日本画によるインスタレーション
「横山大観「海山十題」展」(東京藝術大学大学美術館)を見た.黒田清輝に引き続き,横山大観はよく知っているし,おそらく作品もいくつか見ているが,全く興味のない作家だった.更に,六角鬼丈さん設計の展示空間が好きではないこともあって,ほとんど期待をしないで見に行った.ところが,これがすばらしい展示だった.
大戦に向かう国家に貢献するために,大観は海の絵10点と山の絵10点を描き,現在のお金で20億円の売り上げを得て,4機の戦闘機を軍に寄贈したとのこと.その背景の善悪はともかくとして,完成直後でも山と海が10点ずつ別会場で展示されたのみだったものが,一同に20点が集められている.
つまり,同一のコンセプトで描かれた作品が,当時の大観が意図した配列を再現されているとともに,1点ずつ展示ケースが作られている熱の入りようで,展示空間が1つの作品として十分成立している.ここでもまた,確かな展示がすばらしい作品空間を生み出す好例となっている.日本画もバカにできない.
なぜblogか?
4月からgumoblogに参加し(このページのエントリ中,7月まではgumoblogより転載したもの),5ヶ月近く経つ.結局,研究室のホームページ自体をblogでリニューアルし,この小学生の交換日記が集積されたような個人ページを作るに至っている.
非常に単純な話,ある情報や問題を共有することにより,個人ではたどり着くことのできない結論へと到達できるのではないかという淡い希望を持っている.そのためのツールとなる,気軽な他者の介入を可能とするcomment機能と,更なる深い他者との応答を可能とするtrackback機能は,わざわざ僕が説明するまでもなく,blogの重要な魅力である.もちろん,blog自体は,未知の他者に対してもtrackbackが可能であり,そこから関係が始まることを可能にするわけだから,研究室という単位で交換日記(trackback)をやり合うことには積極的な意味はないかもしれない.それでも,gumoblogの経験から言うと,既知のメンバーによる交換日記を足掛かりとして,更に大きな交換日記へと向かう方法は,現時点でのblogの使用方法としては有効ではないかと思う.
blogは,17日の「朝日新聞」夕刊にも取り上げられているように,注目されているツールである.批評家,演出家,複数作家によるblog雑誌,美術館の学芸員,アイドル,校長,社会学者,大学授業での使用,女優の携帯日記,その他様々な著名人によるblog,もちろん建築家,建築研究者,住宅のクライアントまで存在している.
「日記」として書き始めているように,わざわざヨーロッパで携帯を使うのも,もしかすると,そこから何かが発見できることを期待しているから.日記も携帯も嫌いだけれども(もしかすると大好きで,中毒になるのが怖いだけかもしれないけれども),blogをツールとして最大限に使うことで,楽しめればよいと思っている.乞うご期待.
1ファンのたわごと
『スチームボーイ』を見た.正直言って,ほとんど絶望的な気分で映画館へ行った.
僕は『アキラ』の連載が始まる前からの大友克洋の大ファンだった.今でも,最も衝撃を受けたマンガだと思う『童夢』を読んでから,既に20年以上が経過している.その神様みたいな大友が,9年と24億円を掛けて映画を作る.あの『アキラ』でさえ,連載開始から,最後の単行本が出るまでが約10年で,その間に『AKIRA』も作っている.そして,今回の舞台は19世紀のロンドン.正直言って,企画が始まった時点から,おもしろいはずがないだろうと思っていた.それなのに,こんなに長い期間を掛けて……(ちなみに,『アキラ』はマンガ,『AKIRA』は映画.)
案の定,公開後の評判は最悪なものだった.特に夏目房之介さんが,自身のblogに《『スチームボーイ』はどうなんだろう.大友が抱え込んじゃったものだけに,ちょと不安はあるね.》と書いている.夏目さんに《大友が抱え込んじゃったものだけに》と言われてしまうと……そうだよな,9年間も抱え込んじゃったんだよな,とますます暗い気分になり,映画館に足が向かなかった.
そして,ようやく見た.結果は,とてもおもしろかった.これは紛れもない大友作品だった.この作品に批判的な人たちは,一体,何を大友克洋に望んでいたのだろうか? 『AKIRA』みたいな映画? 僕にとっては,『アキラ』以前の作品が,本来の大友作品だと思っている.むしろ,『アキラ』は少しハードすぎた.
『Fire-ball』は兄弟,『童夢』は女の子とおじいちゃん,『アキラ』は幼なじみ,そして,『スチームボーイ』は親子三代の話.それが,当事者以外の人から見ると,大事件に見えたり,戦争に見えたりするというのが基本的な構造.そして,その事件を冷静に見ている子どもたちの視線が描かれる.『童夢』もそうだし,初期の『宇宙パトロール・シゲマ』だってそう(まあ,今回のロンドンの子どもたちは中途半端だけど).スカーレットの行動がおかしいという話もあるが,これも初期の『酒井さんちのユキエちゃん』を彷彿とさせる.大友らしい女の子.もちろん,『AKIRA』の世界観から言えばアウトとなるキャラクターかもしれないが,この冒険活劇の中では違和感はない.科学に対する,少し説教じみたスタンスも,やはり『アキラ』の終盤で描かれていたことと同じ.それが陳腐だというならば,『アキラ』も大差ない.
