« May 2006 | Main | July 2006 »

ブラックキューブふただび@graz

R0011189.jpg

「ノイエ・ギャラリー」のすぐ隣には「Stadtmuseum Graz(グラーツ州立美術館)」がある.おそらくこれもまた何かを機能転用したもののようだが,詳細は不明.

ここでは「Die Totale」展をやっていた.絵画保管庫と副題が付けられ,700近い数の作品を一同に展示しようとしている企画らしい.モチーフとなっているのはルーベンス(?)の1枚の絵.webのトップページでも見ることができるが,黒い壁に隙間なく絵画が飾られ,床に立て掛けられているものすらある.これを実際の展示空間で実現させることで,大量の作品を1度に展示させようという意図のようだ.そのため壁は全面黒く塗られていて(おそらくいつもはホワイトキューブと思われる),床は塗るわけにはいかないから黒い布が貼られていて,立て掛けてある作品の安全を考えたのか,人が歩くところだけを仮設の通路が巡っている.その通路はなぜか床より少し持ち上げられていて,しかもご丁寧に手摺まで廻っている.この操作によって単に1つの床面を手摺で区切る場合とは異なり,制約された動線が独立して存在し,最後の部屋には足を踏み入れることすらできないといったオマケも付いて,この展示そのものが1つのインスタレーションのようになっている.その一方で,入口で全作品のリストを渡されるのだが,1つ1つの絵を鑑賞するという感じにはなれなかった.実際にコレクション自体はたいしたものではなさそうだったし…….何れにしてもホワイトキューブではない展示空間(かつての展示室はそうだったのかもしれないけれど)への試みは至るところで行われているようだ.
グラーツにもMuseen und Galerien 2006という小冊子あり.駅のインフォメーションなどで配布している.

美術 | Posted by satohshinya at June 30, 2006 12:42 | TrackBack (0)

bye-bye Archigram@graz

R0011180.jpg

グラーツには「Landesmuseum Joanneum(州立博物館ヨアネウム)」として19館の美術館・博物館がある.その中で現代美術を対象としている主なものに「Neue Galerie(ノイエ・ギャラリー)」「Kunsthaus Graz(クンストハウス・グラーツ)」がある.

ノイエは旧市街の中の宮殿であった建物を1941年から美術館として使いはじめたもので,ZKMのディレクターでもあるPeter Weibel氏がディレクターを務めている.訪れたときには3階で「Support 3」展というフルクサスやハプニング,コンセプチュアル・アートを集めたコレクション展が行われており,Spiegelsaal(鏡の間)という部屋では,オーストリア出身のノーベル賞作家イェリネクの挿画を描いた,Gernot Baurの「Die Klavierspielerin」展が行われていたが,その他のスペースは展示替えを行っていた.
コレクション展は,ZKMでのWeibel氏のキュレーションと同様に,とにかく物量で勝負というくらいに圧倒的な数の作品が展示されており,しかも展示動線が明快ではないため,どのように鑑賞すべきなのか戸惑ってしまう.内容を理解した上で丹念に見ていけば興味深いものが数多くあると思うが,短い時間の滞在ではほとんどよくわからなかった.オーストリアの作家が多いようたが,こんな作品ばかりをよくコレクションしていると感心する.
一方の挿画展は作品はともかく,元宮殿だけあって鏡の間が結構な部屋(写真参照)で,今回は大人しくケースに入れられた展示だったが,ここでもインスタレーションを行ったりするのだろうか?

R0011234.jpg

前面の道がそれほど広くなく,中庭があるものの比較的ラフな感じのエントランスで,展示室の扉を開くまでの階段や廊下は半外部であった.今回は展示替えの真っ最中だったが,通りに面してガラス張りのプロジェクトルームがあり,立地をうまく利用した展示を行っている(村上隆のような美少女フィギュア?による作品の展示中).
もう1つのクンストハウスは言わずと知れたピーター・クック設計の作品(正確にはコリン・ファーニアとの共作).訪れるまではよく知らなかったが,これもまた古い建物が一部に保存されており,その上に覆い被さるように増築されている.こちらも残念ながら展示替え中で,わずかにエントランスと最上階の展望ロビーに入れただけで,展示室自体は作業中の様子を上から見下ろすことができたに過ぎない.作業中の展示や以前の日本作家展(hyのblogを参照)など,興味深い企画が行われている場所だけに非常に残念だった.その上,肝心の夜景も見なかったので,建物についてとやかく書くのもやめておく.
その増築された古い建物には,美術館本体とは別に「Camera Austria(カメラ・オーストリア)」という写真専門のギャラリーが入っていて,Jo Spenceの個展「Beyond the Perfect Image」が行われていた.ここは今となってはヨーロピアン・スタンダードとも呼ぶべき機能転用によるスペース.クンストハウスの新しい空間と一体になって行き来が可能となっているので,実際にはその展示室との対比も楽しめるのだが,それはまたの機会に.
州立博物館としては,他にも「Künstlerhaus Graz(クンストラーハウス・グラーツ)」「Alte Galerie(アルテ・ギャラリー)」がある.これもまた別の機会に訪れてみたい.

