動く美術,そして音楽と建築@basel

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ジャン・ティンゲリーはスイスのフリブールで生まれ,バーゼルで育った.そして「Museum Tinguely(ティンゲリー美術館)」が,スイス人建築家マリオ・ボッタの設計によって,1996年にバーゼルに建てられた.

凸レンズ型の屋根架構を用いることで,天井高のある巨大な無柱展示室を実現させており,自然光は妻側のガラス面から入ってくる.坂倉準三と村田豊設計による「岡本太郎邸(現岡本太郎記念館)」(1953)の大型版といった感じ.展示空間としてはどちらかというと大雑把な印象で,普通の絵画の展示には不向きに思えるが,ティンゲリーのような作品にはこのくらいの場所がふさわしい(ここの写真参照).地階にもティンゲリーの作品が並んでいて,作品の中には光やプロジェクタを用いているものもあるために薄暗い展示室が用意されている.2,3階には企画展示室があって,企画展ではティンゲリーの友人などの展示が行われるらしい.
さすがにティンゲリーの作品はどれも素晴らしいものばかり.もちろん初めて見るものが多く,通常は他の作品鑑賞が騒音によって妨げられるために稼働を制限している場合が多いが,ここの作品は全てボタンが足下にあり,全ての作品を子どもでも稼働させることができる(実際には稼働後に再び稼働可能となるためにはインターバルが必要なため,動いている様子を全て見るためには時間が掛かる).ティンゲリーの作品は動かなければ意味がなく,やはり実際に動くところを見るととても楽しい.しかし,ティンゲリー以降にキネティック・アートで特筆すべき作家が現れていないのは残念で,これらのローテクノロジーを用いたアートは,ハイテクノロジーを用いたメディア・アートへと形を変えてしまったのかもしれない.
企画展示室はホワイトキューブによる普通の美術館.そこでは前衛音楽家エドガー・ヴァレーズを紹介する「Komponist Klangforscher Visionär」展が開催されていた.楽譜などの様々な展示をはじめ,もちろん音楽作品も聞くことができる.音楽に関して詳しい知識がないのが残念だが,時間があれば隅々まで見て,聞いて回ると楽しい展示だろう(参考リンク:).ル・コルビュジエとヤニス・クセナキス設計の「ブリュッセル万博フィリップス館」(1958)に関する展示も行われていたが,建築はもちろん知っていたけれども,ここでヴァレーズの作品が演奏されていたことは知らなかった(参考リンク:).展示に併せて分厚いカタログも作られていて,おそらく資料的な価値も高い貴重な展示であったと思う.
この建物はライン川沿いに建てられていて,そのライン川を望むことのできるガラス張りの空間があるのだが,これが単なる1階から2階に上がるスロープ状の動線空間.しかも建物本体とブリッジで接続する分棟配置.ティンゲリーの作品を展示することは設計時から明らかなのだから,絶好の場所をこんな建築的表現で使用するよりは,作品と一体となった空間とすべきであった.非常に無駄な空間になっている.
庭園にはティンゲリーの噴水があり,これがまたすばらしい.噴水を作らせるとティンゲリーの右に出る人はいないのではないかと本気で考えてしまう.建物はともかく,これらのティンゲリー作品を見るためだけに,この美術館を訪れる価値は十分にあるだろう.

美術, 音楽 | Posted by satohshinya at August 13, 2006 6:56


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