電子音楽いろいろ

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LAC2006のもう1つのコンサートについて.タイトルは「Open Source Sounds」.今回は,前回のようなコンピュータ・ミュージックだけではない試みが多く見られた.

特に興味深かったのがOrm Finnendahlの「Fälschung」.舞台上には弦楽器を手にしたカルテットとともに,コンピュータを前にした作曲家自身が並んでいる.カルテットはそれぞれ異なったデッキ(CD? MD?)を持ち,ヘッドフォンからその再生音を聞きながら演奏を始める.演奏する曲は,西欧人にとって「エキゾチック」に聞こえるらしい東欧の音楽で,それがコンピュータに取り込まれて繰り返され,更にその繰り返しに合わせて演奏が重ねられ,曲自体は断片的になるとともに複雑になっていく(作曲家自身がホームページに,この曲の構成について書いている).最近の坂本龍一のピアノ・ライブや先日のHfGでのポップソングもそうだったが,その場でHDレコーディングしたものを再生し,更にその上に実際の演奏を重ねていく手法は,今では一般的なものなのかもしれない.しかしこの曲では,途中からヘッドフォンのジャックを抜き,更にデッキのスピーカからの再生音も加わり,迫力のある演奏となっていく.
単なるコンピュータ・ミュージックの再生と比べると,演奏者が舞台上にいて,更にそれがライブ感を持って複雑に変化していくことは,より観客を演奏に集中させることができるだろう.もちろん,コンピュータを用いた精密な作曲という現代音楽的なアプローチとは異なるが,コンピュータを用いることによって,肉体による演奏だけでは成立しないパフォーマンスを行っているという意味では,もちろんこれもコンピュータ・ミュージックの一種であるのだろう.しかし,その違いは大きい.そう感じてしまうのはぼく自身に原因があるのかもしれないが,パフォーマンスとしての観客に対するアピールが大きく異なると思う.
もう1曲,Martin KaltenbrunnerとMarcos Alonsoによる「reac Table*」は,円形テーブルの上に装置を置くと音が出るというもので,装置の種類によって音の種類が異なり,装置同士の距離や向きによって音が変化する.2人の演奏者が登場し,ボードゲームのように交代で装置の数を増やしたり動かしたりすることで,その結果の音が曲となるというもの.更に装置を置くとテーブルがさまざまな模様に発光し,音の変化などを視覚的に表現している.つまり,この装置自体が1つのサウンド・インスタレーション作品のようになっていて,それを用いた演奏という趣向である.そのテーブル上のパフォーマンスは撮影され,舞台上のスクリーンに映し出されている.
これもまたコンピュータ・ミュージックなのだろうが,作曲とするという行為からは大きく離れているように思う.確かに1つの楽器を発明しているようなインターフェイスのデザインは興味深いが,演奏自体はほとんど即興的なもののように思え,一方のコンピュータ・ミュージックが厳密な音の演奏を企てることと比べると,大きく異なる.
Ludger Brümmerの「Repetitions」は,4チャンネルであった曲を20チャンネルに作曲し直したもので,もちろんKubusのKlangdomを意識したものであろう.ここでのコンピュータは,40個のスピーカに対して20チャンネルの音源の正確な演奏(再生)を厳密に制御するために働いている.
コンサート終了後,ホワイエに面するMusikbalkon(と言っても内部)で「Linux Sound Night」が行われた.写真はその準備風景.VJ付きのクラブという感じなのだが,これもまた確かにコンピュータ・ミュージック.しかもプログラムには曲解説まで付いている.

@karlsruhe, 音楽 | Posted by satohshinya at June 2, 2006 13:32


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