市の誕生日

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マルクト広場にあるラートハウス(市庁舎)でZKMの出張展示が行われた.

カールスルーエの市制記念日に行われるイベントの1つで,あちこちの広場でコンサートなどが行われている中,やはりメディア・アートらしく暗い室内での展示だった.もっとも,内容としてはアートというよりは,360°のパノラマスクリーンを紹介するもので,撮影した素材を連続した1つの映像に変換させるシステムが重要であるようだ.webで詳細なMovieを見ることができる.
写真は秋のカールスルーエ.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at October 26, 2006 16:59 | TrackBack (0)

サイト・スペシフィックと機能転用@colmar

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コルマールにある「Musée d'Unterlinden(ウンターリンデン美術館)」は1232年に創設された修道院を機能転用したもの.ここはグリューネヴァルトの『イーゼンハイム祭壇画』(1512-16)でよく知られている.

この有名な祭壇画は元々は異なる修道院に付属した礼拝堂に置かれていたもので,それが後年になって元修道院であった美術館の,やはり礼拝堂であった展示室に置かれている.つまりは,ある特定の場所のために描かれた(サイト・スペシフィックな)作品が,結果的に以前と同様な機能を持つ場所に展示されていることになる.
ここに限らずヨーロッパでは,19世紀以前の美術を展示するための場所に歴史的建造物を転用したものが多く見られる.そしてそれらは展示空間として成功しているものが多いように思う.これらは磯崎新の言うところの第一世代の美術館に当たり,「教会にあった祭壇画や彫像を台座ごと持ってきて飾ったもの」をコレクションしており,その後の第二世代が額縁や台座を予め持つ移動可能な近代美術に対応したホワイトキューブということになる.
それでは,なぜ第一世代の美術館では機能転用が成功したのか? 思い付いた理由を適当に挙げてみる.教会にあった祭壇画や彫像などの作品は,それらが設置された建築物と機能的には一体化していたが,空間や場所との密接な関わりが(サイト・スペシフィックでは)なかったためにどのような建築空間にも展示可能だった./近代以前の(ある規模の)建築空間には機能による明解な差異がなかったため,どの空間に展示しても大きな齟齬が起きなかった./そもそも展示室として機能する空間を持つ建築物だけが美術館に転用されており,あらゆる近代以前の建築物が美術館に機能転用できるわけではない./宗教画などは展示空間と強い関係を持たず,天井が高いなどの崇高さが必要なだけだった./作品が描かれた時代と,それを展示する建築物が建設された時代が一致していたため.何れもたいした根拠はない.
「ウンターリンデン」を例に考えてみる.祭壇画のある展示室は元礼拝堂であり,壁こそ白いものの天井にはゴシック様式による交差リブヴォールトが現れ,シンプルな平面形状の教会のように見える.グリューネヴァルトの作品は実際には聖人の木造が安置されている扉に描かれたもので,二重の扉の両面に描かれており,それらはバラバラに展示されていることになるらしい(写真は一枚目の扉に描かれたもの).同じ修道院の礼拝堂に展示されているといっても,祭壇の扉という機能や礼拝堂空間との関係性は無視され,中央部に独立したオブジェのように置かれている.むしろ新しく芸術作品としての役割を担い,それに相応しい展示が試みられている.しかし,この祭壇画がフローリングにトップライトの同じ大きさの空間を持つホワイトキューブに置かれていたとして,それは果たしてこの作品に相応しいだろうか? やはりそうとは思いにくい.元礼拝堂の空間が持つ何らかの性質が,芸術作品として扱われた祭壇画に対して何らかの働きかけを行っていると考えるのが妥当ではないだろうか?

美術 | Posted by satohshinya at October 26, 2006 16:16 | TrackBack (0)

カンディンスキーの壁画@strasbourg

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「Musée d'Art Moderne et Contemporain de Strasbourg(ストラスブール近代・現代美術館)」は,世界遺産でもある旧市街に隣接した場所に1998年にオープンした新しい美術館.設計のアドリアン・ファンシルベールはラヴィレットの科学産業博物館が有名で,ここもガラスのアトリウムを持つ大味な建築である.

