の駅に対してガラス張りの収蔵庫が面するといういささかオーバーなものであったが,ようやく現実が追いついてきたようでうれしく思う.

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美術 | Posted by satohshinya at August 9, 2006 23:30 | TrackBack (0)