コピペ@wien

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MQの隣には「Kunsthistorisches Museum Wien(ウィーン美術史博物館)」「Naturhistorisches Museum Wien(ウィーン自然史博物館)」がある.1891年にゴットフリード・ゼンパーとカール・フォン・ハーゼナウアー設計により建てられたこれらの博物館は,まったく同じ巨大な建物が向かい合っている.まるでコピー&ペースト.この関係性を現代風にアレンジするとMQの2つの美術館となるのかもしれない.しかし,ここにも意味不明なほどに巨大なエントランスホールがあるわけだから,現代の建築家も美術館には巨大なエントランスホールが付きものだと思っているのかもしれない.

「美術史博物館」は博物館と呼びうる古代彫刻などのコレクションとともに,2階のフロアに膨大な絵画のコレクションを持ち,今回は訪れなかったが「自然史博物館」はその名の通り自然科学に関するコレクションを持つ.「美術史博物館」の2階だけを見れば明らかに美術館と呼びうるものだろうが(実際に「美術史美術館」という訳語も用いられている),やはりここでもミュージアムの訳語による混在が見られる.
とにかく異常に広い館内では,案内のマップを片手に興味のある作品だけを見ないことには,時間がいくらあっても足りない.1階と3階は完全に無視して,ブリューゲルやフェルメールなどのいくつかの作家に的を絞って鑑賞することとする.
ここでは最初から長時間の滞在を考慮してか,立派なソファが展示室に置いてある.中には模写(キャンバス,絵の具,イーゼル使用)をしている人もいたりする.展示室はトップライトを持つ巨大な四角い部屋が連続している.壁面には少し色味が掛かっており,どのようなルールがあるのかわからないが,部屋によって色が異なっている.ここは転用などではなく,最初からハプスブルク家の絵画コレクションを収容するための建物であったのだが,これらのインテリアもオリジナルのままなのだろうか? 腰壁があり,入口や天井に装飾があるものの,それらを抽象化するとやっぱりホワイトキューブになるだろう.高い天井高は,巨大な作品には必要な高さであり,場合によっては2段に展示されていたり,『バベルの塔』のように堂々と展示されている場合もあった.しかもピクチャーレールから吊り下げられている.ここでは建築の紹介から各展示室のQuickTimeまで見ることができる.

美術 | Posted by satohshinya at July 26, 2006 6:09 | TrackBack (0)

ミュージアム・テーマパーク@wien

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「Museums Quartier Wien(ミュージアム・クォーター・ウィーン)」(通称MQ)なる場所がウィーンには存在する.広大な敷地にはフィッシャー・フォン・エルラッハ設計による帝国厩舎があり,それを保存しながら中庭部分に大きな2つの美術館とギャラリー,ホールが増築され,巨大ミュージアム・コンプレックスとして2001年にオープンした.最初はマスタープランを元に複数の建築家がそれぞれを設計したのだろうと思っていたら,1つの設計事務所が全てをやっていたことがわかった.槇文彦,ハンス・ホライン,ラファエロ・モネオなども参加した国際コンペの結果,オルトナー&オルトナーというオーストリア建築家が選ばれた.実際にはManfred Wehdornという建築家が協働して文化財保護指定部分の改修を担当したようだが,全体のデザインはオルトナー&オルトナーによるものだろう.

