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長方形以外

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ZKMMedienmuseum3つのインスタレーション作品が登場した.先の2作品は,昨年ZKMで行われた「Making Things Public」展にて展示されたものの修正版.

1つ目はDidier Demorcy,Isabelle Mauz,Studio Ploによる「When Wolves Settle: A Panorama」.アーティストと社会学者のコラボレーションによるこの作品は,オオカミを巡る野生動物保護主義者と地元羊飼いの意見の対立を,アルプスの山と麓の村を再現したミニチュアとインタビュー映像により示したもの.メディア・アートというよりも,学習用のドキュメンタリー作品といった感じ.
Matthias Gommelによる「Rhine Streaming」は,ZKMから6km離れたライン川の映像と音声をストリーミングするもの(ここから昨年の展示の動画などを見ることができる).これもまた学習的な側面の強い作品.もちろん,メディア・テクノロジーを用いなければ成立しない作品ではあるが,全体像がつかみにくい.
最後がPeter Dittmerによる「Die Amme Die Amme_5」.「Amme」とは,ドイツ語で乳母のこと.巨大なマシーンである「Amme」に対して,観客はモニタ上で対話を繰り返す.そのコミュニケーションの結果によって,成功すればミルクを受け取ることができるし(ロボットアームがコップに入ったミルクを差し出す!),失敗すれば霧状の水を吹きかけられたりすることになる.前の2つと比べると,まるでゲームのような作品なのだが,その対話(残念ながらドイツ語なので,ぼくにはわからない)自体が1つの詩のようなものを生み出したり,マシーンそのものが巨大なインスタレーションとして成立させている.この「Amme」は5つ目のバージョンであるが,webを見る限りでは,過去の「Amme」の方がコンパクトに自立していてよい作品だと思う.この「Amme_5」は少し巨大すぎて,1つの生物(乳母?)というよりも工場のような雰囲気.また,アトリウムに置かれているが,プロジェクタを用いた周りの作品のために場内は全体的に薄暗く,もっと明るい場所に置いた方がよいだろう(写真は設営準備中のもの).ZKMでの展示は10月15日まで.
ちなみに「Amme_2」と「Amme_3」を展示したドレスデンのHfBK展示室は,写真を見る限りすごくかっこいい.フランクフルトのMMKもそうだけど,長方形平面を持たない展示室もいいね.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at May 31, 2006 13:49 | TrackBack (0)

80年代の美術館@bern

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「Kunstmuseum Bern(ベルン美術館)」では数多くの企画展が行われていた,「Sam Francis und Bern」はフランシスの作品と,彼と交流のあったベルン在住の画家による作品を展示したもの,「Cécile Wick - Druckgraphik」は渋谷駅前を写した作品を含めた写真家の展示,「Berns mächitige Zeit」は地下にあるクラシカルな展示室に16〜17世紀の絵画を展示.一方,現代と題された企画展も3つ行われており,「 Guangzhou - Künstler/innen aus Kanton (China) aus der Sammlung Sigg」は中国・広東の現代美術コレクションを展示,他に「Serge Spitzer: Um die Ecke - Round the Corner」「Reisen mit der Kunst - Stiftung Kunst Heute」.青の時代のピカソやゴッホのひまわりなどを集めた常設展示もあって,コレクションによる企画展も行われている.

とにかく,どこで何をやっているのかよくわからないほど館内は迷路のようになっている.歴史のある美術館だけにコレクションはなかなか充実しており,「パウル・クレー・センター」のコレクションも元々ここのものだったのだから,その開館以前はどのくらい展示できていたのか想像もつかない.それに「クンストハレ・ベルン」のような場所もありながら,現代美術の展示も活発に行われているようだ.
もちろん建物自体も古く,オリジナルの展示室はまだよいのだが,現代美術を展示する辺りでは内部が改装されており(実際は増築),吹き抜けに斜めのブリッジが渡っていたりして結構安っぽい.70〜80年代に手が付けられたようなデザインで,この時代の展示室は質(たち)が悪い.20世紀初頭の建物のような空間でもなく,最近のホワイトキューブでもなく,なんとなくデザインが主張していたり,時代に即した工業製品(これが安っぽい)が使われていたりする.日本だけの話だと思っていたけれど,どうやらヨーロッパでも同じらしい.
と,ここまで書いたところで新館(と旧館に分かれていたらしい)の設計者が判明.アトリエ5の設計によるもので,1976年にコンペで当選,83年に完成したそうだ.アトリエ5はコルビュジエの弟子筋の人たちで,集合住宅では興味深いものがあるけれど,これはちょっといただけない.ちなみにwebを見るとベルン中央駅の改修もやっているようなので,これもそうかもしれない…….
ちなみにベルンではmuseen bernという小冊子が発行されていて,市内の30以上の美術館・博物館の解説を掲載している.同じ判型・デザインで3ヶ月毎のスケジュールを掲載したものも配布されている.地図も付いているのでとても便利.もちろん,ほとんどの美術館ではミュージアム・パスポートが使える.
ちなみに写真はエントリとは関係ありません.我が家から見た空の写真.