名前の通り近代美術と現代美術の双方を扱う巨大な美術館である.1階に近代美術のコレクション,2階に現代美術のコレクションが展示されている.それらは近代はブラックやアルプなどの一般的なもので,現代はダニエル・ビュランやニエーレ・トローニなど(ここでコレクションの一部を見ることができる).その周辺のあちこちに企画展示室が散在していて,訪れたときに行われていた企画展は以下のとおり.1階の大きな企画展示室ではアメリカ人作家Christopher Woolの平面による個展.奥にある天井高の低い展示室ではBernard Dufourの個展「Rétrospective en 40 Tableaux」,そのメザニン階ではジョン・ハートフィールド「Photomontages Politiques 1930-1938」展.奥のもう1つの展示室にはギュスターヴ・ドレの作品があり,その一角にJean-Luc Parantのインスタレーション作品が設置されている.2階のプロジェクトルームでは,部屋全体に斜めの床を作り出した大掛かりなDitler Marcelのインスタレーション.このようにさまざまな企画が行われていたが,あまりおもしろいものはなかった.展示室も何れも特徴のない一様な空間で,特筆すべき点のない美術館だった.
唯一その中では,近代美術コレクションの中で展示されていたカンディンスキーがデザインした陶製の壁画が興味深いものであった.これはミース・ファン・デル・ローエに要請され,1931年にベルリンで行われたドイツ建築展の会場の音楽室に設置された作品を再制作したものである.デザインももちろんのこと,セラミックの持つ表情がおもしろいインテリア空間の可能性を改めて示唆している.
ストラスブールには他にも美術館がある.大聖堂の横には,18世紀の古典主義様式による司教館であったパレ・ロアンが,今では「Musée des Beaux-Arts(美術館)」装飾博物館考古学博物館の3つのミュージアムに機能転用されている.2階にある美術館は14〜19世紀のヨーロッパ絵画をコレクションに持つ.その隣にある「Musée de l'Œuvre Norte-Dame(ルーブル・ノートルダム博物館)」は,14世紀と16世紀の建物を機能転用して11〜17世紀の絵画や彫刻をコレクション.一般的に日本語では博物館と訳されているが,美術館と呼べる内容.これらのミュージアムをまとめて紹介しているのがMusées de Strasbourgで,ここでは美術館と博物館の区別は存在しない.
写真はストラスブール駅をガラスキャノピーで覆うという意味不明なプロジェクトの構造.パースを見ると,前面だけが覆われるらしい.何のために?

美術 | Posted by satohshinya at October 3, 2006 9:44 | TrackBack (0)

トップライトの影@baden-baden

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「Staatliche Kunsthalle Baden-Baden(州立クンストハレ・バーデンバーデン」)」は,Hermann BilingとWilhelm Vittali設計により1909年にオープンした.2人ともカールスルーエ生まれの建築家.ここはクンストハレの名前の通り,コレクションを持たない企画展専用の美術館である.温泉で有名な保養地のバーデンバーデンだけあって,美しい公園の中に位置しているのだが,その入口脇にはリチャード・セラの作品が置いてあったりして,箱根の美術館とはちょっと違う.

展示空間がなかなかよい.1階の入口から2階への階段を上がると最も大きな展示室(Großer Lichtsaal)に直接出る.その天井はトップライトを持つのだが,隅の方では屋根の上に掛かる木の影がガラスに映っていて,なんとも風情がある.ニュートラルなホワイトキューブでは,光天井に木の影が映るなんてあり得ないのかも知れないけれど,この場所ではこのくらいの緩いトップライトが相応しく思える.平面図を見ると,1階に展示室が1室あり,2階に敷地なりにいくつかの異なる大きさ・形のホワイトキューブが並んでいるだけで,それほど特別なものには見えないかもしれないが,十分に小気味よい美術館となっている.特別なものが何もないことがよいというわけではないのだけれど,特別なものがなくてもよいものができる可能性があるということだろう.
シュテファン・バルケンホールの個展を開催中で,その作品が非常によかったことも美術館がよく思えた原因の1つだろう.日本で見た作品もいくつかあったけれども,やはり展示空間がよいと更に作品もよく見える.これまでにも意欲的な展覧会を行ってきたようで,こんな場所でも十分に現代美術が通用するというのはうらやましい限りだ.
その一方で,「クンストハレ」とガラス張りのブリッジで結ばれた隣に,2004年にオープンした「Museum Frieder Burda(フリーダー・ブルダ美術館)」リチャード・マイヤー設計だが,まさに箱根の美術館のようだった.マイヤーの作品としてはディテールを含めてよくできていると思うし,さすがにバーデンバーデンだけあってお金もたっぷり掛けられているようだ(こちらは建設のドキュメント).しかし,美術館としては首を傾げざるを得ない.周囲の緑を展示室に取り込むべく各所にスリット上の窓が開いているのだが,これが結果的に分節過多の落ち着きのない空間を作っている.もともとマイヤーの建築はそういう傾向があるのだが,これではバルセロナの方がまだよかった.
ここは個人コレクションを収めた美術館で,近代美術だけでなくゲルハルト・リヒタージグマール・ポルケなどのドイツ現代作家の作品を中心に集めている.地下の展示室でその作品の一部を見ることができる.企画展は「Chagall in Neuem Licht」展を開催中で,シャガールの代表作が数多く集められていたのだが,散漫な展示空間のために作品までもよくないように思える.もしかすると人によっては,ここはよくできた美術館であると思うのかもしれないけれど,ここまで壁や柱や窓やスロープが散りばめられた空間では,作品鑑賞以前にそれらの建築要素が気になって仕方がない.周囲の木々にしても,直接スリットから垣間見えるよりも,光天井に影を落とすくらいのささやかなあり方の方が,この場所と展示空間をうまく結びつけているのではないかと思う.