結論から言うと,このMQが最悪の建築であった.中心に建つ乗馬学校を転用したホールを挟み,ほとんど同じボリュームの2つの美術館が建っているのだが,それらが無意味と思われる程に異なった建物としてデザインされている.対称に向き合う酷似したボリュームをどのようにデザインするかという命題に対し,ほとんど関係性を持たせないというニヒリスティックな方法を採ったのかと思えなくもないけれど,単純にやりたい放題にバラバラなことをやっただけとしか思えない.もちろん,エルラッハの建築への配慮も対称にボリュームを配置したくらいのことだけで,ほとんど無視している.その結果,周囲を取り囲む歴史的な建物さえも偽物のように見えてきて,おまけにMQをまとめるサイン計画のグラフィック・デザインがよくないためか,全体としてはテーマパークにしか見えてこない.新しい建物に目をつぶれば,中庭部分はいくつも並べられた寝椅子のような家具のおかげもあって,大勢の人で賑わう居心地のよい場所だが,更に魅力的な場所となるポテンシャルがあったように思う.
個別に見てみる.まずは「Leopold Museum(レオポルド美術館)」.ここには大変にすばらしいエゴン・シーレのコレクションがある.通常の2層分は十分にある天井高の展示室に,しかも窓からの自然光が入ってきていて,Bunkamuraでこれらのコレクションを見たことがあるのだが,全く別の作品を見ているような最高のコンディションで鑑賞することができる.クリムトの作品もあるが,これも非常によい.2階は企画展示のスペースで,Alfons Waldeの個展をやっていた.最上階の3階にはシーレ,クリムト以外のコレクションが並んでいるのだが,いくつかの展示室の中央に吹き抜けが開いていて,トップライトからの光が2階にも落ちるようになっている.建築的な見せ場であろうと思われるエントランスホールは,それらの展示室中央に3層吹き抜けの場所としてあるのだが,ここには作品は並んでいない.これだけ大きい空間を獲得できるということは,大きなスケールの作品をも展示できる可能性があるはずなんだけど,そんなことは考えていないのだろう.周囲を閉ざされた無意味な大ホールや,展示室内の邪魔な多数の吹き抜けなど,インテリアもやりたい放題.地下でも企画展示「Körper, Gesicht und Seele」展をやっていたが,時間がなくて行けず.
そして「Museum Moderner Kunst Stiftung Ludwig Wien(近代美術館ルードヴィヒ・コレクション・ウィーン)」(通称MUMOK).1962年に創設し,この場所は3つ目らしい.こちらは白い「レオポルド」に対して,黒い外壁で.しかも頭頂部がRを描いている.何をやりたいんだかよくわからない.「レオポルド」と同じくらいのボリュームにも関わらず普通の階高なので8層くらいあるが,展示室自体は至って普通の美術館.地下では「Wiener Aktionismus」展というボディ・アートをひたすら集めたコレクション.最近は美術作品には寛容になってきた日本でも,さすがにこの展示はできないのではないかと思われるものたちが一同に会している.これはこれで興味深いのだが,さすがにこればっかりでは辟易する.3階ではコレクションを中心とした「Nouveau Réalisme」展という60年代アート.イブ・クラインからクリムトの梱包まで.その上では「Why Pictures Now」展という現代の写真,フィルム,ビデオを集めたものなのだが,その夜に開かれるオープニング・パーティーの準備中で入ることができず.最上階には近代美術のコレクションもあるようだが,これも見ることができず.
この2つの美術館,機能を考えれば仕方がないのだけれども必要以上に内向きな空間で,多少は外に向けた窓などはあるものの,周辺との関係が希薄なオブジェのような外観ばかりが目立つ.おまけに少し斜めに振って配置されていたりする.オルトナー&オルトナーのホームページを見ればその志向性は明らかで,おまけに選んでいる写真(しかも白黒!)を見るとかなり質(たち)が悪い.建つ場所によっては,その建ち方にもう少し意味があればそれほど悪くない美術館なのかもしれないが,ここにこのようにあると単なるテーマパーク.
中央には乗馬学校を利用した「Halle E」「Halle G」があって,その後ろにオルトナー&オルトナーの増築による「Kunsthalle Wien(クンストハレ・ウィーン)」がある.1992年に創設し,ここに移ってきたようだ.ここでは2つの展示をやっていたが,展示室自体は「MUMOK」と同じようなもので特筆することはない.大きな展示空間があって,そこに展示壁面を作るというタイプ(QuickTimeは展示壁面がない状態).下のHall 2では「Black, Brown, White」展という南アフリカの写真家による作品を集めたもの.上のHall 1では「Summer of Love」展というサイケデリック・ムーブメントの作品を集めたもので,かなりの数の作品があって見応え十分.カールスプラッツにも「クンストハレ」のガラス張りのではプロジェクトスペースがあるのだが,こちらは夕方から夜のみの開館で,時間が合わずに入れなかった.
「Halle G」ではJossi Wielerさん演出の『四谷怪談』公演を見た.日本公演,ベルリン公演に続くヨーロッパ公演.『クァクァ』『4.48 サイコシス』の皆さんと再会.ウィーンで日本語の演劇(独語字幕付き)を見るのも変な感じ.
その他,建築センターやらアーティスト・イン・レジデンスやらチルドレン・ミュージアムやら,胸焼けする程いろいろな施設がMQには詰め込まれている.今回はテーマパーク然とした建築のために十分に楽しめなかったが,活動だけを見てみると興味あるものが多くある.今度はもう少し冷静になって見てみたいものだ.