美術 | Posted by satohshinya at May 30, 2006 12:58 | TrackBack (0)

同時代美術との併走@bern

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「Kunsthalle Bern(クンストハレ・ベルン)」に行く.1918年のオープン以来,クレーやジャコメッティ,ムーア,ジャスパー・ジョーンズ,ビュランなどの大物たちの個展を行ってきたギャラリーらしい.訪れたときには,Carla Arochaというベネズエラの作家による個展「Dirt」をやっていた.

ここは元々美術館として作られたものであるが,現在から見ると,他の機能(例えば銀行)から転用されているようにすら思えてしまう.開館当時の展示作品が,いわゆる額縁に入った絵画や台座を持った彫刻であったことを思うと,やや高めの位置に取った窓から光を採る展示空間は当時の一般的なものであったのかもしれない.しかし,オリジナルの建物が真白い壁であったのかどうかはわからないが,やや装飾が施されていることを除けば,ここはホワイトキューブの原型のような展示室である.結局,現代美術のためのホワイトキューブは,インスタレーションなどの作品自体によって要請された空間ではなくて,元々ヨーロッパに存在していた展示空間を抽象化していっただけのことなのかもしれない.そして,かつての美術館の展示室にしても,当時のその他のビルディングタイプによる部屋と大きな違いがあったわけではないから,機能を転用した美術館が数多く存在していることも当たり前なのだろう.何れにしても,これらは思いつきで書いているだけなので,もう少し歴史的な検証が必要.
展示されていたArochaの作品もなかなか興味深く,ボリュームの異なる7つの展示室に繊細な素材を用いた作品が並んでいた.写真の作品「Hem」も,完全に反射する鏡とほぼ反射しながらも反対側が透けて見えるガラス(自動車の窓に使われるようなもの)をランダムに吊しただけのものだが,周囲の環境を写し込んだり透かしたりしながら複雑な表情を作り出していた.
しかしこの美術館は,歴史を持っていることもともかく,1年に7つの展覧会を開催して50ページもの記録集を無料で配布するなど,現在でも現代美術をサポートする施設として現役で活動しているところがさすが.モダン・アートからコンテンポラリー・アートまで,常に同時代と併走してきた美術館なんて日本では聞いたことがない.そして次回の展示は,曽根裕とのこと.

美術 | Posted by satohshinya at May 26, 2006 11:34 | Comments (1) | TrackBack (0)

コンピュータ・ミュージックが演奏される場所

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「LAC2006 - 4th International Linux Audio Conference」というイベントがZKMで行われた.コンピュータ・ミュージックを制作するアプリケーションを巡って,いくつかの発表と討議が行われるとともに,ワークショップ,コンサートも開催された.これもまた,Institut für Musik und Akustikによるもの.

