ヴィトラのセンス@weil am rhein

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「Vitra Design Museum(ヴィトラ・デザイン・ミュージアム)」はドイツのヴェイル・アム・ラインにあるのだが,スイスとの国境沿いの町であることから,バーゼルからバスで向かう.ちなみにこの「ミュージアム」が面する通りの名前はCharles-Eames-Straße.

「ミュージアム」(1989)はフランク・O・ゲーリーの設計.さすがの造形力ではあるが,予想していたよりも遙かに小さい建物であったことに驚く.更に巨大なコンクリートの塊というイメージだったはずが,エントランスのキャノピーの下から鉄骨構造を覗かせていたこともあって,非常に軽快な建物に思えた.主体構造がはっきりしない建物で,わざわざ本体と同等のボリュームで構成されるキャノピーが鉄骨造であることを示すなんて,きっと確信犯に違いない.何れにしても,この建物の主体構造は何なんだろう?
中ではジョエ・コロンボの家具やプロダクトを展示する「Inventing the Future」展を開催中.オープン当初は椅子のコレクションを展示していたのだが,最近は企画展示に使用しているらしい.そのため,開館当時の雑誌では巨大なトップライトから光が降り注いで複雑な内部空間を美しく見せていたのだが,現在では展示保護のためかトップライトが塞がれた暗い展示室を見ることができるだけで,せっかくの内部空間がぶち壊しだった.これは今回の企画展に限ったことなのかも知れないが,内部を含めた造形美が見所の建物のトップライトを塞いでしまうヴィトラのセンスを疑ってしまう.外観だけ見ることができればよいということだろうか? ビルバオは知らないが,このくらいの規模の建物だと,いくら複雑な造形であっても内部と外部には必ず関係が生じるだろう.トップライトを持つ故の外観の造形であるし(逆に外観故にトップライトが付いたのかも知れないけれど),内部に階段が必要である故にスパイラル状の造形が外観に現れているはずなのだが…….他にもゲーリーは「ミュージアム」の背後に「工場」を設計している.
12時と14時の2回,2時間の建築ツアーが行われる.それに入ると「ミュージアム」の奥にある工場の敷地内に入ることができる.入口近くにジャン・プルーヴェの「ガソリンスタンド」(1950年代)とバックミンスター・フラーの「ドーム」(1951)があるが,何れも外観を見ることができるのみ.続いてニコラス・グリムショー設計の「工場」(1981/86),アルヴァロ・シザ設計の「工場」(1994)も外観のみを見学.まあ,ただの工場で特筆すべきことはない.
続いてザハ・ハディド設計による「消防署」(1993)の見学.建設当初は消防署に使われていたが,以前「ミュージアム」に展示してあった椅子の展示室に変更された.デコンストラクティビズムを正確に実現したザハの処女実作として,今では歴史的な意味合いすら持つようになったが,コンクリートのキャノピーの先端が垂れ下がっていたり,風雪に耐えているとは言い難いようだ.建設当時には掲載された雑誌などを食い入るように見たものだが,正直言って現在でも通用するデザイン言語とは思いにくく,何よりもコンクリートの造形が重々しい.更に椅子の展示方法があまりにもひどく,壁一面に棚を作って100脚の椅子を並べているのだが,倉庫に在庫品が並んでいるという風情.椅子なのだから座ることができないまでも,せめてもう少し近い床の上で鑑賞したい.ここにもヴィトラのセンスのなさを感じてしまった.付け加えると2時間の建築ツアーの内,かなりの時間(30分以上?)をこのコレクションの解説に費やされてしまい,建築を見に来た身としては時間がもったいなく感じる.ちなみにヴェイル・アム・ラインにはザハ作品がもう1つある(「Landesgardenschau」(1999)住所はMattrain 1).
最後は安藤忠雄の「コンファレンス・パビリオン」(1993)の見学.ヨーロッパにおける安藤作品としてはよくできているし,断熱を確保するために二重壁を使ってまでも打ち放しコンクリートの壁を実現している.しかし,初期の安藤作品が打ち放しを選んだ大きな理由に経済的なこともあったと思うと,ここまで来ると様式と化しているとしか思えない.しかも,関西にある良質な安藤作品と比べると大したことはない.それでもヨーロッパの人たちにとっては実際に訪れることのできる安藤作品として貴重な存在なのだろう.海外の人たちは本当にANDOが好きだから.
結論から言うと,もしバーゼルに余裕を持って滞在できるのならばツアーの参加を薦めるが,時間のない日本からの旅行者は「ミュージアム」だけの見学に留めて,少しでも多くバーゼルの他の現代建築を見ることを薦める.やはりバーゼルでも建築のガイドブック「Architektur in Basel」が配布されていて,H&deM作品の所在地など105作品が地図・住所付きで紹介されている.そして日本に帰ってきてから,関西にある80年代以前の安藤作品をぜひ見てほしい.

