展示室にある縦長の扉@luzern

R0010469.jpg

初めてのスイス.ルツェルンにて「Kunstmuseum Luzern(ルツェルン美術館)」へ行くと,4つの展覧会が同時に行われていた.「Kunst überforden」と題されたAldo Walkerという画家の回顧展.どれもどこかで見たようなコンセプチュアル・アートという感じで,年代によって様々に作風が変化しているが,それが更に一貫性を失なわせている.展示壁面に直接描くグラフィックのような作品(再制作)など,悪くないものもあるのだが,全体的にはB級に見えてしまう.「Der Lesesaal」は読書室という意味だが,スイスの有名な画家(らしい)Hodlerなどのコレクション展.それと同時に,それらの画家にまつわるテキストを展示室内で読むという企画.そのために読書用の特別な家具(Vaclav Pozarekによる)までもデザインされている.本を読み上げる人たちの映像を映し出すビデオ・インスタレーションも同時に展示され(Rémy Markowitschによる),絵画とテキストの関係を探ることで単なるコレクション展には留まらない工夫をしている.しかし,残念ながらドイツ語がわからず,その効果は不明.この2つがメイン展示となっており,奥まった展示室に,「Have a nice Day」と題されたWerner Meierという画家の新作展と,Barbara Daviによる「NANTUCKET」というインスタレーションが展示されている.

美術館は,ジャン・ヌーベル設計による「Kultur- und Kongresszentrum Luzern (KKL)(ルツェルン文化会議センター)」の最上階の一部を占めており,他にもコンサートホールや会議場などを持つ大型複合施設であるが,コンベンションが行われていて,ホワイエの中にすら入れてもらえなかった.この建物は,Vierwaldstätterseeという湖の湖畔に位置しており,カペル橋などの観光名所に向き合うと同時に,「ルツェルン中央駅」(カラトラヴァ設計)が目の前にあって利便性もよく,更に背景にはアルプスの山々が広がる絶好の場所にある(写真右端の黒い建物がKKL).その割には,写真で見ると格好のよい外観に見えるが,実際にこれらのコンテクストを同時に目にすると,やや閉鎖的な印象が強すぎる.特に駅側のグレーチング状のものに覆われた立面は牢獄のよう.
建物全体は大きく3つの棟に分割されており,駅側の2つの最上階に美術館がある.基本的には,駅に最も近い幅の狭い棟は,手前の展示室(5室)がコレクションを中心とした展示で,その奥の1室はプロジェクトルームといった趣き(今回のインスタレーション展示)であり,幅の広い棟は,手前の展示室(10室)が企画展で,奥まった2室が小さな個展を行うようなスペースである.見に行った日が,ちょうど幅の狭い棟の展示初日に当たっていたが(「Der Lesesaal」,「NANTUCKET」),全てを一斉に替えるのではなく,部分的に展覧会を入れ替えながら活動しているようだ.
展示室は標準的なホワイトキューブで,全て同一レベルにあり,広い空間がいくつかの大きさの部屋にグリッド状に分割されているが,天井高は変化しないために,印象としてはやや単調である.天井は全面が光天井(おそらく自然光も入れることができる)による同一のシステムで,きれいだけれども,これも単調.ビデオが展示されていた部屋は,天井全体の明るさを落として対応しており,それは後述の小さな入口と相まって効果的.床は濃いグレーのテラゾーのようなもので,これは目地も少なくミニマルな表情がよかった.
2つの棟の間には,展示室同士を繋げるガラス張りのブリッジが何本かあり,そこから湖の風景を垣間見せることによって,展示室の単調さを回避しようとしているようだが,それにしてもブリッジが奥まりすぎていて,それほど開放的ではない.一方の棟には外部避難階段が湖側に下りていて,それに通じる出口もガラスの扉となっており,それに合わせて展示室同士の入口が開いているため,最も奥の部屋からも外の光が見えるといった工夫もされている(詳しくはこちらの写真を参照).
最もおもしろかったのは,展示室同士を繋ぐ全ての入口が,高さも幅も小さく抑えられており(W1.2m×H2.4mくらい?),そのために小気味よく部屋が分割されていて,その一方で,全ての部屋の壁の一隅に,幅は1.2mくらい,高さは天井高さいっぱいの扉が付いており,どうやらそこから作品を展示室に搬入するらしい.壁の目地が気になると言えば気になるけれども,なかなかおもしろいアイディア(残念ながら,展示室内は撮影禁止).巨大な立体作品はどうするのだろうとも思うけど,あんまり大きいとエレベータにも載らないだろうから十分成立しているだろう.
おまけ.美術館のチケットを持っていると入ることのできるArt Terraceがあるのだが,巨大な大屋根の真下の空間で,建築空間としてはおもしろいかも知れないけれど,なんだかよくわからない場所.
更におまけ.コンサートホールなどのホワイエ面のガラスには,様々な言葉と筆者(話者?)が,様々に印刷されており(コスースか誰かの作品?),それは悪くないグラフィックだった.
ちなみに,ヌーベルに関するおまけ.駅前にあるバス停もヌーベルのデザイン? 同じルツェルンにある「The Hotel Luzern」は,客室(の天井)はよさそう.外から見ただけだけれども.

美術 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 9:39


TrackBacks