詳しいことはよくわからないが,コンピュータ・ミュージックを制作するアプリケーションにはさまざまな種類があるらしい.それぞれ特長があって,可能な作業が異なるため,使用するアプリケーションの機能が完成する作品にも影響を与えるそうだ.
コンサートはKubusにて2回行われた.コンピュータ・ミュージックは基本的にコンピュータのハードディスクから直接演奏される.観客は舞台方向を向いて並べられた客席に座って鑑賞するのだが,もちろん舞台上には演奏者が存在しないために照明は当てられていない.場内は全体的に薄暗く,そんな中で全員が一方向を向き続けている.演奏,というよりも再生のための操作は,一般的なコンサートにおける音響卓と同様に客席後方に位置している.
作品によっては,と言うよりも多くの作品が,方向性を持ったものとして作られている.4チャンネル以上の立体音響(このコンサートではKlangdomが使われているので,最大40チャンネル)を用いて作品が作られているため,どちら側に向いて作品を聞くかが決まってくる.つまり,作品自体が前後左右(上下)を持つ空間であるため,鑑賞する観客の向きが限定されてしまう.例えば映画の音響を考えてみると,サラウンドの場合,画面の奥で爆発が起こった場合には前面のスピーカから爆発音が聞こえるし,客席後方のスピーカから爆発音が聞こえれば,カメラ(画面の手前)側で爆発が起こっており,それを眺めている人物の顔のアップが映し出されるというように使われる.このように画面が伴っている場合には,立体音響による空間の存在や向きは容易に理解できるだろう.もちろん,会場内を歩き回ることができるような,いわゆるサウンド・インスタレーションと呼ばれるものに近い作品もあって,それらは限定した向きを持たないかもしれないが,その辺りの音楽作品としての違いはよくわからない.
何れにしてもハードディスクから再生されるものがオリジナルであるという事実には,どうしても不思議な印象を受けてしまう.あくまでも4チャンネルで作られたものは4チャンで,8チャンは8チャンで再生されることがオリジナルであることをキープする必要条件で,CD(2チャン)化されたりすると,それはもうオリジナルとは呼べないことになる.専門外の立場で考えると同じ作曲された曲ではないかと思うのだが,極端に言えば,絵画とその原寸大の印刷物の違いみたいなものがあるのだろう.
一方で,再生される場所は作品に影響を与えないのかと言えば,もちろん与えるだろう.同じ8チャンであったとしても,広い場所と狭い場所では異なるだろうし,響きのある場所と響かない場所でも異なるだろう.Kubusはそれほど広い空間ではなく,電気音響によるパフォーマンスを前提としているため,音響的にはデッドな空間となっている.コンピュータ・ミュージックの場合は,予め必要な響きを作品に含み込むことができるため,演奏空間自体が響きを生み出す必要がないらしい.例えば従来のコンサートホールでは,楽器から発する音を適切に響かせることで,その実際の空間による効果(響き)を含めて作品が完成するのに対し,コンピュータ・ミュージックでは,作品そのものに予め空間が内包しているように思える.無理を承知で例えるならば,美術において,額縁の中に納まる絵画が,空間そのものを作品とするインスタレーションへと変化していったようなものではないだろうか.
そう考えたとき,鑑賞者の位置と向きをどのように考えるべきかが問題となる.Klangdomはドーム状にスピーカが配されているのに対し,客席は平面的に広がっているため,スピーカとの関係が最も効果的と考えられるドームの中心に位置できる観客はわずかである.作者が作品を完成するために位置する場所がもっとも作品を鑑賞するために適切な位置であると考えると,それは一般的に中心となるだろう.更に例えるならば,演劇でも演出家は客席のある位置を中心として作品を完成させていくから,最前列の端の席であったり,最後列の席であったりすると,作品鑑賞という意味からは問題が生じる可能性が大きい.そのため,客席の位置などによって入場料が異なったりするわけだが,そうだとしても,一般的には舞台と客席が明確に分かれているため,鑑賞者の向きが限定される必然性は理解できる.しかし,視覚的な要素の存在しない立体音響による音楽作品が持つ方向性は,どのように強度を持ち得るのだろうか?
話が少し脱線してしまったが,とにかく「LAC2006」のコンサートの話である.1夜目は「Opening Concert」と題されて8曲が演奏された.何人かの作曲家はイベントに参加していたので,曲が終わると本人が立ち上がり拍手を受けていた.もちろん作曲家や演奏家がいなかったとしても,普通のコンサートと同様に曲が終わる度に拍手が起こっていた.しかし,この拍手は誰に向けたものだろう? コンピュータを操作している人たち?
最後の曲Agostino Di Scipioの「Modes of Interference」だけは,トランペット奏者とともに作曲家が舞台上に登場.トランペットの音(といっても,いわゆる曲を演奏するのではなく,音を出しているだけという感じ)を何やらコンピュータでリアルタイムで制御.この時だけは,普通のコンサートという感じだった.
コンサートを含む詳細は,当日に印刷して販売されていたプログラムに掲載されており,ここからpdfでダウンロード可能.曲の解説,作曲家の紹介などもある.

