備忘録 060105

 新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。今年の目標は“力を抜く”にしました。惰性で生きていきます。ということで、お正月は携帯の電源を切って、ひたすらひきこもっておりました。飲酒三昧。フォアグラ並みの肝臓です(10月にやった健康診断でγ-GTPが148という結果が出ました。女性の平常値は0~32)。


<最近行った色々>
・12/09【鑑賞】パパ・タラフマラ『百年の孤独』@世田谷パブリックシアター
・12/13【鑑賞】ザ・ニュースペーパー第68回公演@こまばエミナース
・12/14【ライブ】PEPPERMINT CAFE 25周年記念ライブパーティー@吉祥寺スターパインズカフェ
・12/15【受講】茂木健一郎×保坂和志@東京芸術大学美術解剖学
・12/17【鑑賞】茂木健一郎×高橋悠治@ICC
・12/17【ライブ】高橋悠治、高橋悠治×渋谷慶一郎@ICC
・12/18【ライブ】池上高志×渋谷慶一郎@ICC
・12/22【ライブ出演】角森隆浩withダイナミックオーシャンズ@下北沢 lete
・12/23【テクノ】CHaOS@西麻布 yellow
・12/27【ライブ】Mr.Children@東京ドーム
・12/27【鑑賞】森達也×綿井健陽×鈴木邦男×阿曽山大噴火×篠田博之@ロフトプラスワン


<最近観た映画>
・サム・メンデス『ジャーヘッド』(初)@完成披露試写
・パク・チャヌク『オールドボーイ』(初)
・パク・チャヌク『復讐者に憐れみを』(初)
・エイアル・シヴァン『スペシャリスト』(初)
・イングマール・ベルイマン『叫びとささやき』(初)
・ジャン・ヴィゴ『ニースについて/競泳選手ジャン・タリス』(初)
・ジャン・ヴィゴ『新学期 操行ゼロ』(初)
・ジャン・ヴィゴ『アタラント号』(初)
・パク・チャヌク『JSA』(再)


<最近読んだ本>
・オーシュ卿(G・バタイユ)『眼球譚(初稿)』(初)
・野矢雅彦『猫のほんね』(初)
・中島らも『とらちゃん的日常』(初)
・五木寛之『不安の力』(初)
・森達也、森巣博『ご臨終メディア』(初)
・吉田修一『パーク・ライフ』(初)
・石丸元章『平壌ハイ』(初)
・見沢知廉『七号病室』(初)


 茂木さんの芸大の授業にまたまたお邪魔してきたんですが、保坂和志さんの話し方はけっこうユルくて拍子抜けしました。こういうキャラの方なんですね。授業の内容を聴きたい方はこちら。散文と韻文のくだりがとても興味深い。保坂さんは(当然なんだけど)本当に小説が大好きで、小説のことばかり考えてるんだなあと羨ましく思いました。私も小説が書けるような人間に生まれたかった……。
 授業の後、茂木さんの研究室にオジャマしてお鍋をご馳走になりました。ありがとうございました(茂木さんはたまにここを読んでいらっしゃるようで・笑)。インディペンデントのキュレーター、渡辺真也さん(「もう一つの万博」を作った人)を紹介していただき、色々とオシャベリしました。私の大好きなマリーナ・アブラモビッチと親交が深いそうで、11月にマリーナがグッゲンハイム美術館で行ったパフォーマンス「Seven Easy Pieces」についても色々と聞かせていただきました。真也さんによる詳細レポートはこちら。いいなあ。生で観たかった。

 ICCで行われたATAKによるイベントはもうすごかったのです。茂木さんと、音楽家の高橋悠治さんの対談はここ最近でベストの内容。色々と考えさせらることが多く、いまだに引きずっています。内容を聴きたい方はこちら。これはぜひみなさんも聴いて、考えてほしいです。モノを創ること、批評すること、言語の限界などなど……考えることが多い。
 翌日の池上さん(複雑系研究者で、うちのご近所さん)と音楽家の渋谷慶一郎氏による“第三項音楽”も大変興味深いものでした。非フーリエ的思考によるプログラム(セルオートマトン等)で吐き出された音たちは渋谷氏いわく「(いままでを刺身とすると)生の魚を扱っているようだ」とのこと。その感覚が聴いてる側も非常によくわかる。音が生きてるカンジがして不思議な体験をしました。今後このプロジェクトは色々な方向へ進んでいくようなので注目です。