建築 | Posted by satohshinya at August 10, 2006 23:47 | Comments (1) | TrackBack (0)

すべては建築である@wien

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大学3年の時に磯崎新氏の『建築の解体』を読んで,自分でも建築ができるのではないかと思った.その中でも特に印象的だったのがハンス・ホラインの言葉「Alles ist Architektur(すべては建築である)」.ウィーンでは,そのホラインの3つの傑作と出会った.

「クンストハレ」「Summer of Love」展では多くの建築家による作品も展示されていた.ロンドンからはアーキグラム,ウィーンからはコープ・ヒンメルブラウなど.そこに『建築の解体』の中で最も影響を受けたホラインの作品が展示されていた.『Non-physical Environmental Control Kit』(1967)は一種の覚醒剤のようなものだと思うが,人間の空間知覚に対する体験を与えるという意味ではカプセルさえも建築と呼びうるという作品.それを読んだ当時は,これを建築と呼ぶことで建築を考えることが飛躍的に自由になったように感じられたし,一方で空間知覚に対する体験を与えることが建築であるという考えは非常に当を得ているように思えた.そんな作品の実物にこんなところで出会えるとは思わなかった.その他にもホラインによるコンセプチュアルな作品の数々が並んでいたが,今となっては60年代ムーブメントの一部として扱われてしまっている.しかし,それらは明らかに建築だった.

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そんなホラインの初期のインテリア作品は恐ろしいほどにフェティッシュなものである.ウィーンを歩いていて見つけた「レッティ蝋燭店」(1966)は,40年経過した現在から見ても宝石のような佇まいをそのまま見せていた.コンセプチュアルな作品を手掛けていた一方で,こんなにも魅力的な造形を的確な素材によって表現した建築を同時に作り出していたのだ.

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ウィーンでは誰もが目にする「ハースハウス」(1990)は,歴史的建造物であるシュテファン寺院が面する特別な場所に建つ商業施設である.確かにポストモダンのデザインは好き嫌いがあると思うが,実際にこの場所に立つと,この建物が非常に正確なボリュームの配置と素材の選択によって,堂々とこの場所にはまっていることがよくわかる.適度に分節され,適度に装飾的な20世紀のポストモダン建築は,13世紀のゴシック建築に見事に対峙している.
コンセプチュアル・アートのような作品,工芸品のような小さな作品,歴史的街区に建つ大きな作品,それらのすべてにおいてホラインは優れた建築を作り出している.こんな人に言われると,すべては建築であるという言葉を信じてもよいような気がする.

