室伏鴻「始原児」

 昨日は麻布die pratzeで室伏鴻ユニットの『Experimental Body』Vol.2「始原児」を観てきました。ご存知のとおり、室伏鴻氏は土方巽に師事していた方ですね。
 今回は室伏鴻氏が振付、構成、演出を手がけ、若手の男性のダンサー3名(目黒大路、鈴木ユキオ、林貞之)がメインで踊り、途中で室伏鴻がソロで踊るというもの。

 パンフレットに書いてあった今回の公演の文章が非常に良かったので全文掲載。


「始原児」

 舞という字は美しい。歩いていると看板に「舞」と書かれていたりして振り向けばバーのネオンだったり、扉を開ければ舞なんて彼・彼女がいたりしたが……舞さんと舞い上がれば必ず墜落や転落があるからカラダにいくつ裏表があっても不足、で、出口と入口のあたりで踏み迷って舞−踏になった……踏み外してダンスだ。
間のハイフンにはなにかあるのか?なーんにもない。ただハイフン、舞い上がらずとも宙吊りのカラダの孤独に見舞われる<間>があるというわけだ。暁には墜落があり、着水がある。

 ……神話的なイメージを反復したいわけではない。昨日置き忘れた記憶をいくら探ぐってもモノは出てこない。思い出そうとして悪戦する現在があるだけだ。わたしたちの、種族の根源のようなところにまでバンジー・ジャンプできたら、できるかもしれない、踊りでそれが出来るかもしれない、って言ってるひとがいたけど、無−起源の無限の飛翔、場所なき場所の孤独の反復があるだけだ。

 忘れた乙女の歩行を憶い出す、童貞の歩行が炸裂する。忘却が捩れ、喉も砕けて声が出ない。「出来あがらない」ための、これからがステージ。函とロープを用意した。そしてジョン・レノンも。

室伏鴻


 素晴らしかったです。ものすごい興奮しました。

 まず幕が開けて、真っ暗なステージにスポットライトが3つ点り、天井からロープで逆さ吊りされてる、黒い下着だけを身につけた3名の男性ダンサーをそれぞれが照らし出してるところでグッとくる。その肉体たるや、驚きますね。ダンサーの筋肉のつき方は本当に素晴らしい。宙吊りから舞踏に入るときの、筋肉のひそやかな、かつ脈々とした流れが、スポットの照明であらわになっててもうその時点から大興奮。
 途中、再び真っ暗になって、3人のダンサーの床を這う音と息遣いしか聞こえないところがあるんですが、それでもその音を伝って、動きが鮮明にイメージされるのは面白いなあと思いました。にしても、土方巽系列の舞踏って、筋力とバランス感が秀でてる気がします(他はあんまり知らないけど)。腕をひとつ動かすにも、ものすごい時間をかけて少しずつ筋肉の収縮を移動させていくというか、そういう踊り方なので、裸体とスポット照明がいちばん効果的。だと思う。

 室伏鴻のソロは時間が短くてちょっと残念だったけど、ものすごく力強いうえに気品溢れてて、それでいてエロで、かなり集中して観る。筋肉の少しの動きも洩らさないように、そのカラダの隅々までなめまわすように観る(笑)。『土方巽 夏の嵐』で観た土方巽の舞踏は、古い映像だったうえにカラダに布とか巻いていたので、ちょっとぼやけたイメージしかなかったんだけど、実際の筋肉のカンジはどうだったんだろ。室伏鴻のカラダは完成されすぎてる気もするかなあと。もう少し貧弱なカラダだったらもっと切実になるような気がしました。でも彼のステージは切実さを求めるものではないと思うので、ひたすら美しいってことでいいのかも。

 全体を通した印象は……「生命体」でした。わりと深いところまで生命体について問われたカンジで。かといって、1時間半強の公演をぶっ通しで真顔で観るってわけでもなく、笑いもあったりして、最後はすごいハッピーな気持ちになる演出もあり(途中はなんだかものすごい不安になったりしたけど。恐怖感とかで)、暗黒舞踏みたいな怪しさはないモダンなステージでした(ちなみに室伏鴻はほぼ前張りみたいなふんどしみたいな下着に、全身銀粉を塗ったくっていました)。

 ともあれ、室伏鴻はクセになりそう。ちなみに外国人のお客さんが多かったです。


 えーと、関係ないけど今日は三島由紀夫の命日です。

行ってきました♪ | Posted by at 11 25, 2004 17:32


TrackBacks




Comments

憂国忌ですね。

Posted by shinya at 2004年11月25日 17:46

とは言っても、こんな有様らしいから、「国を喜ぶ」ということになるのかな? うーん、憂国(もしくは憂大学)。

Posted by shinya at 2004年11月25日 20:43

憂国忌行きたかったんだけどスケジュールが合わず。
来年は35年祭だから絶対行きます!
前日も野分祭(各方面から「来なさい」とお誘いアリ・笑)と室伏鴻で迷ったあげく、舞踏にしました。

> こんな有様

そうなのよー! もうね、さすがにこれは憂国でしょ?

Posted by mai at 2004年11月26日 11:04