@karlsruhe, 音楽 | Posted by satohshinya at May 23, 2006 10:38 | TrackBack (0)

最悪な展示室と最高なプログラム@bern

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「Zentrum Paul Klee, Bern(パウル・クレー・センター)」に行く.4,000点以上のパウル・クレー作品という,すばらしいコレクションを持つ美術館だが,その展示室はひどいものだった.昨年オープンしたばかりのレンゾ・ピアノの最新作.

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コレクションの中から約200点を展示する常設展示室(定期的に展示替えを行う)は,全体が微妙に扇形をしているが,それは前面を走るアウトバーンの円弧に合わせて建物全体がカーブしているためである.更に,高さ方向についても中央部分が山形に盛り上がっているが,これは3つの棟に分かれている建物が3つの波によってデザインされているためである.この全体を操作するデザインの話はここではどうでもよく,その結果に得られる効果がよければ問題ないのだが(この建築については,その効果自体も疑問なところがあるが),問題なのは,それによって肝心の展示室が犠牲になっていると思えることである.
展示室の床には,かなり細かいピッチ(600mmくらい?)で空調吹き出しがライン状に設置されている.さまざまな展示壁面のレイアウトにも対応できるように配慮したものだと思うが,この床の縞模様があまりにもうるさく,大変に鑑賞の邪魔になる.おまけに,このラインは建物の形状に合わせて円弧を描いている.
展示壁面は,展示室全体が山形の大空間となっているため,天井まで達していない四角い壁が吊されている.クレーの作品自体は大きいものはそれほど多くなく,現代美術のような巨大な展示空間を必要としないため,それ自体は問題ではない.また,照明も天井から吊り下げられており,部分的に紗幕天井が吊り下げられ,光を拡散させるとともに,そこに独立したスペースを作り出している.クレーのデリケートな作品を保護するために展示室内は暗く,全体は暗いながらも作品だけは多少明るめにするようなコントラストがまったく付いておらず,全ての展示壁面が一様に薄暗いため,更に作品に集中しにくくなっている.その一方で,拡散天井の上部には展示空間に匹敵する巨大な天井裏空間があって,そこには天井(建築)自体を照らし出す照明も付いており,展示壁面と比較すると非常に明るい.その明るい天井が拡散天井の隙間から見えるために明暗の差が大きくなって,より展示壁面が薄暗く感じられる.
もちろんピアノの作品だから,その天井裏にはアーチ状の構造体が露出しており,支持する端部のジョイントに至っては,ご丁寧に両脇の展示壁面の直上に並んでいる.そのディテールが美しいものであればまだよいかもしれないが,あまり魅力的でなく,単に鑑賞の妨げになっている.しかもアーチ状の大空間だけで成立していればまだしも,屋根の一部が土に埋まっているためか,展示室に柱が2本落ちており,それに取り付く梁の形状も最悪.つまり,構造デザイン的にも見るべきものがない.
そして,これは展示の問題だが,最近の流行なのか,展示室は明快な順路を持っていない.吊された展示壁面によって,オープンでありながら囲い込んだ場所を作り出すことで,完全な部屋になっていないながらも,独立した照明環境を持つエリアを作り出すことを意図している.アイディアは理解できるが,この展示室は本当にそれを実現できているのか? または,これが実現されたときに,本当にそれはよい展示空間なんだろうか?(展示室内が撮影禁止だったので,模型写真をアップ.これで少しはバカげた大空間の雰囲気が伝わるだろうか?)
ピアノは,「ポンピドーセンター」において,移動可能な壁面を持ったユニバーサルな展示室を提案したのだが,後年になって,固定された壁面を持った展示室に改修されてしまった.このことは,結果的に(当時の)美術館がニュートラルでミニマルなホワイトキューブを要請していたことを示している.「ポンピドー」のユニバーサルな展示を実現するための仕掛けは,美術作品の鑑賞を妨げるものでだったのだ.そして今回もまた,ピアノは同じ過ちを繰り返しているように思える.
一方で運営面では目を見張るものがあり,クレーが多面的な活躍を行っていたことから,この美術館も多面的な活動を行っている.クレーに関連した展示を行う企画展示室(今回は「Max Beckmann - Traum des Lebens」展)を持つだけでなく,オーディトリウムも併設され,専属のアンサンブルによる音楽や,演劇,舞踊の公演も行われている.また,子ども用のアトリエや展示スペースも充実しており(建築的にも気持ちのよい場所となっている),ワークショップなどが行われている.つまり,この美術館はクレーという過去の作家の作品を保存する役割だけに留まらず,クレーの活動を手本として,現代のさまざまな芸術をサポートする生きた美術館を目指している.その意味では,旅行者としてクレー記念館に訪れるという関わり方では,残念ながらこの美術館の本当の魅力を十分に理解することはできないだろう.
ともかく,クレーのすばらしい作品を見るためだけにでも,この美術館を訪れる価値があるだろうし,何らかのイベントが行われているときに来ることができれば,展示だけに留まらない美術館の多面的な活動を理解することができるだろう.