美術 | Posted by satohshinya at July 25, 2006 1:19 | Comments (1) | TrackBack (0)

世紀末の諍いの跡@wien

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ワグナーの「カールスプラッツ駅」を見た後に,大通りの反対側にギャラリーらしい建物を発見.近寄ってみると確かにギャラリーで,とにかく中に入ってみる.「Künstlerhaus(クンストラーハウス)」は,1868年にウィーン芸術家協会の展示スペースとして建てられたもので,1945年に展示ホールを増築,更に現在は地下に巨大な展示室を増築しているようだ.

ここではHanns Kunitzbergerによる「Die Orte der Bilder」展が行われていた.巨大な展示室(Haupthaus)に並べられた抽象画は,絵画そのものを作品としてじっくり鑑賞するというよりも(鑑賞してもよいのだが),それが複数並べられた空間をインスタレーションとして楽しむべき作品である.特に絵を支えるための足が取り付けられた作品に至っては,壁に掛けられた平面作品とは異なる見せ方を明らかに意図している.しかし,これでも十分大きな展示空間だと思うのだけれど,増築するとどうなってしまうのだろう? 入口脇のHouse Galleryと名付けられたプロジェクト・スペースでは,Leslie de Meloの「Coming Out of Nowhere Going Somewhere」展.
「クンストラーハウス」の隣には有名な「ウィーン楽友協会」が並んでいるだけあって,未だに増築が続けられる由緒ある建物なのだろう.そして19世紀末には,ここを拠点としていたウィーン芸術家協会に反目した芸術家たちがセセッション(造形美術協会)を結成する.確かに「クンストラーハウス」に対峙するように(というほど近くはないけれど)「Secession(セセッション館)」は建っている.
ここも1898年の建設以来,未だに現代美術の展示場として十分に機能しているようだ.オリジナルはヨーゼフ・マリア・オルブリッヒの設計だが,戦災に遭い1963年に再建され,その後もリノベーションなどが行われ,最近は地下に倉庫が増築されている.それどころか,セセッションは未だに存在しているようだ.

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中央の大展示室(Hauptraum)ではStefan Sandnerの個展が行われていた.トップライトによる光天井を持つ展示室は,「クンストラーハウス」と比べると様式的ではない分だけホワイトキューブに近い.しかし,この部屋はオリジナルのデザインなのかな? 展示自体はグラフィカルな平面作品で,展示室のおかげもあり堂々としていて悪くなかった.建物内は意外に広く,地下ではDave Hullfish Baileyによる「Elevator」展をやっていて,この展示室はGalerieと呼ばれるだけあって狭い部屋ばかりだが,小さな連続するボールト天井や,そこに取り付けられた簡素な蛍光灯と相まって小気味よい場所になっている.これもオリジナルのデザインなのか不明.2階のGrafisches Kabinettという小部屋では,Kristina Lekoによる「Beweis Nr.4: Jede/r Mensch ist Ein/e Künstler/in」展.壁紙を展示室に貼って(元々は白),まるで住宅の部屋に展示してあるように見える.
地下には常設展示室として,グスタフ・クリムトの『Der Beethovenfries(ベートーベン・フリーズ)』(1902)のための部屋もある.1989年にセゾン美術館のオープニングでやった「ウィーン世紀末」展で複製を見たことがあるが,ここのものが本物.しかし実際の場所にオリジナルと同じように展示されているはずなのだが,なんとなく違和感を感じて当時の写真をよく見てみると,もっとゴテゴテしていたオリジナルの展示空間を整理した結果,単なる同寸法のホワイトキューブに壁画を飾っていることがわかった.作品を際立たせるためには理解できる方法だが,美術館やどこか違う場所に移設した壁画作品ではあるまいし,もう少し気を利かせてほしかった.
何れにしても19世紀末から現在まで,変わらずに同時代の美術をサポートしている施設があることは,ヨーロッパのスタンダードであるようだ.もちろん,今では100年前の諍いなんて忘れてしまっているようではあるけれど.

