80年代の美術館@bern

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「Kunstmuseum Bern(ベルン美術館)」では数多くの企画展が行われていた,「Sam Francis und Bern」はフランシスの作品と,彼と交流のあったベルン在住の画家による作品を展示したもの,「Cécile Wick - Druckgraphik」は渋谷駅前を写した作品を含めた写真家の展示,「Berns mächitige Zeit」は地下にあるクラシカルな展示室に16〜17世紀の絵画を展示.一方,現代と題された企画展も3つ行われており,「 Guangzhou - Künstler/innen aus Kanton (China) aus der Sammlung Sigg」は中国・広東の現代美術コレクションを展示,他に「Serge Spitzer: Um die Ecke - Round the Corner」「Reisen mit der Kunst - Stiftung Kunst Heute」.青の時代のピカソやゴッホのひまわりなどを集めた常設展示もあって,コレクションによる企画展も行われている.

とにかく,どこで何をやっているのかよくわからないほど館内は迷路のようになっている.歴史のある美術館だけにコレクションはなかなか充実しており,「パウル・クレー・センター」のコレクションも元々ここのものだったのだから,その開館以前はどのくらい展示できていたのか想像もつかない.それに「クンストハレ・ベルン」のような場所もありながら,現代美術の展示も活発に行われているようだ.
もちろん建物自体も古く,オリジナルの展示室はまだよいのだが,現代美術を展示する辺りでは内部が改装されており(実際は増築),吹き抜けに斜めのブリッジが渡っていたりして結構安っぽい.70〜80年代に手が付けられたようなデザインで,この時代の展示室は質(たち)が悪い.20世紀初頭の建物のような空間でもなく,最近のホワイトキューブでもなく,なんとなくデザインが主張していたり,時代に即した工業製品(これが安っぽい)が使われていたりする.日本だけの話だと思っていたけれど,どうやらヨーロッパでも同じらしい.
と,ここまで書いたところで新館(と旧館に分かれていたらしい)の設計者が判明.アトリエ5の設計によるもので,1976年にコンペで当選,83年に完成したそうだ.アトリエ5はコルビュジエの弟子筋の人たちで,集合住宅では興味深いものがあるけれど,これはちょっといただけない.ちなみにwebを見るとベルン中央駅の改修もやっているようなので,これもそうかもしれない…….
ちなみにベルンではmuseen bernという小冊子が発行されていて,市内の30以上の美術館・博物館の解説を掲載している.同じ判型・デザインで3ヶ月毎のスケジュールを掲載したものも配布されている.地図も付いているのでとても便利.もちろん,ほとんどの美術館ではミュージアム・パスポートが使える.
ちなみに写真はエントリとは関係ありません.我が家から見た空の写真.

美術 | Posted by satohshinya at May 30, 2006 12:58 | TrackBack (0)

同時代美術との併走@bern

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「Kunsthalle Bern(クンストハレ・ベルン)」に行く.1918年のオープン以来,クレーやジャコメッティ,ムーア,ジャスパー・ジョーンズ,ビュランなどの大物たちの個展を行ってきたギャラリーらしい.訪れたときには,Carla Arochaというベネズエラの作家による個展「Dirt」をやっていた.

ここは元々美術館として作られたものであるが,現在から見ると,他の機能(例えば銀行)から転用されているようにすら思えてしまう.開館当時の展示作品が,いわゆる額縁に入った絵画や台座を持った彫刻であったことを思うと,やや高めの位置に取った窓から光を採る展示空間は当時の一般的なものであったのかもしれない.しかし,オリジナルの建物が真白い壁であったのかどうかはわからないが,やや装飾が施されていることを除けば,ここはホワイトキューブの原型のような展示室である.結局,現代美術のためのホワイトキューブは,インスタレーションなどの作品自体によって要請された空間ではなくて,元々ヨーロッパに存在していた展示空間を抽象化していっただけのことなのかもしれない.そして,かつての美術館の展示室にしても,当時のその他のビルディングタイプによる部屋と大きな違いがあったわけではないから,機能を転用した美術館が数多く存在していることも当たり前なのだろう.何れにしても,これらは思いつきで書いているだけなので,もう少し歴史的な検証が必要.
展示されていたArochaの作品もなかなか興味深く,ボリュームの異なる7つの展示室に繊細な素材を用いた作品が並んでいた.写真の作品「Hem」も,完全に反射する鏡とほぼ反射しながらも反対側が透けて見えるガラス(自動車の窓に使われるようなもの)をランダムに吊しただけのものだが,周囲の環境を写し込んだり透かしたりしながら複雑な表情を作り出していた.
しかしこの美術館は,歴史を持っていることもともかく,1年に7つの展覧会を開催して50ページもの記録集を無料で配布するなど,現在でも現代美術をサポートする施設として現役で活動しているところがさすが.モダン・アートからコンテンポラリー・アートまで,常に同時代と併走してきた美術館なんて日本では聞いたことがない.そして次回の展示は,曽根裕とのこと.

