ミュージアム・テーマパーク@wien

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「Museums Quartier Wien(ミュージアム・クォーター・ウィーン)」(通称MQ)なる場所がウィーンには存在する.広大な敷地にはフィッシャー・フォン・エルラッハ設計による帝国厩舎があり,それを保存しながら中庭部分に大きな2つの美術館とギャラリー,ホールが増築され,巨大ミュージアム・コンプレックスとして2001年にオープンした.最初はマスタープランを元に複数の建築家がそれぞれを設計したのだろうと思っていたら,1つの設計事務所が全てをやっていたことがわかった.槇文彦,ハンス・ホライン,ラファエロ・モネオなども参加した国際コンペの結果,オルトナー&オルトナーというオーストリア建築家が選ばれた.実際にはManfred Wehdornという建築家が協働して文化財保護指定部分の改修を担当したようだが,全体のデザインはオルトナー&オルトナーによるものだろう.

結論から言うと,このMQが最悪の建築であった.中心に建つ乗馬学校を転用したホールを挟み,ほとんど同じボリュームの2つの美術館が建っているのだが,それらが無意味と思われる程に異なった建物としてデザインされている.対称に向き合う酷似したボリュームをどのようにデザインするかという命題に対し,ほとんど関係性を持たせないというニヒリスティックな方法を採ったのかと思えなくもないけれど,単純にやりたい放題にバラバラなことをやっただけとしか思えない.もちろん,エルラッハの建築への配慮も対称にボリュームを配置したくらいのことだけで,ほとんど無視している.その結果,周囲を取り囲む歴史的な建物さえも偽物のように見えてきて,おまけにMQをまとめるサイン計画のグラフィック・デザインがよくないためか,全体としてはテーマパークにしか見えてこない.新しい建物に目をつぶれば,中庭部分はいくつも並べられた寝椅子のような家具のおかげもあって,大勢の人で賑わう居心地のよい場所だが,更に魅力的な場所となるポテンシャルがあったように思う.
個別に見てみる.まずは「Leopold Museum(レオポルド美術館)」.ここには大変にすばらしいエゴン・シーレのコレクションがある.通常の2層分は十分にある天井高の展示室に,しかも窓からの自然光が入ってきていて,Bunkamuraでこれらのコレクションを見たことがあるのだが,全く別の作品を見ているような最高のコンディションで鑑賞することができる.クリムトの作品もあるが,これも非常によい.2階は企画展示のスペースで,Alfons Waldeの個展をやっていた.最上階の3階にはシーレ,クリムト以外のコレクションが並んでいるのだが,いくつかの展示室の中央に吹き抜けが開いていて,トップライトからの光が2階にも落ちるようになっている.建築的な見せ場であろうと思われるエントランスホールは,それらの展示室中央に3層吹き抜けの場所としてあるのだが,ここには作品は並んでいない.これだけ大きい空間を獲得できるということは,大きなスケールの作品をも展示できる可能性があるはずなんだけど,そんなことは考えていないのだろう.周囲を閉ざされた無意味な大ホールや,展示室内の邪魔な多数の吹き抜けなど,インテリアもやりたい放題.地下でも企画展示「Körper, Gesicht und Seele」展をやっていたが,時間がなくて行けず.
そして「Museum Moderner Kunst Stiftung Ludwig Wien(近代美術館ルードヴィヒ・コレクション・ウィーン)」(通称MUMOK).1962年に創設し,この場所は3つ目らしい.こちらは白い「レオポルド」に対して,黒い外壁で.しかも頭頂部がRを描いている.何をやりたいんだかよくわからない.「レオポルド」と同じくらいのボリュームにも関わらず普通の階高なので8層くらいあるが,展示室自体は至って普通の美術館.地下では「Wiener Aktionismus」展というボディ・アートをひたすら集めたコレクション.最近は美術作品には寛容になってきた日本でも,さすがにこの展示はできないのではないかと思われるものたちが一同に会している.これはこれで興味深いのだが,さすがにこればっかりでは辟易する.3階ではコレクションを中心とした「Nouveau Réalisme」展という60年代アート.イブ・クラインからクリムトの梱包まで.その上では「Why Pictures Now」展という現代の写真,フィルム,ビデオを集めたものなのだが,その夜に開かれるオープニング・パーティーの準備中で入ることができず.最上階には近代美術のコレクションもあるようだが,これも見ることができず.
この2つの美術館,機能を考えれば仕方がないのだけれども必要以上に内向きな空間で,多少は外に向けた窓などはあるものの,周辺との関係が希薄なオブジェのような外観ばかりが目立つ.おまけに少し斜めに振って配置されていたりする.オルトナー&オルトナーのホームページを見ればその志向性は明らかで,おまけに選んでいる写真(しかも白黒!)を見るとかなり質(たち)が悪い.建つ場所によっては,その建ち方にもう少し意味があればそれほど悪くない美術館なのかもしれないが,ここにこのようにあると単なるテーマパーク.
中央には乗馬学校を利用した「Halle E」「Halle G」があって,その後ろにオルトナー&オルトナーの増築による「Kunsthalle Wien(クンストハレ・ウィーン)」がある.1992年に創設し,ここに移ってきたようだ.ここでは2つの展示をやっていたが,展示室自体は「MUMOK」と同じようなもので特筆することはない.大きな展示空間があって,そこに展示壁面を作るというタイプ(QuickTimeは展示壁面がない状態).下のHall 2では「Black, Brown, White」展という南アフリカの写真家による作品を集めたもの.上のHall 1では「Summer of Love」展というサイケデリック・ムーブメントの作品を集めたもので,かなりの数の作品があって見応え十分.カールスプラッツにも「クンストハレ」のガラス張りのではプロジェクトスペースがあるのだが,こちらは夕方から夜のみの開館で,時間が合わずに入れなかった.
「Halle G」ではJossi Wielerさん演出の『四谷怪談』公演を見た.日本公演,ベルリン公演に続くヨーロッパ公演.『クァクァ』『4.48 サイコシス』の皆さんと再会.ウィーンで日本語の演劇(独語字幕付き)を見るのも変な感じ.
その他,建築センターやらアーティスト・イン・レジデンスやらチルドレン・ミュージアムやら,胸焼けする程いろいろな施設がMQには詰め込まれている.今回はテーマパーク然とした建築のために十分に楽しめなかったが,活動だけを見てみると興味あるものが多くある.今度はもう少し冷静になって見てみたいものだ.

美術 | Posted by satohshinya at July 25, 2006 1:19


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Comments

最初のアップから多少修正しました.

Posted by satohshinya at July 25, 2006 10:59 AM