美術 | Posted by satohshinya at May 17, 2006 10:32 | TrackBack (0)

似て非なるもの

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写真だけ見ると美術館のように見える.しかし,どこかの美術館のようにファサードに動物の絵が描いてあるわけでなく,本物のキリン.

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これはカールスルーエにある動物園の中のキリン舎である.エントランス側の写真を見ると,上部にはハイサイド・ライトがあって,ますます美術館のように見える.内部に入るとトップライトまであって,現代美術館の展示室と大差がない.更に,肝心のキリンは巨大なインスタレーション作品にすら見えてしまう.
この動物園では,他にも象やライオン,カバ,ゴリラなども全て室内で鑑賞(?)する.広大な敷地の中に,ポツポツとパビリオンのように建物が建っている.目の前で見る象なんて,結構な迫力.

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おまけは,ベルン中央駅の脇にあった駅施設.これもどこかで見たようなファサード?

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at May 16, 2006 12:23 | TrackBack (0)

自己満足のドイツ人と既視感の日本人

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IchiigaiというHfGのレーベル(大学が持っているレーベル?)によるコンサートが,Badischer Kunstvereinで行われた.Ichiigaiとは「1以外」という日本語.20時頃から始まり,やっぱり夜中まで様々なグループが登場するのだが,ぼくが見たのはその中の2つだけ.

1つは,このコンサートに誘ってくれたHfGの学生であるシンゴ君とその先輩による,自作の楽器を用いた3曲のパフォーマンス.テルミンとチェロを組み合わせたような不思議な電子楽器を用いて,漫才のような掛け合いとともに演奏が進む.日本人のぼくから見ると,その漫才的な間合いとか,明和電気の楽器のようなユーモラスなパフォーマンスは既視感を生んでしまうが,ドイツ人による自己満足的な演奏(しかも長時間)と比べると,プレゼンテーションすることに意識的であるという意見を聞いた.日本人はそういったことが,比較的に自然とできるのではないかとのこと(これはZKMのアーティスト・イン・レジデンスであるイシイさんより聞いたもの.彼女はドイツ在住の作曲家).
写真は,ドイツ人による自己満足的演奏のもの.左では何十個と並んだツマミを動かしながらサウンドをコントロールし,右のおじさんがサックスを途切れ途切れに吹いている.確かに観客を置き去りにしていた.

@karlsruhe, 音楽 | Posted by satohshinya at May 15, 2006 17:18 | TrackBack (0)

その後

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移動遊園地のその後.たまたま開催地であるMeßplatzを横切ると撤収作業を行っていた.ご苦労さま.その後に訪れたBernでも移動遊園地をやっていたので,こっちでは結構ポピュラーなものかもしれない.
ちなみにこのMeßplatzでは,現在サーカスを開催中.街の至るところにポスターが貼られている.

@karlsruhe, イベント | Posted by satohshinya at May 15, 2006 12:24 | TrackBack (0)

夜中の美術館

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「Die Lange Nacht des Lichtes(光の長い夜)」というイベントが行われた.タイトルの通り,さまざまなイベントが19時から始まり,夜中の1時まで続いた.これはMuseum für Neue Kunstの「Lichtkunst aus Kunstlicht」展に合わせたイベントで,全て入場無料,普段はZKMに来ることのない人たちを集めることを目的としていたのだが,おそらく1,000人以上が集まっていたと思う.企画の中心になっていたのはMuseumskommunikationという部門の人たち.日本で言うと,教育普及部門といったところだろうか.