美術 | Posted by satohshinya at June 26, 2006 17:52 | TrackBack (0)

至るところで@salzburg

R0011145.jpg

ザルツブルクでは至るところでアート作品を見ることができた.祝祭劇場前の広場に大きな扉を持つ小さな石張りの建物があって,中を覗くとアンゼルム・キーファーの作品が展示されていた.その建物は明らかに作品のためだけに作られたパビリオンのようで,トップライトまで付いている.こんな旧市街の中で突然キーファーの作品と出会い,一種のパブリック・アートであるのだろうが,選ぶ作家が普通ではないし,その佇まいがとても印象的だった.

丘の上の近代美術館を越えた散策路に面した誰も気が付きそうにもない草むらの中にも,マリオ・メルツの作品が設置されている.これもまた,こんな場所にネオンの作品を作るものだと感心した.もちろん,作品としてもおもしろい.
このキーファーとメルツの作品はSalzburg FoundationによるArt Projectの作品で,1年に1作品ずつ市内に設置されており,後で調べてみるとマリーナ・アブラモヴィッチの作品もあったが,残念ながら見逃してしまった.その他にも,メルツの近くにタレルの作品を示す標識があったそうだが残念ながら発見できなかった.もしかすると2006年作品の予告かも?
市内では「Kontracom06」というフェスティバルが行われていて,コンサートとともに街中にアート作品が設置されていた.中には宮殿であるレジデンツの中庭に実物のヘリコプターを逆さまに展示するものもあって(Paora Piviの作品),何もこんなところにこんな作品をと思うが,その横にはワールドカップ観戦用の巨大スクリーンと客席が準備されていたりするから,世界遺産とはいえ普通に市民に使われている場所なのだろう.

R0011167.jpg

教会を会場とした展示会も行われていた.フィッシャー・フォン・エルラッハ設計のコレギエン教会の「Blick & (ver)Wandlung」展は,教会自体を分析的に作品化したもの(多分)が並んでいた.日本でも越後妻有では寺院に作品が展示されていたりしたから,これも似たようなものかも知れないが,どんなところにも現代美術は展示できるということだろう.ちょっと乱暴な結論.

美術 | Posted by satohshinya at June 22, 2006 10:14 | TrackBack (0)

呼び方いろいろ@salzburg

R0011056.jpg

ドイツ語圏の美術館はMuseumだけでなく,KunsthalleやKunstvereinという名称も使われる.Kunstはアートという意味で,Halleはホール,Vereinは協会という意味を持つ.ちなみにウィーン・フィルハーモニーの本拠地として有名な建物はWiener Musikvereinという名前で,日本語ではウィーン楽友協会となる.どのような理由で呼び方が異なるのかはよくわからないが,とにかくザルツブルクにも「Salzburger Kunstverein(ザルツブルク・クンストフェライン)」がある.ザルツブルク美術協会といったところか?

ここではIon Grigorescuというルーマニア出身の写真家の個展「Am Boden」をやっていたが,大きな展示室が1室あるだけで,美術館というよりもギャラリーと呼ぶべきスペースだった.繊細な鉄製のフレームを吊して1つの村を模ったインスタレーションを行っており,教会の平面形状に合わせて写真が展示されたりしていた.ここもやはり1844年に創設されたもので,建物自体がKünstlerhausという名称(建設は1885年,2001年に改築)で,展示室の他に23のアトリエを持ち,最大5年間まで貸し出しているとのこと.いわゆるアーティスト・イン・レジデンスである.
その他にGalerieという呼び方も美術館には使われる.1619年に完成した大司教の宮殿の中には「Residenzgalerie Salzburg(レジテンツギャラリー・ザルツブルク)」がある.宮殿自体は立派な建物なのだが,美術館部分はそれほど特徴はなく,19世紀以前の絵画が展示されていた.「Augenblicke」という企画展を開催中.写真は入口の階段.
ザルツブルクでもKunst in Salzburgという小冊子が発行されていて,32の美術館とギャラリーの地図も付いている.