美術 | Posted by satohshinya at October 1, 2006 8:45 | Comments (2) | TrackBack (0)

有効なポストモダン@stuttgart

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ジェームズ・スターリング設計の「Staatsgalerie Stuttgart(シュトゥットガルト州立美術館)」の新館は,ポストモダン建築の傑作だろう.建築史家であるokw先生とこの美術館を訪れた際に,ポストモダン建築の代表作を挙げるとすると,やはりこれと磯崎新の「つくばセンタービル」だろうと話をしていた.

ポストモダンの話はともかくとして,この美術館は1984年の新館(Neue Staatsgalerie)だけでなく,Gottlob Georg von Barth設計による1843年の旧館(Alte Staatsgalerie),バーゼル現代美術館の設計者でもあるWilfrid and Katharina Steibによる2002年の旧館増築(Erweiterungsbau der Alten Staatsgalerie)と,世紀毎に更新された3つの建物によって構成されている.現在は旧館が再編成中であるため,新館のみがオープンしている(10月4日まで).
その新館で注目すべき企画展である,世界中の美術館からクロード・モネの代表作40数点を一同に集めた「Claude Monet: Effet de Soleli - Felder im Frühling」展が行われていた.ヨーロッパだけでなく,アメリカや日本の西洋美術館からも出品されているこの展覧会は,今までモネの作品にそれほど興味のなかったぼくも,はじめてその魅力を知ったすばらしいものだった.もちろん,これまで日本で見てきたモネが,これらの傑作と比較するとそれほどではなかったということだったのかもしれない.同じモチーフの作品を並べて展示したり,展示壁にもさまざまな色を塗り分けてみたり,点数がそれほど多くないながらも非常に充実した内容だった(webで展示作品の一部を見ることができる).
この企画展示室は新館に位置しており,ガラスの入口扉を入ると,フローリングの床と白いグリッド状のルーバー天井を持つ大きな空間に,構造的にはオーバーと思える形状の打ち放しコンクリート柱が林立している.ルーバーの中に入り込んだ柱は,ご丁寧に白く塗られている.この展示室は,ともすると妙な装飾が施されているように思えるかもしれないが,スケールが適切であるとともに意外とこの柱がチャーミングに見え,不思議な魅力を持つ展示空間となっている.ちなみに同様なデザインによる講堂もあるのだが,普通の椅子を並べただけのラフな場所となっていて,こちらも魅力的であった.
旧館と新館の2階が常設展示室になっている.旧館は壁さえ白く塗ればホワイトキューブとなる古典的な展示室が連続し,1900年までの作品が並べられている.作品を年代順に追っていくとすると,観客はそのまま同じレベルで1900年以降の近代美術が展示される新館へと鑑賞を続けることになる.その接続部には外壁の名残を思わせるゲートがあって,旧館と同じように見える連続した展示室へと繋がってゆく.新館は旧館と比較すると,展示室の大きさに若干違いがあり,ホワイトキューブと呼ぶべき白い空間と変化しているのだが,天井にトップライトを持ち,部屋を繋ぐ入口に装飾的な要素が施されていたりして,観客は新旧の違いを明確に意識せずに鑑賞を続けることになる.つまりここでスターリングは,建築デザイン上の対比だけでなく,内部空間における展示空間の時間軸に沿った対比も試みている.
この新館は,シンケルのアルテス・ムゼウムの平面構成を反転させ,中央のドーム部分を外部化し,そこに美術館とは絡まないパブリックな動線を通過させるという,歴史的・都市的な知的操作が行われていることが魅力と言われている(それ故か,一部に旧館の設計者がシンケルとあるが,それは間違いだろう).しかし,同時に展示空間に対しても同様な知的操作が加えられており,無理なく一体となった美術館を成立させている.建築におけるポストモダンは,単なる無作為な歴史的様式のコラージュとして,特に日本ではバブル期の商業建築の隆盛と結び付いてしまったため,今では過去の流行として忘れ去られるどころか忌み嫌われてさえいるような気がする.確かにこの新館も外見上の色や形に対する好みの問題もあるだろうが,これらの知的操作がポストモダンの大きな成果であるのだとすれば,まだまだ現在でも有効であると思える.