美術 | Posted by satohshinya at July 17, 2006 17:30 | TrackBack (0)

街の美術館@wien

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「Wien Museum(ウィーン・ミュージアム)」は,その名の下に多岐に亘る建物を擁していて,もはや美術館や博物館と一義的に呼ぶことはできそうにない.日本では法律上(博物館法)は博物館の中に美術館が含まれることになるが,それらは明確に異なって意識されている.しかし,美術館も博物館もミュージアムと呼ぶ西欧では,アート・ミュージアムと呼び分けることもあるが,それほど明確な区別をしていないように思える.

その中の1つ,「Wien Museum Karlsplatz(ウィーン・ミュージアム・カールスプラッツ)」に行った.1959年に開館したこの建物は,特に特徴のないいわゆる美術館建築に見える.2000年に中庭だったところにガラス屋根を架けて内部化したらしい.お決まりの張弦梁を使っている.更に今年の4月に改修工事を終えたところで,ロビー周りが新しくなったそうだ.
ここにはクリムトやシーレの作品がいくつか展示してあって,しかも額縁にガラスが入っていないし,監視員もいないし,監視カメラまでなかったかどうかはわからなかったが,とにかくあまりにも無造作に展示してあったので,思わず触ろうとしてしまう.というくらいに名作が何気なく展示してあり,とても好感が持てる.日本みたいに,作品保護のためにガラスが入っているのは仕方ないとして,下手くそなライティングのおかげでガラスに映り込んだ自分の姿ばかりが目立ち,肝心の絵が見えないということもたまにある.おまけに厳重に柵があったり監視員がいたりして,絵を見るどころではない.そんな状況と比べると,美術がとても身近なものに感じられる.
その一方で,アドルフ・ロースのリビング(ロース設計のリビングではなく,ロースが暮らしていたリビング)が移築されていたり,その他にもウィーンに関する美術品やら工芸品が展示されていて,やはり美術館と言うよりは,ウィーンに関する博物館という趣が強い.確かに館内の案内を見ると,1階には紀元前5600年から1500年までのものが展示されていると書いてある.開催されていた企画展「Wien War Anders」もAugust Staudaという写真家による1900年頃のウィーンの街並みを撮影したもので,郷土資料館の展示のようなもの.一方の「Kinetismus」展は,1920年代の動きをモチーフとした作品を集めたもので,地味な内容ながらも美術館らしい展示.

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すぐ近くにあるワグナーの「カールスプラッツ駅」(1899)も「ウィーン・ミュージアム」の一部(同じ建物が向き合って建っていることを訪れるまで知らなかった!).他のワグナー作品では「インペリアル・パヴィリオン」(1898)も同様.ハンス・ホラインがデザインした「Archäologisches Grabungsfeld Michaelerplatz」というローマ時代の遺跡を保存した広場も「ロース・ハウス」の前にある.その他にはモーツァルトの住居など,音楽家に関連した建物を多く所有している.
結局この「カールスプラッツ」は,やはり街の博物館だったのだろう.調べてみると,以前は「Historisches Museum der Wien(ウィーン市歴史博物館)」と呼ばれていたそうだ.

美術 | Posted by satohshinya at July 17, 2006 14:05 | TrackBack (0)