建築 | Posted by satohshinya at July 26, 2006 22:22 | Comments (2) | TrackBack (0)

哲学者の家@wien

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ウィーンにも建築のガイドブックがあって,ホテルなどで手に入れることができる.この「Architektur Vom Jugendstil bis zur Gegenwart」はご丁寧に日本語訳まで付いていて(表紙と見出しのみ),「建築:ユーゲントシュティルから現代まで」とある通り19世紀末以降の建築が地図・住所付きで紹介されている.実際に手に入れたのがウィーン滞在の最終日であったために訪れることができなかったが,アドルフ・ロースなんかは住宅が6軒も紹介されている.中に入ることもできるのだろうか? とにかく有名な建築はほとんど紹介されているので,これだけでも結構役に立つだろう.
その中に見たいと思っていて,これがウィーンにあることを知らなかった住宅があった.慌てて訪れてみたが,公開時間に間に合わず(月〜金9:00〜12:00,15:00〜16:30)一足違いで見ることができなかった.ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン他設計による「ストーンボロー邸(Haus Wittgenstein)」(1926-28)がそれである.この住宅については『ヴィトゲンシュタインの建築』という本に詳しい.

次に訪れるときのために住所をメモしておく.皆さんもぜひ.
3., Kundmanngasse 19 (U3, Bus 4A)

建築 | Posted by satohshinya at July 26, 2006 7:03 | Comments (4) | TrackBack (0)

篠原一男さんが亡くなった.
大学2年生くらいのとき,知人に連れられて篠原さんの自宅を訪れたことがある.アップダウンのある林の中の細い道を歩いていった記憶があるが,道から少し上がったところに日本家屋と隣接してそれはあった.篠原さんの自宅兼アトリエの増築として建てられた「ハウス イン ヨコハマ」(1984)が,その小高い茂みの中に先端だけを覗かせていた.今から思い出しても,その15年以上前の記憶は幻であったのではないかと思えるくらい,その姿はこの世のものとは思えないような佇まいを見せていた.それどころか見てはいけないようなものを見てしまったような気がした.もちろん中に入ることは叶わなかったし,既に取り壊されてしまったという話も聞く.
後年,偶然に「上原通りの住宅」(1976)に出会った.そのときにもまた目の前にありながら,今まで見てきた建築とは異なるものとして存在しているように思えた.その存在感に圧倒され,ただその前に立ち尽くすしかなかった.
ご冥福をお祈りする.

建築 | Posted by satohshinya at July 18, 2006 6:21 | Comments (1) | TrackBack (0)

20世紀の先頭@wien

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オットー・ワグナーの建築をいくつか見たが,中でも「郵便貯金局」(1904-12)のインテリアはすばらしいものだった.天気がとてもよかったことも手伝って,半透明の光天井はとても美しく,構造体の影が消え入るが,上空の青い空は薄らと認識できる.単なる透明なガラス屋根ではないところが,確固としたボリュームを持つ空間を構成しているとともに,そんな曖昧な見え方を生み出しているのだろう.外観こそクラシカルであるが,やはりこのインテリアだけは特別なものだった.

それ以外は,確かにある時代におけるデザインとしては優れたものだが,現在にも通用する感性で作られたものには思えない.「シュタインホーフの教会」(1907)には行っていないので何とも言えないけど,「郵便貯金局」のインテリアは偶然の産物だったのかな?
「マジョリカ・ハウス」(1898)も期待していたんだけれども,予想以上に壁画的であった.ちなみに1階になぜか日本の定食屋が入っていて,思わずそこでコロッケ定食を食べてしまった.

建築 | Posted by satohshinya at July 5, 2006 14:45 | TrackBack (0)

さすがベンツ@stuttgart

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たまには建築の話題.UN Studioの最新作である「Mercedes-Benz Museum(メルセデスベンツ博物館)」を見た.さすがにベンツの博物館だけあって,細部に至るまでよくできている.

三角形の平面形に,メイン展示とテーマ展示がダブルスパイラル状に複雑に絡み合っているのだが,そのメイン展示のインテリアが圧巻で,ベンツの内装用の皮(だと思う)などを使い,全てのフロアで素材とデザインが異なっており,膨大な労力が使われている.
その一方で,その空間を支える構成としては,微妙に変形しながらも同様な形態が反復するため,インテリアが異なることや,光の入る方向や見渡せる風景に違いがあるものの,基本的には単調である(東急ハンズ渋谷店みたいと言ったら怒られる?).そして,そこがデザイン的には1つの見せ場なのかもしれないが,ダブルスパイラルを一続きに見せるために歪めた床は,もちろん展示に利用することはできず,この手の建築特有のデッドスペースとなってしまっている.何れにしてもよくできているので一見の価値はあるが,残念ながらもう1回は行く気はしない.
ちなみに,ワールドカップ開催中の『ゴットリープ・ダイムラー・シュタディオン』が隣にある.

