鈴木邦男×朝倉喬司“日本の自殺”

 昨日は鈴木邦男氏がノンフィクション作家の朝倉喬司氏を迎え、日本の自殺について語るというイベントに行ってきました。現在、朝倉氏は日本の自殺(ただし80年代まで)についての本を執筆されているのでそれもちょっと紹介しつつ、という内容。

 以下、長文注意です。

 このトークライブを聞きに行くにあたって、あらかじめ鈴木氏に「なんか読んでおいたほうがいい本ありますか?」と聞いていたんですね。そうしたら高橋たか子『誘惑者』(講談社文芸文庫)保阪正康『死なう団事件 軍国主義下のカルト教団』(角川文庫)を読んでおきなさい、とのことで。
 この『誘惑者』がかなり良かったんですね。久々にいい小説を読みました。なんだろうかこの感覚……すごく共感できるのです。人間(特に女性)のなかにある黒く渦巻く闇みたいなものをかなり正確に描写していて、その曖昧な感覚が的確で驚きました。オススメ。

 で、この『誘惑者』は実際に起こった事件をもとに書いてるフィクションなんですよ。それについての話にもなり、鈴木さんが「マイちゃん読んだでしょ? どう思ったか朝倉さんに話して」と振ってきたので感想を述べさせていただきましたが、実は『誘惑者』はかなり事実を入れ替えたりしていたようで、あんまり私の感想は意味がなかったような。作中にどう考えても澁澤龍彦だろっていうキャラが出てくるので、朝倉さんに「あの澁澤龍彦みたいなキャラはもろに澁澤龍彦ですよね?」と聞くと、「そのとおり。だからね、澁澤世界に足を踏み入れてる人が読むと絶対に気付くんだよね。もっと言っちゃうと、高橋たか子と澁澤は不倫関係だったんですよ。知ってる人はみんな知ってる事実だけど」と教えてくれました。そうだったのかーっ! たしかに共著とかしてるし、親しかったんだろうなとは思ってたけど……高橋たか子うらやましい。

 そんな話はいいとして。

 この『誘惑者』のもとになった事件は昭和8年(1933年)1月9日、当時23歳の女学生、真許三枝子が三原山に投身自殺をしたことが発端で、2月12日にその友人だった松本貴代子が同じく三原山で投身自殺をしたんですね(これが三原山投身自殺ブームを起こしたんだけど)。で、この両方の投身自殺に同行していた富田昌子が“死を誘う女”として話題になってマスコミに追い掛け回され、3ヵ月後に変死してしまうのです。
 たしかに真許三枝子のときはみずからすすんで(?)同行したんだけど、松本貴代子のときはなかば本人に「連れてってくれないと真許三枝子のことをばらす」みたいに脅されて同行したそうで。この3人のなかで松本貴代子がいちばん強い思いで自殺したがっていた、と朝倉さんはおっしゃっていました。小説ではちょっと違うんですけど。

 他に印象的な自殺者として、藤村操(当時16歳)が挙げられていました。彼は明治36年(1903年)5月22日、華厳の滝に投身自殺をしたんですね(これが華厳の滝を自殺の名所にしたわけですけど)。彼は夏目漱石の生徒で、漱石もかなりこの自殺にショックを受けたそうです。『吾輩は猫である』にちょっとそのことについて触れている部分があるらしく。で、この藤村操が印象的だったのは、死ぬときに近くにあった樹を削って辞世の句みたいのを詠んでいるんですね。これがあの有名な「悠々たる哉天壌、遼々たる哉古今」とのことで。知らなかった!

 とかまあこうやっていくつかの事例を挙げて朝倉さんが説明してくれたんだけど、ナルホドなあと思ったのが、野村秋介が言っていたという“右翼の自殺は詩的、左翼の自殺は政治的”という話でした。右翼は死んで高天原(たかまがはら:これは古事記に出てくる天上界ですね)に行く、という共通意識があるから自殺が詩的になるけど、左翼にはそういうものがないから、ただ単に手段としての自殺で政治的だということで。なるほど! 言われてみればそうだなと思いました。
 それから“キリスト教では自殺については禁止されていない”と鈴木さんが指摘していて、たしかにキリストだって「自殺するな」とはひとことも言ってないし、モーゼの十戒にも「自殺するな」とは書かれていない、なのになんとなく“キリスト教=自殺禁止”のイメージがあるのは実は「ローマにおいてキリスト教が国家の宗教になったときに、自殺が法律として禁止された」ということなんですね。なぜ禁止になったかというと簡単で、「労働力が減るから」。これはそういえばフーコーも書いてたなと。そんなもんなんですね社会における人間の命なんて(とか言うと元も子もないけど)。

 で、色々と研究してきた朝倉さんが結局思うところは「自殺する人間は死ぬことで尊厳を守る」ということだそうです。だからよく言われる“尊厳死”というのも、もしかすると自殺の延長線上にあるのかもしれないねぇ~なんて話にもなりました。
 あと最近のネット自殺については基本的にまったく理解できないけど、「自殺する人の感情は自殺してみないとわかりません。もしかすると、やっと死ねる! ってみんなすごく幸せで、ワイワイ言いながら山でバーベキューとかまでしちゃって集団自殺したかもしれないしね」ということでした。たしかに……でも理解できない。

 ということで、『誘惑者』はとてもいい作品なのでぜひ読んでみて下さい……としか言いようがないです。これだけ書いておいて。

行ってきました♪ | Posted by at 4 14, 2005 20:18


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