人気だったのは,「Lichtkunst」展のガイドツアーで,整理券を求めて長蛇の列ができていた.ホワイエではコンサート,Madientheater(実験劇場のようなマルチスペース)では70/80年代音楽によるディスコ(笑)が行われ,先日ポップソング・ライブをやったスペースはそのままラウンジと化しており,ときおりバンドが登場して音楽が演奏されていた.子ども向けの企画も充実していて,ディスコに先立ちMadientheaterでは市内の子ども劇場が出張公演(?)を行ったり,自由に形を作った針金に光を当てて影を楽しむワークショップなどが行われていた.とは言っても,ほとんどがメディア・アートとは関係のなさそうな学園祭のようなイベントが繰り広げられているだけなのだが,それにしても,こんな夜遅くに大勢の人たち(しかも子どもから老人まで)が美術館に集まっているという状況はなかなか日本では考え難い.写真は20時30分頃のホワイエ(エントランス・ロビー).トップライトを見るとわかるように外はまだ明るい.
その中で,唯一と言ってよいメディア・アートは,Christian ZieglerとLudger Brümmerによる「Wald-Forest」という作品.16本の蛍光灯が垂直に吊され(それが森に立つ樹木のように見える),その間を人が通ると蛍光灯との距離によってサウンドが変化するというインタラクティブなもの.ビジュアル上のインスタレーションを担当のChristianはダンスの舞台美術をよくやっており,先日,日本公演も行ったとのこと.この作品もテストの段階でダンサーを連れて来て踊ったらしい.Ludgerは,ZKMのInstitut für Musik und Akustikのディレクターで,音楽を担当.会場はKubusという音楽用スペースで,40個のスピーカがドーム状に空間を覆っている.このスピーカ・システム(Klangdom)は最近Kubusに設置されたもので,その制御プログラムとともに画期的なもの(らしい).
こんなイベントはZKMでも年中やっているわけではないそうだが,日本の公共美術館でもやってみればよいと思う.しかし,こんな企画は通らないように思うし,通っても人が集まらないかな? できるのはここくらいか.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at May 12, 2006 12:35 | TrackBack (0)

パノラマ好き@luzern

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スイスの人はパノラマやジオラマが好きなようである.博物館に行くと,様々な時代に作られたアルプスのジオラマが並んでいる.その1つ「Alpeneum - 3D-Alpen-Panorama(アルピネウム)」は,場末の観光地にあるような,土産物屋とインチキな見せ物が一体となったもの.写真はその展示物.一応,1900年初頭(?)に作られた由緒あるものらしい.City Guideによると,「Sensational large panoramic painting with amazing depth effect!」とあるが,嘘をつくな!,という代物.
更に,その目の前にある「Bourbaki Panorama Luzern(ブルバキ・パノラマ」は,1881年に作られた360度のパノラマ画(Edouard Castres作)を常設した建物を,2000年にリニューアルしたもの.パノラマ画は学術的な見地も含めて復元され,更に絵のパースペクティブに合わせた立体の人間や貨車などを加え,更に音響効果も加えられている.その下階にある展示を見ると,その展示デザインも含めてかなり真剣に取り組んでいることがよくわかる.更に,そのリニューアル(増築?)された建物には,地下に映画館やギャラリー,1階にはショップやレストランやバーなどが配され,肝心のパノラマ画以外は若者向けコンテンツ満載の建物に生まれ変わっている.心意気は買うものの,何かが間違っているような気がしてならない.おまけにパノラマ画の復元の様子は,Jeff Wallの作品にもなっている.

もちろん,何れもミュージアム・パスポートによる無料入場.

美術 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 14:59 | Comments (3) | TrackBack (0)

全国の構造ファンへ・その4(膜構造編)@luzern

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「Glatschergarten(氷河公園)」に立ち寄る.1872年に発見された,氷河時代に生み出された天然記念物を保存展示する博物館.そこに,天候の変化や汚染された大気の悪影響から保護するため,開館から100年以上が過ぎた1980年頃に膜が掛けられたそうだが,この膜の使い方がなかなかおもしろかった.構造的には特筆すべきものはないように見え,むしろ,更に構造的なデザインが加わればもっとよいものになると思うが,既存の樹木が膜を突き抜け,それが膜に影を落とすなど,よい表情を見せていた(アクソメ図も参照).

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ちなみに,こんな博物館にまで足を運んだのは,スイスにはSchweizer Museumspass(スイス・ミュージアム・パスポート)という優れものがあり,30CHF(日本円で3,000円くらい)で,スイス国内の300近い美術館・博物館に入場無料(1ヶ月間有効)となる.それを用いて,時間のある限り端から見て回ったため.ちなみに,1年間有効(111CHF)のものもある.