建築, 美術 | Posted by satohshinya at September 12, 2006 10:58 | TrackBack (1)

美術のための美術館@stuttgart

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「Kunstmuseum Stuttgart(シュトゥットガルト美術館)」は2005年にオープンしたばかりの新しい建物だが,コレクションのスタートは1924年に遡る.ベルリンの建築家であるRainer HascherとSebastian Jehleの設計による建物は,一見して単純なガラスの箱に見えるが,実は基壇の下に広大な展示空間を持つ.

1階と地下が常設展示室だが,特に地下が細長く変な空間だと思っていたら,プランを見てみると両側から道路に挟まれている特異な敷地条件による結果であることがわかった(特設サイトを参照).実際に訪れた限りでは,そのような地下道路の存在は全く窺い知ることができない.その悪条件を解いているということを差し引いたとしても,この地下の展示空間はあまり魅力的ではない.敷地自体が細いのに,吹き抜けを介して上下階に関係を持たせているため,なんだかスカスカの締まりのない展示室となってしまっている.1階も基壇部分にトップライトを嵌め込んでいるのだが,その光の落ちる先は廊下ばかりである(この辺の写真を見るとわかる).展示空間をキチンと作るよりは,どちらかというと建築表現を優先しているように見える.
更に上階のガラスの箱に入るとその傾向は顕著で,2〜4階が企画展示室だが,ガラスが廻るのは廊下状の部分だけで,その中に展示のために壁で覆った空間がある.しかもその空間は固定した壁で仕切られていて,中央には吹き抜けまであったりする.なんとも使いにくそうな展示空間だ.地下も上階も展示空間自体はいわゆるホワイトキューブで,天井は大部分が光天井だが,自然光は入ってこないようだ.
幸か不幸か企画展では「Leuchtende Bauten: Architektur der Nacht」展をやっていて,建築の夜景について,ブルーノ・タウトからはじまりH&deMやらヌーベルやらの模型や写真が並んでいた.コールハースのZKM(コンペ案)の模型を見ることができた以外は,こんなところでこんな展示を見たくなかったというのが正直なところ.一方で,テーマに合わせた暗い展示室を実現するためには,この閉鎖的な建物はピッタリであった.いや,これはほめているのではなくて嫌味です.
常設では,地下にあったレベッカ・ホーンのインスタレーションがよかった.吹き抜けのあるラフな展示空間だったが,これくらい力強い作品だと気にならない.その一角では「Frischzelle_04: Albrecht Schäfer」展という若手作家の展覧会がはじまるところだった.現代美術も視野に入れているのであれば,もう少し展示空間を考えてほしい.
唯一の見所であると期待していったのが,裏側の基壇に設置されたカールステン・ニコライ「Polylit」.ニコライはミュージシャンでもあり,Alva Noto名義で坂本龍一コラボレーションをやっていて,10月には日本ツアーも行われる.もちろんアーティストとしても,昨年にベルリンとYCAMですばらしいインスタレーションを発表したばかり(見てないけど).ということで期待していたが,実際にはインタラクティブな仕掛けがあるようなのだがよくわからず,単なる彫刻にしか見えずにガッカリ.
ちなみにこの美術館,Thomas Mayerという建築写真家(だと思う)が大量の写真をwebに載せている.この人のwebは充実していて,いろいろな建築の写真を見ることができる.驚いたのがこの写真で,他にもこんな写真をはじめとして長期に亘るドキュメントを大量にアップしている.この辺とともにいろいろ検索してみてほしい.しかしこの建物,完成したんだ.ドイツにあるんだよね.行ってみようかな?

美術 | Posted by satohshinya at September 10, 2006 10:14 | TrackBack (0)