美術 | Posted by satohshinya at May 26, 2006 11:34 | Comments (1) | TrackBack (0)

最悪な展示室と最高なプログラム@bern

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「Zentrum Paul Klee, Bern(パウル・クレー・センター)」に行く.4,000点以上のパウル・クレー作品という,すばらしいコレクションを持つ美術館だが,その展示室はひどいものだった.昨年オープンしたばかりのレンゾ・ピアノの最新作.

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コレクションの中から約200点を展示する常設展示室(定期的に展示替えを行う)は,全体が微妙に扇形をしているが,それは前面を走るアウトバーンの円弧に合わせて建物全体がカーブしているためである.更に,高さ方向についても中央部分が山形に盛り上がっているが,これは3つの棟に分かれている建物が3つの波によってデザインされているためである.この全体を操作するデザインの話はここではどうでもよく,その結果に得られる効果がよければ問題ないのだが(この建築については,その効果自体も疑問なところがあるが),問題なのは,それによって肝心の展示室が犠牲になっていると思えることである.
展示室の床には,かなり細かいピッチ(600mmくらい?)で空調吹き出しがライン状に設置されている.さまざまな展示壁面のレイアウトにも対応できるように配慮したものだと思うが,この床の縞模様があまりにもうるさく,大変に鑑賞の邪魔になる.おまけに,このラインは建物の形状に合わせて円弧を描いている.
展示壁面は,展示室全体が山形の大空間となっているため,天井まで達していない四角い壁が吊されている.クレーの作品自体は大きいものはそれほど多くなく,現代美術のような巨大な展示空間を必要としないため,それ自体は問題ではない.また,照明も天井から吊り下げられており,部分的に紗幕天井が吊り下げられ,光を拡散させるとともに,そこに独立したスペースを作り出している.クレーのデリケートな作品を保護するために展示室内は暗く,全体は暗いながらも作品だけは多少明るめにするようなコントラストがまったく付いておらず,全ての展示壁面が一様に薄暗いため,更に作品に集中しにくくなっている.その一方で,拡散天井の上部には展示空間に匹敵する巨大な天井裏空間があって,そこには天井(建築)自体を照らし出す照明も付いており,展示壁面と比較すると非常に明るい.その明るい天井が拡散天井の隙間から見えるために明暗の差が大きくなって,より展示壁面が薄暗く感じられる.
もちろんピアノの作品だから,その天井裏にはアーチ状の構造体が露出しており,支持する端部のジョイントに至っては,ご丁寧に両脇の展示壁面の直上に並んでいる.そのディテールが美しいものであればまだよいかもしれないが,あまり魅力的でなく,単に鑑賞の妨げになっている.しかもアーチ状の大空間だけで成立していればまだしも,屋根の一部が土に埋まっているためか,展示室に柱が2本落ちており,それに取り付く梁の形状も最悪.つまり,構造デザイン的にも見るべきものがない.
そして,これは展示の問題だが,最近の流行なのか,展示室は明快な順路を持っていない.吊された展示壁面によって,オープンでありながら囲い込んだ場所を作り出すことで,完全な部屋になっていないながらも,独立した照明環境を持つエリアを作り出すことを意図している.アイディアは理解できるが,この展示室は本当にそれを実現できているのか? または,これが実現されたときに,本当にそれはよい展示空間なんだろうか?(展示室内が撮影禁止だったので,模型写真をアップ.これで少しはバカげた大空間の雰囲気が伝わるだろうか?)
ピアノは,「ポンピドーセンター」において,移動可能な壁面を持ったユニバーサルな展示室を提案したのだが,後年になって,固定された壁面を持った展示室に改修されてしまった.このことは,結果的に(当時の)美術館がニュートラルでミニマルなホワイトキューブを要請していたことを示している.「ポンピドー」のユニバーサルな展示を実現するための仕掛けは,美術作品の鑑賞を妨げるものでだったのだ.そして今回もまた,ピアノは同じ過ちを繰り返しているように思える.
一方で運営面では目を見張るものがあり,クレーが多面的な活躍を行っていたことから,この美術館も多面的な活動を行っている.クレーに関連した展示を行う企画展示室(今回は「Max Beckmann - Traum des Lebens」展)を持つだけでなく,オーディトリウムも併設され,専属のアンサンブルによる音楽や,演劇,舞踊の公演も行われている.また,子ども用のアトリエや展示スペースも充実しており(建築的にも気持ちのよい場所となっている),ワークショップなどが行われている.つまり,この美術館はクレーという過去の作家の作品を保存する役割だけに留まらず,クレーの活動を手本として,現代のさまざまな芸術をサポートする生きた美術館を目指している.その意味では,旅行者としてクレー記念館に訪れるという関わり方では,残念ながらこの美術館の本当の魅力を十分に理解することはできないだろう.
ともかく,クレーのすばらしい作品を見るためだけにでも,この美術館を訪れる価値があるだろうし,何らかのイベントが行われているときに来ることができれば,展示だけに留まらない美術館の多面的な活動を理解することができるだろう.

