すべては建築である@wien

R0011350.jpg

大学3年の時に磯崎新氏の『建築の解体』を読んで,自分でも建築ができるのではないかと思った.その中でも特に印象的だったのがハンス・ホラインの言葉「Alles ist Architektur(すべては建築である)」.ウィーンでは,そのホラインの3つの傑作と出会った.

「クンストハレ」「Summer of Love」展では多くの建築家による作品も展示されていた.ロンドンからはアーキグラム,ウィーンからはコープ・ヒンメルブラウなど.そこに『建築の解体』の中で最も影響を受けたホラインの作品が展示されていた.『Non-physical Environmental Control Kit』(1967)は一種の覚醒剤のようなものだと思うが,人間の空間知覚に対する体験を与えるという意味ではカプセルさえも建築と呼びうるという作品.それを読んだ当時は,これを建築と呼ぶことで建築を考えることが飛躍的に自由になったように感じられたし,一方で空間知覚に対する体験を与えることが建築であるという考えは非常に当を得ているように思えた.そんな作品の実物にこんなところで出会えるとは思わなかった.その他にもホラインによるコンセプチュアルな作品の数々が並んでいたが,今となっては60年代ムーブメントの一部として扱われてしまっている.しかし,それらは明らかに建築だった.

R0011286.jpg

そんなホラインの初期のインテリア作品は恐ろしいほどにフェティッシュなものである.ウィーンを歩いていて見つけた「レッティ蝋燭店」(1966)は,40年経過した現在から見ても宝石のような佇まいをそのまま見せていた.コンセプチュアルな作品を手掛けていた一方で,こんなにも魅力的な造形を的確な素材によって表現した建築を同時に作り出していたのだ.

R0011298.jpg

ウィーンでは誰もが目にする「ハースハウス」(1990)は,歴史的建造物であるシュテファン寺院が面する特別な場所に建つ商業施設である.確かにポストモダンのデザインは好き嫌いがあると思うが,実際にこの場所に立つと,この建物が非常に正確なボリュームの配置と素材の選択によって,堂々とこの場所にはまっていることがよくわかる.適度に分節され,適度に装飾的な20世紀のポストモダン建築は,13世紀のゴシック建築に見事に対峙している.
コンセプチュアル・アートのような作品,工芸品のような小さな作品,歴史的街区に建つ大きな作品,それらのすべてにおいてホラインは優れた建築を作り出している.こんな人に言われると,すべては建築であるという言葉を信じてもよいような気がする.

建築 | Posted by satohshinya at July 26, 2006 22:22


TrackBacks




Comments

ちょっとポストモダンっぽいところは苦手ですが(笑)
ホラインがいろいろと美術よりっぽい展覧会や
舞台美術に出している作品をみると
いわゆる建築家という枠組みではなく
空間を扱う表現者として関心します。

久々に建築に対して前向きなコメントですね。
ホラインのは僕もみてみたいです。
シュリン宝石店とかもまだあるのですかね?

Posted by hy at July 27, 2006 3:02 AM

前向き?(笑)
「シュリン宝石店」もあるようです.「レッティ」も既に蝋燭店ではなく,ハースハウスもインテリアは別の建築家によって改装されてしまったようですが,ウィーンにはホライン建築が結構残っているみたいです.何も下調べをしないで行ったので,ほとんど見つかりませんでしたが.

Posted by satohshinya at July 27, 2006 6:43 AM