美術 | Posted by satohshinya at June 21, 2006 12:39 | TrackBack (0)

丘の上と旧市街@salzburg

R0011065.jpg

「Museum der Moderne Salzburg(ザルツブルク近代美術館)」には2つの建物がある.丘の上にある新しい建物が「Mönchsberg」,世界遺産でもある旧市街の中にある古い建物が「Rupertinum」

R0011030.jpg

「Mönchsberg」は,ミュンヘンの建築家Friedrich Hoff Zwink(若い!)がコンペに選ばれて2004年にオープンしたもので,旧市街のさまざまな場所から見上げることができる大変に目立つ場所に建つ美術館.丘の上まではエレベータ(有料)で上がることができ,EVホールに美術館のエントランスが直結している(この断面図参照).最近のミニマルなデザインで,階段部分のスリットで展示空間を分けながら段差のある敷地に対してうまく納めている.床はモルタル,壁はRC打ち放しで,おまけに天井も全てRC打ち放し.よくやっていると呆れる一方で,敷地の関係で高さが抑えられたためか,展示室の天井高さがあまり高くなく,自然光も時折開けられた窓だけで,スリット状の動線空間には光が降り注ぐものの,肝心の展示室はRCの天井に埋め込まれた蛍光灯が並ぶだけでもの足りない.
メインの展示は,「ZERO」展という1960年代にフォンタナやクラインたちが中心となったZEROというムーブメントに関連した作家たちによる作品.その他に,Erwin Wurmという作家の個展「Adorno was wrong with his ideas about art」ZKMでも個展をやったことあり),「Kosmos & Konstruktion」というマレービッチなどのロシア近代美術のささやかな展示が行われていた.
「Rupertinum」は1350年に建てられた宮殿を2004年に美術館に改装したものだが,「Mönchsberg」よりも好感が持てた.元は外部であったと思われる中庭にガラス張りの屋根を架けており,そこを介しながら展示室を廻ってゆく.巨大なスケールの建物ではないので展示空間のボリュームはそれほど大きくないが,むしろ「Mönchsberg」のように横に拡がる展示空間よりは,プロポーションが適切な部屋がいくつかある方がよいのかもしれない.
モーツァルト生誕250周年ということもあって,ザルツブルクに限らずウィーンなどでもモーツァルト関連の展示などが盛んに開かれており,ここで行われていたRobert F. Hammerstielの個展もモーツァルトをテーマとしたものでありながら,現代美術だけあって「Vergiss Mozart(モーツァルトを忘却せよ)」というアイロニカルな内容.実際にモーツァルトが生まれた旧市街に位置する美術館の中で,映像を中心としたコンセプチュアルな作品を展開していた(この個展の全ては「Café Mozart」で観ることができる).その他「Reflexionen」というコレクション展も行われており,「Mönchsberg」ほど派手ではないが,内容のある展示を行っていた.
何れの美術館もザルツブルクの要所に位置していながら,現代美術までを対象とした展示を行っており,しかも2カ所もスペースを持って活動していることに驚く.もしザルツブルクに行くことがあれば,丘の上だけでなく,ぜひ旧市街の近代美術館を訪れてほしい.

美術 | Posted by satohshinya at June 20, 2006 15:59 | TrackBack (0)

ダークキューブ

R0010771.jpg

HfGのアトリウムが今度は展示空間として使われ,「Kunst Computer Werke」展が始まった.ZKMのホワイエも会場に使われている.

とは言っても,アトリウムには展示壁面がないのだが,メディア・アートの展示を行うことから,多くの作品がプロジェクタを使用するために暗い空間を必要としていた.その結果,仮設のテント地のようなもので部屋を仕切ってみたり,作品そのものを覆い尽くす巨大な部屋を作ってみたり,大掛かりな仕掛けが必要とされていた(展示作品はこちらを参照).