美術 | Posted by satohshinya at May 17, 2006 10:32 | TrackBack (0)

似て非なるもの

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写真だけ見ると美術館のように見える.しかし,どこかの美術館のようにファサードに動物の絵が描いてあるわけでなく,本物のキリン.

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これはカールスルーエにある動物園の中のキリン舎である.エントランス側の写真を見ると,上部にはハイサイド・ライトがあって,ますます美術館のように見える.内部に入るとトップライトまであって,現代美術館の展示室と大差がない.更に,肝心のキリンは巨大なインスタレーション作品にすら見えてしまう.
この動物園では,他にも象やライオン,カバ,ゴリラなども全て室内で鑑賞(?)する.広大な敷地の中に,ポツポツとパビリオンのように建物が建っている.目の前で見る象なんて,結構な迫力.

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おまけは,ベルン中央駅の脇にあった駅施設.これもどこかで見たようなファサード?

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at May 16, 2006 12:23 | TrackBack (0)

夜中の美術館

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「Die Lange Nacht des Lichtes(光の長い夜)」というイベントが行われた.タイトルの通り,さまざまなイベントが19時から始まり,夜中の1時まで続いた.これはMuseum für Neue Kunstの「Lichtkunst aus Kunstlicht」展に合わせたイベントで,全て入場無料,普段はZKMに来ることのない人たちを集めることを目的としていたのだが,おそらく1,000人以上が集まっていたと思う.企画の中心になっていたのはMuseumskommunikationという部門の人たち.日本で言うと,教育普及部門といったところだろうか.

人気だったのは,「Lichtkunst」展のガイドツアーで,整理券を求めて長蛇の列ができていた.ホワイエではコンサート,Madientheater(実験劇場のようなマルチスペース)では70/80年代音楽によるディスコ(笑)が行われ,先日ポップソング・ライブをやったスペースはそのままラウンジと化しており,ときおりバンドが登場して音楽が演奏されていた.子ども向けの企画も充実していて,ディスコに先立ちMadientheaterでは市内の子ども劇場が出張公演(?)を行ったり,自由に形を作った針金に光を当てて影を楽しむワークショップなどが行われていた.とは言っても,ほとんどがメディア・アートとは関係のなさそうな学園祭のようなイベントが繰り広げられているだけなのだが,それにしても,こんな夜遅くに大勢の人たち(しかも子どもから老人まで)が美術館に集まっているという状況はなかなか日本では考え難い.写真は20時30分頃のホワイエ(エントランス・ロビー).トップライトを見るとわかるように外はまだ明るい.
その中で,唯一と言ってよいメディア・アートは,Christian ZieglerとLudger Brümmerによる「Wald-Forest」という作品.16本の蛍光灯が垂直に吊され(それが森に立つ樹木のように見える),その間を人が通ると蛍光灯との距離によってサウンドが変化するというインタラクティブなもの.ビジュアル上のインスタレーションを担当のChristianはダンスの舞台美術をよくやっており,先日,日本公演も行ったとのこと.この作品もテストの段階でダンサーを連れて来て踊ったらしい.Ludgerは,ZKMのInstitut für Musik und Akustikのディレクターで,音楽を担当.会場はKubusという音楽用スペースで,40個のスピーカがドーム状に空間を覆っている.このスピーカ・システム(Klangdom)は最近Kubusに設置されたもので,その制御プログラムとともに画期的なもの(らしい).
こんなイベントはZKMでも年中やっているわけではないそうだが,日本の公共美術館でもやってみればよいと思う.しかし,こんな企画は通らないように思うし,通っても人が集まらないかな? できるのはここくらいか.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at May 12, 2006 12:35 | TrackBack (0)