 映画はイングマール・ベルイマン『叫びとささやき』が図抜けていました。70年代初頭に撮られたこの映画の色はとんでもなく美しい。北欧の森、真紅の部屋、純白と漆黒の衣装、女たちの静かな情動。これらすべてが静寂の中で、まばゆいほどのコントラストを作りあげています。傑作+必見。ベルイマンは天才ですなあ。
 ジャン・ヴィゴ作品はどれも良いです。『ニースについて』がいちばん好きかな。
 アドルフ・アイヒマン(ナチス親衛隊でユダヤ人強制移送の専門家=スペシャリストと呼ばれた)の裁判についてのドキュメンタリー映画、エイアル・シヴァン監督の『スペシャリスト』もすごかった。数百万人をガス室に送ったひとりの男が語る言葉は、あまりにも淡々としていて驚きました。「自分はただ忠実に義務を果たしただけで、組織の歯車として働いた自分に責任はない」と平然と言ってのけるアイヒマン。感情をあらわに激怒する検事長と、アウシュビッツから生還してきた証人たちの生々しい告白、そして冷静にこの裁判の目的(ユダヤ人虐殺について問うのではなくて、強制移送という役目にいたアイヒマンの罪について言及する)へ話の筋を戻そうと心掛ける裁判長。『フォッグ・オブ・ウォー』、『東京裁判』と並んで“人間の本質3部作”と呼びたいような作品。

 読書はえーと……バタイユの『眼球譚』ですね。第二部「暗号」のところを読んで、不覚にも泣きました(あまり泣くような内容じゃないらしいですが・苦笑)。いままで読んだバタイユのなかでいちばん心に響いた作品。これを最初に書いてしまったバタイユは、あとはもう違うアプローチからこれをなぞるしかなかったんじゃないか、と思わせるほどでした。
 石丸元章『平壌ハイ』を読んだら、がぜん北朝鮮ツアーに行きたくなりました。

乙女日記 | Posted by at 1 5, 2006 17:40 | TrackBack (0)

備忘録 051208

 とうとう12月ですね。日に日に寒さと忙しさを増す今日このごろ。今年を振り返る余裕もなく、このまま駆け足で2006年に突入しそうな勢いです。結局今年もあまり代わり映えしなかったなあ……。

<最近行った色々>
・11/10【ライブ】パワートリオ@西麻布 SuperDeluxe
・11/13【鑑賞】横浜トリエンナーレ
・11/18【ライブ出演】角森隆浩withダイナミックオーシャンズ@渋谷 7th floor
・11/21【バレエ】シルヴィ・ギエム“最後のボレロ”@東京文化会館
・11/22【ライブ】ash-ray@渋谷 7th floor
・11/29【生演奏】柳下美恵『裁かるるジャンヌ』@アテネフランセ
・11/30【ライブ】XNOX@下北沢 lete
・12/03【テクノ】op.disc showcase@代官山 UNIT
・12/05【バレエ】シルヴィ・ギエム“最後のボレロ”@東京文化会館

<最近観た映画>
・小林政広『バッシング』(初)@東京フィルメックス
・ソン・イルゴン『マジシャンズ』(初)@東京フィルメックス
・アミール・ナデリ『サウンド・バリア』(初)@東京フィルメックス
・アモス・ギタイ『フリー・ゾーン』(初)@東京フィルメックス
・カール・ドライヤー『裁かるるジャンヌ』(ピアノ生演奏つき)@アテネフランセ
・小林正樹『東京裁判』(初)
・パク・チャヌク『JSA』(初)
・ジュリアン・シュナーベル『夜になるまえに』(再)
・カール・ドライヤー『裁かるるジャンヌ』(再)
・某監督が来年の某国際映画祭に出す予定の作品


<最近読んだ本>
・見沢知廉『ライト・イズ・ライト』(再)
・北原童夢+早乙女宏美『「奇譚クラブ」の人々』(初)
・本田健『ユダヤ人大富豪の教え』(初)
・レイナルド・アレナス『ハバナへの旅』(初)
・パゾリーニ『生命ある若者』(初)
・平岡梓『伜・三島由紀夫』(初)


