サイト・スペシフィックと機能転用@colmar

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コルマールにある「Musée d'Unterlinden(ウンターリンデン美術館)」は1232年に創設された修道院を機能転用したもの.ここはグリューネヴァルトの『イーゼンハイム祭壇画』(1512-16)でよく知られている.

この有名な祭壇画は元々は異なる修道院に付属した礼拝堂に置かれていたもので,それが後年になって元修道院であった美術館の,やはり礼拝堂であった展示室に置かれている.つまりは,ある特定の場所のために描かれた(サイト・スペシフィックな)作品が,結果的に以前と同様な機能を持つ場所に展示されていることになる.
ここに限らずヨーロッパでは,19世紀以前の美術を展示するための場所に歴史的建造物を転用したものが多く見られる.そしてそれらは展示空間として成功しているものが多いように思う.これらは磯崎新の言うところの第一世代の美術館に当たり,「教会にあった祭壇画や彫像を台座ごと持ってきて飾ったもの」をコレクションしており,その後の第二世代が額縁や台座を予め持つ移動可能な近代美術に対応したホワイトキューブということになる.
それでは,なぜ第一世代の美術館では機能転用が成功したのか? 思い付いた理由を適当に挙げてみる.教会にあった祭壇画や彫像などの作品は,それらが設置された建築物と機能的には一体化していたが,空間や場所との密接な関わりが(サイト・スペシフィックでは)なかったためにどのような建築空間にも展示可能だった./近代以前の(ある規模の)建築空間には機能による明解な差異がなかったため,どの空間に展示しても大きな齟齬が起きなかった./そもそも展示室として機能する空間を持つ建築物だけが美術館に転用されており,あらゆる近代以前の建築物が美術館に機能転用できるわけではない./宗教画などは展示空間と強い関係を持たず,天井が高いなどの崇高さが必要なだけだった./作品が描かれた時代と,それを展示する建築物が建設された時代が一致していたため.何れもたいした根拠はない.
「ウンターリンデン」を例に考えてみる.祭壇画のある展示室は元礼拝堂であり,壁こそ白いものの天井にはゴシック様式による交差リブヴォールトが現れ,シンプルな平面形状の教会のように見える.グリューネヴァルトの作品は実際には聖人の木造が安置されている扉に描かれたもので,二重の扉の両面に描かれており,それらはバラバラに展示されていることになるらしい(写真は一枚目の扉に描かれたもの).同じ修道院の礼拝堂に展示されているといっても,祭壇の扉という機能や礼拝堂空間との関係性は無視され,中央部に独立したオブジェのように置かれている.むしろ新しく芸術作品としての役割を担い,それに相応しい展示が試みられている.しかし,この祭壇画がフローリングにトップライトの同じ大きさの空間を持つホワイトキューブに置かれていたとして,それは果たしてこの作品に相応しいだろうか? やはりそうとは思いにくい.元礼拝堂の空間が持つ何らかの性質が,芸術作品として扱われた祭壇画に対して何らかの働きかけを行っていると考えるのが妥当ではないだろうか?

美術 | Posted by satohshinya at October 26, 2006 16:16


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