建築 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 14:43 | TrackBack (0)

邸宅から美術館,または銀行から美術館@luzern

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「Picasso Museum Luzern (ピカソミュージアム)」「Sammlung Rosengart Luzern(ローゼンガルト・コレクション)」に行く.
Picassoの方は,実際には,写真家のDavid Douglas Duncanによるピカソを撮影した写真を展示する美術館.1978年開館.もちろん,晩年のドローイングや版画などの小品は展示されているが,それほど特別なものではない.むしろ,展示空間となっているかつての邸宅(?)は一見の価値あり.1616〜18年に建設されたものとのこと.もう1つの美術館の名前に冠されているRosengart家の寄付によって作られたもので,この建物自体もRosengart家のものだったのだろうか? 一方で,この美術館は旧市庁舎であったというレストランと繋がっている.ということは,この美術館も旧市庁舎?
もう1つの美術館もまた,旧国立銀行を2002年に改修したもの.ヨーロッパでも,住宅や銀行のように,異なる用途の建物が美術館に改修して使われていることが多い.ここには,よくある近代画家たちの絵画が一通り並んでいるが,もちろん日本の公共美術館に比べると圧倒的にコレクションの質は高い.特に地下に展示されているパウル・クレーの作品は,何れも小さいものばかりであるが,作品数も125点と多く,かなり見応えがある.展示室も元銀行だけあって天井も高く,悪くない空間.

しかし,機能を転用した美術館の方が,新築のものよりもよかったりするのはなぜだろうか? 結局,元々の建物が持つコンテクストが魅力的だったり,意図して設計するよりも多様なバリエーションを持つ展示室を生み出すことができたりということなんだろうけど.青木淳さんが言っていた,リノベーションのように新築するということになっちゃうのかな? それが意図して設計できるものなのか,または意図して設計する必要があるのだろうか,ということが次に問題になると思う.これらのこととホワイトキューブの関係も,展示室を考える上で1つのポイントだろう.
余談.スイスの紙幣は,10CHF札はル・コルビジュエだが,100CHF札はアルベルト・ジャコメッティ.建築家よりも彫刻家が10倍高額であるのは正しい関係.200CHF札や1,000CHF札もあるようだが,誰なんだろう?

美術 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 14:16 | Comments (2) | TrackBack (0)

全国の構造ファンへ・その3@luzern

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サンティアゴ・カラトラヴァ設計による「Bahnhof Luzern(ルツェルン中央駅)」.火災にあった駅の再建らしいが,どこからがカラトラヴァの手によるものかはよくわからない.更に構造がよくわからない.立面にあるコンクリートのゲート状の構造体が鉄骨の柱に支えられていて,そのゲートからガラスを通り抜けて屋根に繋がる線材がある.それが張弦梁の束材のようなところに位置していて紛らわしいが,どうやらゲートからガラス屋根を支える鉄骨を引っ張っているようである.結局,頭でっかちのゲートは,柱と引っ張り材でバランスを取っているように見えるけど,こんな感じの解説で合っていますか,okd先生? 短辺方向はそうだとして,長辺方向はゲート同士が繋がっているから大丈夫ということでしょうか? 地震がないからいいのかな? okd先生,解説お待ちしております.

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何れにしても,建築的にはイマイチ.それよりも,地下にあったロス・ラブグローブのベンチがよかった.日本では「まつもと市民芸術館」のホワイエに置いてあるけど,こんな公共的な場所に無造作に置いてあるなんて,さすがスイス.しかし,かなり汚れていたし,もともと汚れが目立つ素材だね,これ.

建築 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 10:03 | TrackBack (0)

展示室にある縦長の扉@luzern

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初めてのスイス.ルツェルンにて「Kunstmuseum Luzern(ルツェルン美術館)」へ行くと,4つの展覧会が同時に行われていた.「Kunst überforden」と題されたAldo Walkerという画家の回顧展.どれもどこかで見たようなコンセプチュアル・アートという感じで,年代によって様々に作風が変化しているが,それが更に一貫性を失なわせている.展示壁面に直接描くグラフィックのような作品(再制作)など,悪くないものもあるのだが,全体的にはB級に見えてしまう.「Der Lesesaal」は読書室という意味だが,スイスの有名な画家(らしい)Hodlerなどのコレクション展.それと同時に,それらの画家にまつわるテキストを展示室内で読むという企画.そのために読書用の特別な家具(Vaclav Pozarekによる)までもデザインされている.本を読み上げる人たちの映像を映し出すビデオ・インスタレーションも同時に展示され(Rémy Markowitschによる),絵画とテキストの関係を探ることで単なるコレクション展には留まらない工夫をしている.しかし,残念ながらドイツ語がわからず,その効果は不明.この2つがメイン展示となっており,奥まった展示室に,「Have a nice Day」と題されたWerner Meierという画家の新作展と,Barbara Daviによる「NANTUCKET」というインスタレーションが展示されている.

