ズレているモダンな構造

佐藤光彦さん設計の『巣鴨の家』を見た.構造はアラン・バーデンさん.何れ雑誌にも発表されるだろうが,アランさんのホームページを見てもらうと話が早い.それほど大きくない住宅だが,3世帯4人(夫婦2人,親1人,姉妹1人)が住む.その生活を成立させるための部屋の構成の是非については判断が付かないが,その構成を了承したとすると,構造の解決方法は興味深い.
2階部分のエキスパンドメタルに囲まれた外部(!)は1本の柱で支えられているだけで,外周にはブレースがなかった.当然全てS造だろうと思ったら,光彦さんに木造だと言われた.もちろん,2階部分の柱と,その上下のフレームはスチール製であり,実際にはハイブリッド構造である.どちらかと言うと,材料の特性(強度,重量),経済性などを考慮した構造形式は,合理的なモダンな構造であろう.しかし,部屋の配置による空間構成が通例とは異なるため,合理的な構造でありながらも,それほど合理的には見えない.
更に2階部分の柱は,蛍光灯による照明が取り付けられ,ポリカーボネート板に覆われているため,構造上で必要なスチールの柱に対し,意匠上はかなり太めのポリカの柱が支えているように見える.柱を細くすることで構造体を意識させない,構造技術に寄り掛かるだけのモダンな方法ではなく,構造体でありながら,それを別のものとして認識させている.
もちろん,この住宅のスチール柱の太さは非常に細く,モダンな構造を突き詰めた上で,それが少しズレていることにより,おもしろさを獲得しているのだと思う.

ポストモダンな構造

構造設計チームとして参加した建築が昨年完成した.『中国木材名古屋事業所』がそれである.意匠設計は福島加津也さんと冨永祥子さんご夫妻.実施コンペにより実現したものだが,構造設計を担当していたのが僕の大学の同期だった多田脩二で,そのため構造チームに加わることとなった.岡田章さん,大塚眞吾さん,宮里直也たちとともに,実施設計に向けて頻繁に行われたミーティングに参加することとなった.
提案の中心となったのは,木材事業所の事務空間の架構.木材による吊床版として,並べられた木材にケーブルを通し,それを両端から吊すことで屋根をつくるというものだった.施主が木材納入・加工業者であったことから,かなり過剰な数量の木材を面的な構造体として使っている.正確には半自碇式の吊り屋根構造と呼ぶらしいが,この「半自碇式」という言葉が構造設計界では話題になっているという話も聞く.詳しい構造的な話は,4月中旬に発売になる「建築技術」5月号に,多田と岡田さんによる解説文が掲載されるらしいので,そちらを読んでほしい.
構造チームに属していながら僕は構造の専門家ではないので,イメージだけの感想でしかないのだが,モダニズムの建築が持つ明快で経済的な構造形式と比較すると,この構造は非常に不思議なバランスで成立しているように思う.もし経済的な要求のみを優先した場合,今回のような構造への木材利用は必ずしも有効ではないかもしれない.しかし,これは別に否定的な意味で言っているわけではない.
構造材である木材をそのまま天井仕上げ面として見せるために,長さ3メートル,幅120ミリの集成材を136本並べ,7本のケーブルを貫通させ,更に厚さ9ミリの鉄板を貼ることで1つのユニットをつくり,それを11ユニット並べる.つまり,この曲面を描いた天井(屋根)面には1,496本の集成材が敷き詰められていることになるのだが,微細に見ると,変形の少ない集成材の使用と,正確なプレカット加工という工業的な技術によって,たった150ミリの厚さの中でケーブルと鉄板によるサンドイッチ構造が成立しており,俯瞰して見ると,それが16.5メートルのスパンに吊り下げられることで,緩やかな曲面が決定され,自己釣り合い系の構造が成立している.
部分と全体の関係が一繋がりの線的な関係を持つモダニズムの関係と比べると,この建築の部分と全体の関係には明らかな断絶,もしくは飛躍を感じる.微細な構造によって,ある性状を持つ材料(ここではサンドイッチ版)を生み出し,まずはそこで一段階が終了.次の段階では,ある材料の特性を活かした全体の構造(ここでは吊り構造)を成立させている.それらには,決定的な連続性はない.もちろん,連続性はあるが,それぞれは交換可能な関係を持っているように思う.
そこで,例えばこのような不思議なバランスで成立している構造を「ポストモダンな構造」と呼んでみたらどうだろうか,と思っている.

アップデート

昨年12月の発売以来2度目となる,PSXのネットワークによるアップデートを行った.インターネットに接続可能なイーサーネットケーブルを,本体にダイレクトに差し込むことでアップデートが行える.前回のアップデートでは,2倍,10倍,120倍速の再生に30倍速が加わり,HDDに録画したもののリストが名前順に並び替え可能となった.今回は,1.3倍速の早見再生(音声付)が可能になった.もちろん,それ以外の機能も更新されている.PCを考えれば,このアップデートの感覚は当たり前のことなのだが,PSXをゲーム機,もしくは家電(PSXは家電売場で売っている)というイメージでとらえると不思議な感覚がする.もちろん,PSXはHDDが内蔵されていて,DVDを見る/焼くことができ,CDを聴くことができ,デジカメから写真を取り込むことができ,ゲームもできる.後は,テレビチューナーが付いているくらいで,ほとんどがPCの機能の一部を紹介しているようなものだ.ちなみに,PSXには別売キーボードもあって,それを接続すると見た目もデスクトップのPCと変わらない.PCの機能を特化して家電にすり替えただけだと言われると確かにそれまでだが,これを機能がアップデートする家電だと考えると,PSXはおもしろい(iPodも同様).