R0010822.jpg

例えば『Makroskop』という作品は,吊り下げられたスリット状の壁面に実際は映像がプロジェクトされているのだが,アトリウムのトップライトを覆っているものの,途中階の窓から外光が入ってきたりしていて,日中はほとんど作品として成立していない.メディア・アートにおいては,ある種類の作品では暗い展示空間が必須となってしまうのだが,いつもの光に溢れるアトリウムと比べると,どうも陰鬱な空間に見える.
これらのメディア・アートのための展示空間には,ホワイトキューブならぬダークキューブが常識となりつつあるが,果たしてそれしか方法がないのだろうか? 絵画やインスタレーションなどの現代美術が明るい空間を要請するのに対し,現代美術の多勢を占め始めているメディア・アートは暗い空間を要請しており,多くの展示空間はこの2つを満足させることが必要とされる.その結果,単純に展示室の照明を落とすことから,仮設の壁や天井を作ったり,展示用のボックスを作ったりすることになる.何れにしても仮設的,一時的な対応で,それらを展示するベストな展示空間への解答は得られていない.
作品については,Markus Kisonによる『Roermond-Ecke-Schönhauser』がとても興味深いものだった.詳しくはこちらの動画を見てほしいが,パースが付けられた白い模型の上に,webカメラによるリアルタイムの画像が映し出されるというもの(こちらもまた詳細なアーカイブになっている).その他,Holger Förtererの『Fluidum 1』,Andreas Siefertの『Dropshadows』といったインタラクティブな作品がおもしろかった.
その他,展示構成への工夫として,HfGのアトリウムの床が黒であることから,白いカッティング・シートを用いて作品名が床に表示されていた.それ以外にもライン状のグラフィックなどが会場の床全体に描かれていて効果的であった.

R0010838.jpg

詳細はよくわからなかったが関連展示として新しいインターフェイスが紹介されていた.大きなスクリーンの前に立って指を指し示すだけで,画面上の情報が選択できるという,『マイノリティ・リポート』でトム・クルーズが使っていたようなインターフェイスを実現していた.他にもオープニングの日にはIchiigaiのコンサートも行われた.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at June 19, 2006 13:54 | Comments (6) | TrackBack (0)

さすがベンツ@stuttgart

R0010948.jpg

たまには建築の話題.UN Studioの最新作である「Mercedes-Benz Museum(メルセデスベンツ博物館)」を見た.さすがにベンツの博物館だけあって,細部に至るまでよくできている.

三角形の平面形に,メイン展示とテーマ展示がダブルスパイラル状に複雑に絡み合っているのだが,そのメイン展示のインテリアが圧巻で,ベンツの内装用の皮(だと思う)などを使い,全てのフロアで素材とデザインが異なっており,膨大な労力が使われている.
その一方で,その空間を支える構成としては,微妙に変形しながらも同様な形態が反復するため,インテリアが異なることや,光の入る方向や見渡せる風景に違いがあるものの,基本的には単調である(東急ハンズ渋谷店みたいと言ったら怒られる?).そして,そこがデザイン的には1つの見せ場なのかもしれないが,ダブルスパイラルを一続きに見せるために歪めた床は,もちろん展示に利用することはできず,この手の建築特有のデッドスペースとなってしまっている.何れにしてもよくできているので一見の価値はあるが,残念ながらもう1回は行く気はしない.
ちなみに,ワールドカップ開催中の『ゴットリープ・ダイムラー・シュタディオン』が隣にある.

建築 | Posted by satohshinya at June 19, 2006 10:58 | TrackBack (1)

ブラックキューブ@stuttgart

DSC08313.jpg

「Württembergischer Kunstverein Stuttgart(ヴュルデンベルク・クンストフェライン・シュトゥットガルト)」では2つの展覧会をやっていた.1913年の開館当初からコンテンポラリーアート(同時代美術)を対象としている由緒ある美術館である.こんな美術館を訪れると,ヨーロッパでは過去100年くらいの美術が一続きの歴史を持っていることに改めて気付かせられる.

