ブラックキューブ@stuttgart

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「Württembergischer Kunstverein Stuttgart(ヴュルデンベルク・クンストフェライン・シュトゥットガルト)」では2つの展覧会をやっていた.1913年の開館当初からコンテンポラリーアート(同時代美術)を対象としている由緒ある美術館である.こんな美術館を訪れると,ヨーロッパでは過去100年くらいの美術が一続きの歴史を持っていることに改めて気付かせられる.

メインの展示室を使った「Kunst Lebt!」展は,バーデン・ヴュルデンベルク州にある11の美術館・博物館のコレクションを一堂に会したもの.もちろん,その1つであるZKMからも多くの作品が出展されている.「Kunst Lebt!」とは,英語で書くと「Art Lives!」のことで,ワールドカップ(ドイツではWM-Weltmeisterschaftと呼ばれる)開催に合わせた企画とのこと.ZKMのメディア・アートから博物館の遺跡やオオサンショウウオに至るまで,さまざまなものが並列に展示されている.もちろんキュレーターの意図があって配列されているのだと思うが,美術館や博物館では並べて展示されないモノたちが集まった光景はなかなか圧巻で,常識的なコンテクストを無視したポストモダンな展覧会であった.
ドーム屋根を持つ巨大な円形の展示室と,奥にはこれまた巨大な四角い展示室(この辺は1961年の増築らしい)があって,エントランスや途中のテラスに面した廊下状の部分に至るまで,あらゆるところに展示が行われていた(美術館自体の平面図はwebよりダウンロード可能).そこにバーデン・ヴュルデンベルク州にある建築系大学の先生と学生による展示構成が行われており,いかにも建築家が考えそうなシステマチックな構造体が挿入されていて,複数の展示空間を貫いている.悪くはないけれども,ちょっとそれ自身が主張しすぎており,ディテールも意図してラフなものにしているようだが効果的ではない(会場内写真はこちら).
一方,2階に位置する展示室では,Michael BorremansFernando BryceDan Perjovschiの3人によるドローイング展が行われていた.その中のPerjovschiというルーマニア出身のアーティストの作品がとてもおもしろかった.ドローイング自体は社会を風刺した落書きのようなもので,それ自体もおかしいのだが,展示空間に対する仕掛けも考えられている.
今回のインスタレーション『Solid Ground』では,展示室の壁一面にドローイングが描かれている.最初の部屋では白い壁に青いボールペンのような細いペンで描かれ,よく近寄らないと見えないくらい.次の部屋では,やはり白い壁に黒いチョークのようなもので,今度ははっきりと描かれている.次の部屋は壁一面がグレーに塗られていて,前の部屋で使った黒いチョークと白いチョークで描かれたドローイングが混在し,重ねられている.そして最後の部屋では壁が黒く塗られ,白いチョークによって描かれる.写真はわかりにくいが,手前が白い展示室で中間がグレーの展示室,奥が黒い展示室.そのドローイングの中に「White Cube」と「Black Box」と描かれていることからも,この展示室の塗り分けはホワイトキューブへのアイロニーとしての意図も含まれているのではないだろうか.
それどころかPerjovschiのwebを見ると(ここからダウンロード,p.32参照),2003年に行った展示「White Chalk, Dark Issues」では,リノベーション前のスケルトン状態のような荒々しいコンクリートの壁一面に作品が描かれ,迫力のあるインスタレーションとなっている.その延長として,今回は既存の美術館を使いながら,壁をグレーや黒に塗り替えるだけで,そのような質の展示空間を作り出すことを意図しているように思える.

美術 | Posted by satohshinya at June 14, 2006 13:34


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