美術館は,ジャン・ヌーベル設計による「Kultur- und Kongresszentrum Luzern (KKL)(ルツェルン文化会議センター)」の最上階の一部を占めており,他にもコンサートホールや会議場などを持つ大型複合施設であるが,コンベンションが行われていて,ホワイエの中にすら入れてもらえなかった.この建物は,Vierwaldstätterseeという湖の湖畔に位置しており,カペル橋などの観光名所に向き合うと同時に,「ルツェルン中央駅」(カラトラヴァ設計)が目の前にあって利便性もよく,更に背景にはアルプスの山々が広がる絶好の場所にある(写真右端の黒い建物がKKL).その割には,写真で見ると格好のよい外観に見えるが,実際にこれらのコンテクストを同時に目にすると,やや閉鎖的な印象が強すぎる.特に駅側のグレーチング状のものに覆われた立面は牢獄のよう.
建物全体は大きく3つの棟に分割されており,駅側の2つの最上階に美術館がある.基本的には,駅に最も近い幅の狭い棟は,手前の展示室(5室)がコレクションを中心とした展示で,その奥の1室はプロジェクトルームといった趣き(今回のインスタレーション展示)であり,幅の広い棟は,手前の展示室(10室)が企画展で,奥まった2室が小さな個展を行うようなスペースである.見に行った日が,ちょうど幅の狭い棟の展示初日に当たっていたが(「Der Lesesaal」,「NANTUCKET」),全てを一斉に替えるのではなく,部分的に展覧会を入れ替えながら活動しているようだ.
展示室は標準的なホワイトキューブで,全て同一レベルにあり,広い空間がいくつかの大きさの部屋にグリッド状に分割されているが,天井高は変化しないために,印象としてはやや単調である.天井は全面が光天井(おそらく自然光も入れることができる)による同一のシステムで,きれいだけれども,これも単調.ビデオが展示されていた部屋は,天井全体の明るさを落として対応しており,それは後述の小さな入口と相まって効果的.床は濃いグレーのテラゾーのようなもので,これは目地も少なくミニマルな表情がよかった.
2つの棟の間には,展示室同士を繋げるガラス張りのブリッジが何本かあり,そこから湖の風景を垣間見せることによって,展示室の単調さを回避しようとしているようだが,それにしてもブリッジが奥まりすぎていて,それほど開放的ではない.一方の棟には外部避難階段が湖側に下りていて,それに通じる出口もガラスの扉となっており,それに合わせて展示室同士の入口が開いているため,最も奥の部屋からも外の光が見えるといった工夫もされている(詳しくはこちらの写真を参照).
最もおもしろかったのは,展示室同士を繋ぐ全ての入口が,高さも幅も小さく抑えられており(W1.2m×H2.4mくらい?),そのために小気味よく部屋が分割されていて,その一方で,全ての部屋の壁の一隅に,幅は1.2mくらい,高さは天井高さいっぱいの扉が付いており,どうやらそこから作品を展示室に搬入するらしい.壁の目地が気になると言えば気になるけれども,なかなかおもしろいアイディア(残念ながら,展示室内は撮影禁止).巨大な立体作品はどうするのだろうとも思うけど,あんまり大きいとエレベータにも載らないだろうから十分成立しているだろう.
おまけ.美術館のチケットを持っていると入ることのできるArt Terraceがあるのだが,巨大な大屋根の真下の空間で,建築空間としてはおもしろいかも知れないけれど,なんだかよくわからない場所.
更におまけ.コンサートホールなどのホワイエ面のガラスには,様々な言葉と筆者(話者?)が,様々に印刷されており(コスースか誰かの作品?),それは悪くないグラフィックだった.
ちなみに,ヌーベルに関するおまけ.駅前にあるバス停もヌーベルのデザイン? 同じルツェルンにある「The Hotel Luzern」は,客室(の天井)はよさそう.外から見ただけだけれども.

美術 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 9:39 | TrackBack (0)