メインの展示室を使った「Kunst Lebt!」展は,バーデン・ヴュルデンベルク州にある11の美術館・博物館のコレクションを一堂に会したもの.もちろん,その1つであるZKMからも多くの作品が出展されている.「Kunst Lebt!」とは,英語で書くと「Art Lives!」のことで,ワールドカップ(ドイツではWM-Weltmeisterschaftと呼ばれる)開催に合わせた企画とのこと.ZKMのメディア・アートから博物館の遺跡やオオサンショウウオに至るまで,さまざまなものが並列に展示されている.もちろんキュレーターの意図があって配列されているのだと思うが,美術館や博物館では並べて展示されないモノたちが集まった光景はなかなか圧巻で,常識的なコンテクストを無視したポストモダンな展覧会であった.
ドーム屋根を持つ巨大な円形の展示室と,奥にはこれまた巨大な四角い展示室(この辺は1961年の増築らしい)があって,エントランスや途中のテラスに面した廊下状の部分に至るまで,あらゆるところに展示が行われていた(美術館自体の平面図はwebよりダウンロード可能).そこにバーデン・ヴュルデンベルク州にある建築系大学の先生と学生による展示構成が行われており,いかにも建築家が考えそうなシステマチックな構造体が挿入されていて,複数の展示空間を貫いている.悪くはないけれども,ちょっとそれ自身が主張しすぎており,ディテールも意図してラフなものにしているようだが効果的ではない(会場内写真はこちら).
一方,2階に位置する展示室では,Michael BorremansFernando BryceDan Perjovschiの3人によるドローイング展が行われていた.その中のPerjovschiというルーマニア出身のアーティストの作品がとてもおもしろかった.ドローイング自体は社会を風刺した落書きのようなもので,それ自体もおかしいのだが,展示空間に対する仕掛けも考えられている.
今回のインスタレーション『Solid Ground』では,展示室の壁一面にドローイングが描かれている.最初の部屋では白い壁に青いボールペンのような細いペンで描かれ,よく近寄らないと見えないくらい.次の部屋では,やはり白い壁に黒いチョークのようなもので,今度ははっきりと描かれている.次の部屋は壁一面がグレーに塗られていて,前の部屋で使った黒いチョークと白いチョークで描かれたドローイングが混在し,重ねられている.そして最後の部屋では壁が黒く塗られ,白いチョークによって描かれる.写真はわかりにくいが,手前が白い展示室で中間がグレーの展示室,奥が黒い展示室.そのドローイングの中に「White Cube」と「Black Box」と描かれていることからも,この展示室の塗り分けはホワイトキューブへのアイロニーとしての意図も含まれているのではないだろうか.
それどころかPerjovschiのwebを見ると(ここからダウンロード,p.32参照),2003年に行った展示「White Chalk, Dark Issues」では,リノベーション前のスケルトン状態のような荒々しいコンクリートの壁一面に作品が描かれ,迫力のあるインスタレーションとなっている.その延長として,今回は既存の美術館を使いながら,壁をグレーや黒に塗り替えるだけで,そのような質の展示空間を作り出すことを意図しているように思える.

美術 | Posted by satohshinya at June 14, 2006 13:34 | TrackBack (0)

地下室@stuttgart

R0010918.jpg

たまたま通りがかりに見つけて入ったギャラリーがなかなかおもしろかった.「Kunst. Raum」というギャラリーで,Ursula Rosinskyという画家の個展をやっていた.

作品自体はバルデュス風の女児の絵という感じで,悪くはないけれども特別なものでもなかった.ギャラリー自体は外から見ると車庫のような小さなもので,実際に中に入ると確かに車庫だけで,横に地下へ向かう階段がある.それを下りると,元々は倉庫であったと思われる空間があって,そこがギャラリーになっている.もちろん壁から天井まで真っ白く塗り込まれている.しかし,ボールト天井は低くて妻側以外は大きな作品は展示できないし,地下なので自然光は入ってこない.それでもギャラリーとして成立しているどころか,雰囲気として決して悪くない.一体,よい展示室を成立させる要因はどこにあるのだろうか?
このギャラリーの情報は以下の通り.
Kunst. Raum(Filderstraße 34, 70180 Stuttgart)
火〜金 17:00〜20:00 土・休日 11:00〜14:00

美術 | Posted by satohshinya at June 14, 2006 12:49 | Comments (1) | TrackBack (0)

サーカス兼移動動物園

R0010785.jpg

移動遊園地に引き続き,MeßplatzではCircus Kroneが開催された.巨大なテントが組み立てられ,周囲には出演する人たちとともに動物たちが生活している.そうなると,これを放っておく手はないと考えるらしく,出演のない時間帯は動物生活エリアが移動動物園に変身する.もちろん入場料も取る(笑).