建築 | Posted by satohshinya at June 19, 2006 10:58 | TrackBack (1)

最近の木造駅@bern

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ベルン中央駅には,旧市街へ向かう東側の出口の他に,ベルン大学へ向かう西側の出口がある.そこに集成材を使った屋根が掛かっていた.

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プラットホームとその上のコンコースを木造の屋根で繋げて覆い,間の通路部分のみ鉄骨によるガラス屋根が掛かっている.「パウル・クレー・センター」の構造体の曲線とあまりにも似ていたから,最初はレンゾ・ピアノによる設計かと思ったけれど,よく見てみるとディテールがそれほど洗練されていない.しかし,このような公共空間(しかも外部)に堂々と木造の屋根が掛けられているのには驚くし,デザインの善し悪しは別としておもしろいものだった.
後から調べてみると,ベルン中央駅の改修はアトリエ5の設計で,少なくとも東側のガラス張りの建物は彼らの設計である.しかし,この西口までが彼らの設計であるかはわからなかった.

建築 | Posted by satohshinya at June 3, 2006 17:13 | TrackBack (0)

全国の構造ファンへ・その4(膜構造編)@luzern

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「Glatschergarten(氷河公園)」に立ち寄る.1872年に発見された,氷河時代に生み出された天然記念物を保存展示する博物館.そこに,天候の変化や汚染された大気の悪影響から保護するため,開館から100年以上が過ぎた1980年頃に膜が掛けられたそうだが,この膜の使い方がなかなかおもしろかった.構造的には特筆すべきものはないように見え,むしろ,更に構造的なデザインが加わればもっとよいものになると思うが,既存の樹木が膜を突き抜け,それが膜に影を落とすなど,よい表情を見せていた(アクソメ図も参照).

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ちなみに,こんな博物館にまで足を運んだのは,スイスにはSchweizer Museumspass(スイス・ミュージアム・パスポート)という優れものがあり,30CHF(日本円で3,000円くらい)で,スイス国内の300近い美術館・博物館に入場無料(1ヶ月間有効)となる.それを用いて,時間のある限り端から見て回ったため.ちなみに,1年間有効(111CHF)のものもある.

建築 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 14:43 | TrackBack (0)

全国の構造ファンへ・その3@luzern

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サンティアゴ・カラトラヴァ設計による「Bahnhof Luzern(ルツェルン中央駅)」.火災にあった駅の再建らしいが,どこからがカラトラヴァの手によるものかはよくわからない.更に構造がよくわからない.立面にあるコンクリートのゲート状の構造体が鉄骨の柱に支えられていて,そのゲートからガラスを通り抜けて屋根に繋がる線材がある.それが張弦梁の束材のようなところに位置していて紛らわしいが,どうやらゲートからガラス屋根を支える鉄骨を引っ張っているようである.結局,頭でっかちのゲートは,柱と引っ張り材でバランスを取っているように見えるけど,こんな感じの解説で合っていますか,okd先生? 短辺方向はそうだとして,長辺方向はゲート同士が繋がっているから大丈夫ということでしょうか? 地震がないからいいのかな? okd先生,解説お待ちしております.

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何れにしても,建築的にはイマイチ.それよりも,地下にあったロス・ラブグローブのベンチがよかった.日本では「まつもと市民芸術館」のホワイエに置いてあるけど,こんな公共的な場所に無造作に置いてあるなんて,さすがスイス.しかし,かなり汚れていたし,もともと汚れが目立つ素材だね,これ.

建築 | Posted by satohshinya at May 10, 2006 10:03 | TrackBack (0)