褒めているのか貶しているのかよくわからなくなったが,結論としては,『アキラ』や『AKIRA』の亡霊を追い求めて映画館に行くのであれば,それはやめた方がよい.1つの娯楽大作として『スチームボーイ』を見るのであれば,絵の魅力とあいまって,必ず楽しめると思う.
そして,エンディングロールは,映画に更に拡がりを持たせるための粋な演出であって,次回作を予告するものなんかではないと思う.続編なんていう話も出ているようだが,間違っても大友には,そんなものはやってほしくない.『スチームボーイ』の続きが見たくないとかそういう意味ではなく,これで本当に続編があったとしたら,あのエンディングが台無しになってしまう.あれは,1本の映画として完結するためのエンディングであって,むしろその期待感を持たせることが重要である.
そして,まだ見ていない人がいるならば,ぜひ映画館の巨大なスクリーンで見てほしい.画面は全体に暗く,おそらくDVDで見たって,どこまで再現できることやら.それに,大友の全体を貫く画面構成は,巨大なスクリーンで見て初めて最大の効果を発揮する迫力を持ったものだ.小さな画面で見ることだけは勘弁してほしい.
PC造の住宅
山下保博さん(アトリエ・天工人)設計の『JYU-BAKO』の上棟見学会に行った.これは,PC造による4世帯住宅+店舗なのだが,完成してからの見学会はよくあるけれども,上棟した状態での見学会というのは初めて.見た感想としては,完成してみないことには,よくわからないというのが正直なところ.まずは完成を待つことにする.構造は徐光さん(JSD).
新しい構造体
「朝日新聞」7月30日の夕刊に,「新しい構造体,次々に」という見出しとともに,建築の構造が大きく取り上げられていた.伊東豊雄さんの『せんだいメディアテーク』,foaの『横浜港大さん橋国際客船ターミナル』などとともに,ヨコミゾマコトさんの『新富弘美術館』の建設中の様子がレポートされている.執筆は朝日新聞学芸部の大西若人.『新富弘美術館』は国際コンペにより選ばれた作品で,約1,200案の応募があったことから大きな話題となった.実は,このコンペ案に対して僕は否定的であった.しかし,今回紹介された建設中の構造躯体の写真は,確かに美しいもので,改めて期待を持ってゆきたいと思う.建設の様子を定点観測しているwebもある.完成を楽しみにすることにしよう.
しかし,この記事で一番気になったのは,構造設計者のこと.「新しい構造体」による建築の魅力を紹介しておきながら,意匠設計者は紹介されているが,その肝心の構造を実現している構造設計者が紹介されていない.もちろん,役割上は仕方がないことなのかも知れないが,少し残念だった.ちなみに,『せんだい』は佐々木睦朗さん,『横浜』はSDG(渡辺邦夫さん),『富弘』はArup Japanの金田充弘さん.
bye-bye CD?
最近はiPodでしか音楽を聴かない.CDでは,60分やそこらで取り替えるのが面倒だし,何を聴くかを決めるのも億劫で,ついつい同じものばかり聴いていた.iPodの実力を知らず,10GBを購入したわけだが(iPod自体は,知人の美術家Mさんに薦められた),我が家では3人でシェアしていることもあって,ライブラリの1/3も収納できず,今後の拡張性も含め,40GBを買えばよかったと後悔しているところ.僕は外に出てヘッドフォンで音楽を聴く趣味がないため(どちらかというと自分の置かれている環境の音を聴いていたい),iPodは自宅を一歩も出ていない.聴き方としては,ほとんどがシャッフル再生.とは言っても,実際にオペラから童謡まで入っているため,ジャンルやアーティストで制限を掛けて聴く場合がほとんど.確かにオペラだけでなく,アルバムとして完成された作品の場合(例が古いが,ビートルズの『サージェント・ペパーズ』とか),正しい曲順と呼べるべきものがある.個人的には,この曲についてはこれらの曲とこの順番で再生されなければならないという設定ができると,分割した曲も1つの長い曲として,シャッフル再生に取り込めると思う.
iPodにはもう1つ,音質の問題があるらしい.普通に聴いている限り,僕には音質が悪いかどうかよくわからない.こんな比較もある.同じ音質の話ではCCCD問題があるが(これは音質だけではないけど),佐野元春なんかは自分でレーベルを作るまでに至っている.坂本龍一は,新しいアルバム『CASM』のinternational盤をiTunes Storeのみで発売する.しかも,新曲が追加され,それらはCDで聴くことができないことになる.インタビューでは,2004年は,CDで音楽を聴くことをやめた年として記憶されるというようなことを言っている.坂本龍一みたいな耳のよい人がiTunesだけで販売するくらいだから,音質的には問題ないのだろうというのが,僕の人任せなiPod(というかMP3だかAACだか、よくわからないけど……)に対する個人的見解.さて.