R0010779.jpg

R0010802.jpg

サーカス自体がまた長かった.15分の休憩を挟んで全部で3時間! たいしたものだ.
ちなみにこのMeßplatz,またもや移動遊園地が登場し,今度は観覧車まで設置されていたらしい.

@karlsruhe, イベント | Posted by satohshinya at June 13, 2006 14:38 | Comments (1) | TrackBack (0)

見られるアトリウム

R0010310.jpg

HfGのアトリウムを使って,ローリー・アンダーソンのコンサート「The End of the Moon」が行われた.仮設の舞台と客席による大掛かりなもの.

R0010374.jpg

このコンサートというよりもパフォーマンスと呼ぶべきものは,ローリーがNASA最初のレジデンス・アーティストとして招待されるところからはじまる物語を語り続ける作品で,途中にヴァイオリンによる弾き語りなどが加わる.上部にはLEDの表示板が吊され,ドイツ語が訳し出されていたから,もちろん即興などではなく厳密に決まった物語を語っていたのだろう.しかし,これがとても長かった.1時間半以上は延々と語り続けている.ローリーの語り方は魅力的だが,ぼく自身の英語能力の貧しさとも相まって,さすがに途中で飽きてしまう.
舞台上にはソファとキーボード,スクリーンが置かれ,床にはロウソクが灯されている.配布されたパンフレットによれば,このパフォーマンスを成立させるために非常に難しいことをやっているそうだが,残念ながらその複雑さを十分に理解することができなかった.おそらく,物語とともに音楽も精密に作られているのだが,それにしても長い.もちろん,洗練された良質なパフォーマンスであるという意見には異論がないが,この長さにはバランスの悪さを感じてしまう.それでもドイツの観客は辛抱強く聞いている.音楽家のイシイさんによれば,ドイツに限らず西洋の人たち(アメリカ人であるローリーも含む)は「間」というものに対する感覚が乏しいためか,同じ調子で淡々と長々と続くことに対して抵抗が少ないらしい.
しかし,ここのアトリウムはいろいろな使い方がされていて,まさしく多目的スペースと呼ぶに相応しい.たった一晩のコンサートのためにこんな労力を掛けるのも大したものだが,こういった使い方に応えるタフな空間があることも重要.もちろんコンサート会場としては最悪の音響であるが,照明用のバトンが吊せたり,舞台上手奥に大きな搬入口があったり,イベント会場としては十分に機能する.上部のトップライトを全て覆うのはかなりの労力のようだが(ちなみにZKMは電動ブラインドを装備),力任せに使い倒している感じが好ましい.

R0010381.jpg

アトリウム内に舞台が作られ,並べられた客席の後部は2階がバルコニー状に巡る下部にまで延びている.その舞台と客席を囲い込むバルコニーには調整ブースが設置されるとともに,ZKMの人たちが無料で鑑賞していた.まさにバルコニー席である.ちなみにこの建物は元々兵器工場であったが,そのときにはアトリウム部分で強制労働が行われ,バルコニーから監視を行っていたらしい.見る見られる関係を持った建物の構成が,そのまま現在でも有効であるようだ.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at June 13, 2006 10:05 | TrackBack (0)

最近の木造駅@bern

R0010693.jpg

ベルン中央駅には,旧市街へ向かう東側の出口の他に,ベルン大学へ向かう西側の出口がある.そこに集成材を使った屋根が掛かっていた.

R0010697.jpg

R0010705.jpg

プラットホームとその上のコンコースを木造の屋根で繋げて覆い,間の通路部分のみ鉄骨によるガラス屋根が掛かっている.「パウル・クレー・センター」の構造体の曲線とあまりにも似ていたから,最初はレンゾ・ピアノによる設計かと思ったけれど,よく見てみるとディテールがそれほど洗練されていない.しかし,このような公共空間(しかも外部)に堂々と木造の屋根が掛けられているのには驚くし,デザインの善し悪しは別としておもしろいものだった.
後から調べてみると,ベルン中央駅の改修はアトリエ5の設計で,少なくとも東側のガラス張りの建物は彼らの設計である.しかし,この西口までが彼らの設計であるかはわからなかった.

建築 | Posted by satohshinya at June 3, 2006 17:13 | TrackBack (0)

母国での皇帝

R0010341.jpg

ミハエル・シューマッハだよね,これ? 皇帝も母国ではこんな広告に登場している.タクマ君だけではなかったね.壁紙とか見るとすごいけど…….