パノラマ好き@luzern

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スイスの人はパノラマやジオラマが好きなようである.博物館に行くと,様々な時代に作られたアルプスのジオラマが並んでいる.その1つ「Alpeneum - 3D-Alpen-Panorama(アルピネウム)」は,場末の観光地にあるような,土産物屋とインチキな見せ物が一体となったもの.写真はその展示物.一応,1900年初頭(?)に作られた由緒あるものらしい.City Guideによると,「Sensational large panoramic painting with amazing depth effect!」とあるが,嘘をつくな!,という代物.
更に,その目の前にある「Bourbaki Panorama Luzern(ブルバキ・パノラマ」は,1881年に作られた360度のパノラマ画(Edouard Castres作)を常設した建物を,2000年にリニューアルしたもの.パノラマ画は学術的な見地も含めて復元され,更に絵のパースペクティブに合わせた立体の人間や貨車などを加え,更に音響効果も加えられている.その下階にある展示を見ると,その展示デザインも含めてかなり真剣に取り組んでいることがよくわかる.更に,そのリニューアル(増築?)された建物には,地下に映画館やギャラリー,1階にはショップやレストランやバーなどが配され,肝心のパノラマ画以外は若者向けコンテンツ満載の建物に生まれ変わっている.心意気は買うものの,何かが間違っているような気がしてならない.おまけにパノラマ画の復元の様子は,Jeff Wallの作品にもなっている.

もちろん,何れもミュージアム・パスポートによる無料入場.

美術 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 14:59 | Comments (3) | TrackBack (0)

邸宅から美術館,または銀行から美術館@luzern

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「Picasso Museum Luzern (ピカソミュージアム)」「Sammlung Rosengart Luzern(ローゼンガルト・コレクション)」に行く.
Picassoの方は,実際には,写真家のDavid Douglas Duncanによるピカソを撮影した写真を展示する美術館.1978年開館.もちろん,晩年のドローイングや版画などの小品は展示されているが,それほど特別なものではない.むしろ,展示空間となっているかつての邸宅(?)は一見の価値あり.1616〜18年に建設されたものとのこと.もう1つの美術館の名前に冠されているRosengart家の寄付によって作られたもので,この建物自体もRosengart家のものだったのだろうか? 一方で,この美術館は旧市庁舎であったというレストランと繋がっている.ということは,この美術館も旧市庁舎?
もう1つの美術館もまた,旧国立銀行を2002年に改修したもの.ヨーロッパでも,住宅や銀行のように,異なる用途の建物が美術館に改修して使われていることが多い.ここには,よくある近代画家たちの絵画が一通り並んでいるが,もちろん日本の公共美術館に比べると圧倒的にコレクションの質は高い.特に地下に展示されているパウル・クレーの作品は,何れも小さいものばかりであるが,作品数も125点と多く,かなり見応えがある.展示室も元銀行だけあって天井も高く,悪くない空間.

しかし,機能を転用した美術館の方が,新築のものよりもよかったりするのはなぜだろうか? 結局,元々の建物が持つコンテクストが魅力的だったり,意図して設計するよりも多様なバリエーションを持つ展示室を生み出すことができたりということなんだろうけど.青木淳さんが言っていた,リノベーションのように新築するということになっちゃうのかな? それが意図して設計できるものなのか,または意図して設計する必要があるのだろうか,ということが次に問題になると思う.これらのこととホワイトキューブの関係も,展示室を考える上で1つのポイントだろう.
余談.スイスの紙幣は,10CHF札はル・コルビジュエだが,100CHF札はアルベルト・ジャコメッティ.建築家よりも彫刻家が10倍高額であるのは正しい関係.200CHF札や1,000CHF札もあるようだが,誰なんだろう?

美術 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 14:16 | Comments (2) | TrackBack (0)