見られるアトリウム

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HfGのアトリウムを使って,ローリー・アンダーソンのコンサート「The End of the Moon」が行われた.仮設の舞台と客席による大掛かりなもの.

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このコンサートというよりもパフォーマンスと呼ぶべきものは,ローリーがNASA最初のレジデンス・アーティストとして招待されるところからはじまる物語を語り続ける作品で,途中にヴァイオリンによる弾き語りなどが加わる.上部にはLEDの表示板が吊され,ドイツ語が訳し出されていたから,もちろん即興などではなく厳密に決まった物語を語っていたのだろう.しかし,これがとても長かった.1時間半以上は延々と語り続けている.ローリーの語り方は魅力的だが,ぼく自身の英語能力の貧しさとも相まって,さすがに途中で飽きてしまう.
舞台上にはソファとキーボード,スクリーンが置かれ,床にはロウソクが灯されている.配布されたパンフレットによれば,このパフォーマンスを成立させるために非常に難しいことをやっているそうだが,残念ながらその複雑さを十分に理解することができなかった.おそらく,物語とともに音楽も精密に作られているのだが,それにしても長い.もちろん,洗練された良質なパフォーマンスであるという意見には異論がないが,この長さにはバランスの悪さを感じてしまう.それでもドイツの観客は辛抱強く聞いている.音楽家のイシイさんによれば,ドイツに限らず西洋の人たち(アメリカ人であるローリーも含む)は「間」というものに対する感覚が乏しいためか,同じ調子で淡々と長々と続くことに対して抵抗が少ないらしい.
しかし,ここのアトリウムはいろいろな使い方がされていて,まさしく多目的スペースと呼ぶに相応しい.たった一晩のコンサートのためにこんな労力を掛けるのも大したものだが,こういった使い方に応えるタフな空間があることも重要.もちろんコンサート会場としては最悪の音響であるが,照明用のバトンが吊せたり,舞台上手奥に大きな搬入口があったり,イベント会場としては十分に機能する.上部のトップライトを全て覆うのはかなりの労力のようだが(ちなみにZKMは電動ブラインドを装備),力任せに使い倒している感じが好ましい.

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アトリウム内に舞台が作られ,並べられた客席の後部は2階がバルコニー状に巡る下部にまで延びている.その舞台と客席を囲い込むバルコニーには調整ブースが設置されるとともに,ZKMの人たちが無料で鑑賞していた.まさにバルコニー席である.ちなみにこの建物は元々兵器工場であったが,そのときにはアトリウム部分で強制労働が行われ,バルコニーから監視を行っていたらしい.見る見られる関係を持った建物の構成が,そのまま現在でも有効であるようだ.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at June 13, 2006 10:05


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