先日のヨーロッパGPは,ドイツでの開催であったからか,レースのダイジェストを夜にテレビで放映していた(ちなみにモナコGPはやらなかった).結果はシューマッハが勝ったのだが,いつもは記者会見席でのインタビュー(それに関わらず全ての日本で放映されるインタビュー)では英語を使うシューマッハが,ドイツのテレビ局のインタビューだからなのかドイツ語を使っていた.ドイツ人だから当たり前なんだけど,なんだか不自然に思えて笑えた.

@karlsruhe, イベント | Posted by satohshinya at June 3, 2006 17:07 | TrackBack (0)

電子音楽いろいろ

R0010334.jpg

LAC2006のもう1つのコンサートについて.タイトルは「Open Source Sounds」.今回は,前回のようなコンピュータ・ミュージックだけではない試みが多く見られた.

特に興味深かったのがOrm Finnendahlの「Fälschung」.舞台上には弦楽器を手にしたカルテットとともに,コンピュータを前にした作曲家自身が並んでいる.カルテットはそれぞれ異なったデッキ(CD? MD?)を持ち,ヘッドフォンからその再生音を聞きながら演奏を始める.演奏する曲は,西欧人にとって「エキゾチック」に聞こえるらしい東欧の音楽で,それがコンピュータに取り込まれて繰り返され,更にその繰り返しに合わせて演奏が重ねられ,曲自体は断片的になるとともに複雑になっていく(作曲家自身がホームページに,この曲の構成について書いている).最近の坂本龍一のピアノ・ライブや先日のHfGでのポップソングもそうだったが,その場でHDレコーディングしたものを再生し,更にその上に実際の演奏を重ねていく手法は,今では一般的なものなのかもしれない.しかしこの曲では,途中からヘッドフォンのジャックを抜き,更にデッキのスピーカからの再生音も加わり,迫力のある演奏となっていく.
単なるコンピュータ・ミュージックの再生と比べると,演奏者が舞台上にいて,更にそれがライブ感を持って複雑に変化していくことは,より観客を演奏に集中させることができるだろう.もちろん,コンピュータを用いた精密な作曲という現代音楽的なアプローチとは異なるが,コンピュータを用いることによって,肉体による演奏だけでは成立しないパフォーマンスを行っているという意味では,もちろんこれもコンピュータ・ミュージックの一種であるのだろう.しかし,その違いは大きい.そう感じてしまうのはぼく自身に原因があるのかもしれないが,パフォーマンスとしての観客に対するアピールが大きく異なると思う.
もう1曲,Martin KaltenbrunnerとMarcos Alonsoによる「reac Table*」は,円形テーブルの上に装置を置くと音が出るというもので,装置の種類によって音の種類が異なり,装置同士の距離や向きによって音が変化する.2人の演奏者が登場し,ボードゲームのように交代で装置の数を増やしたり動かしたりすることで,その結果の音が曲となるというもの.更に装置を置くとテーブルがさまざまな模様に発光し,音の変化などを視覚的に表現している.つまり,この装置自体が1つのサウンド・インスタレーション作品のようになっていて,それを用いた演奏という趣向である.そのテーブル上のパフォーマンスは撮影され,舞台上のスクリーンに映し出されている.
これもまたコンピュータ・ミュージックなのだろうが,作曲とするという行為からは大きく離れているように思う.確かに1つの楽器を発明しているようなインターフェイスのデザインは興味深いが,演奏自体はほとんど即興的なもののように思え,一方のコンピュータ・ミュージックが厳密な音の演奏を企てることと比べると,大きく異なる.
Ludger Brümmerの「Repetitions」は,4チャンネルであった曲を20チャンネルに作曲し直したもので,もちろんKubusのKlangdomを意識したものであろう.ここでのコンピュータは,40個のスピーカに対して20チャンネルの音源の正確な演奏(再生)を厳密に制御するために働いている.
コンサート終了後,ホワイエに面するMusikbalkon(と言っても内部)で「Linux Sound Night」が行われた.写真はその準備風景.VJ付きのクラブという感じなのだが,これもまた確かにコンピュータ・ミュージック.しかもプログラムには曲解説まで付いている.

@karlsruhe, 音楽 | Posted by satohshinya at June 2, 2006 13:32 | TrackBack (0)