 今月はやたら映画を観ました。どれもこれも面白かったんですが、突出していたのは前回書いたアモス・ギタイ『フリー・ゾーン』と小林正樹『東京裁判』。

 すごかったです、『東京裁判』。

 これ絶対観たほうがいいですよ。DVD2枚組で277分。アメリカ国防省が秘蔵していた2年6ヶ月にわたる極東国際軍事裁判(東京裁判)の記録をまとめて編集したもの。アメリカ国防省が秘蔵していたフィルムはなんと3万巻! で、25年後にようやく解禁したわけだけど、その中の約930巻(170時間分)の入手に成功。制作期間5年、制作費4億円というものすごい作品です。東京裁判の映像も非常にいい状態で保存されていて、生の声がばっちり聞ける。証人にはあのラストエンペラー、愛新覚羅溥儀(!)まで出てきて、もう大興奮で見てしまいました。
 この秘蔵フィルムはただ単に東京裁判の様子だけじゃなくて、ヨーロッパ戦線、日中戦争、太平洋戦争の記録も収められていて、さらに二・二六事件、ナチスの圧政等々の資料映像も充実。解説も詳しくて、ポイントポイントで認識してた歴史(特に枢軸国と連合国に世界が分かれたあたりから、太平洋戦争くらいまで)が全部つながった。マーシャル・プランとか、コミンテルンとか、遠い昔に学校の社会で暗記させられた用語まで出てきて、ようやくその本質が理解できました。

 いちばんの山場はやはり東條英機vsキーナン検事の論戦でしょう。GHQの方針に従って、天皇に戦争責任を問わない(つまり戦犯にしない)指令を担っているキーナン主席検事と、それをじゅうぶんに理解していてそのポイントだけは同調する東條(しかし思わぬ失言をしてしまう)。GHQのその方針が全く理解できずに天皇の戦争責任を問いたいオーストラリア人のウェッブ裁判長。彼らが織り成す大変複雑微妙な、ギリギリのところで繰り広げられる論戦は圧巻です。いちばん天皇の近くにいた存在でありながら、被告となった宮中政治家の木戸幸一(木戸孝允の孫)の弁論もギリギリのラインで展開されていて興味深い。

 違う意味ですごかったのは大川周明。この人は北一輝と同じくらい過激な軍国主義者、国粋主義者、国家主義者、ファシズム信奉者なんだけど、28人の戦犯のなかで最も博識な知者でした。が、裁判が始まってすぐに、挙動不審を繰り返し(突然泣いたり立ち上がったり)、あげく前に座ってた東條の後頭部をパッコーンと叩いて、とうとう“精神異常”と判断されて入院し免訴されるのです。実際このとき大川は梅毒にかかっていたので本当に発狂したという意見と、わざと発狂してるふりをしたんだという意見とでいまだに議論されているとのこと。その東條を叩くシーンも入っていて、かなり面白いのです。

 外相で日本降伏文書に調印した重光葵はそれまでの誠実な外交が評価され、海外から続々と減刑要請(重光自身は担当弁護士に「海外の友人たちに減刑要請してくれるようにこちらから頼むようなことは絶対にしないでくれ」と厳しく言っていた)が集まり、刑期4年という寛大な判決が下されました。彼はのちに日ソの関係回復に力を尽くしたわけだけど、松葉杖をつきながら法廷に静かに入ってくる彼のたたずまいと、この作品の最後のほうに出てくる彼の俳句がとても印象的でした……どんなだったか忘れたけど(苦笑)、最終弁論でアメリカ人の弁護士が「あなたたちがもし彼ら(つまりA級戦犯)のような国を代表する立場にいたらどうしますか? 彼らには愛国の精神があります。あなたたちも同じことをしたのではないでしょうか? 少しの間だけでもいいので、彼らの側にも立ってみてください」みたいなことを言うんだけど、そのときに東條が天を見上げてひそかに涙するわけです。これまでずっと気丈にふるまい、ふてぶてしいほどだった東條が。それに気付いた重光が詠んだ俳句なんですけど。

 もちろんA級戦犯たちの行ったことを肯定するわけではまったくないし、同情の余地すらない戦犯も多いけど、いろいろと考えさせられました。この裁判の意義や正当性はやはり今後も問われていくべきであって、インドのパル判事の意見書はぜひ読んでみようと思います。ともあれ、これは必見。南京事件のところの映像(これだけ実写フイルムではない)はおもいっきり中国側が捏造してるのがわかるのでアレですけど……。


 話はかわってシルヴィ・ギエム“最後のボレロ”。

 これはもう奇跡の体験でした。11月21日に観に行って感動に打ち震え、我慢ならずにオークションでチケットを大人買いし、12月5日に再び観に行きました。ちょうど2回のプログラムがボレロ以外は異なっていたので、たくさんの演目を楽しめました。以下、それぞれの感想。

 ギエムとマッシモ・ムッルによる「Push Too」(ラッセル・マリファント振り付け、世界初演):非常にギエムらしい、まさにギエムのためにあるような作品。バレエというよりはコンテンポラリーダンスに近く、アート色が強い作品。照明による明暗と、ふたりの身体が作る流れるような造形がピッタリはまっていてかっこよかった。ものすごい力技ばかりでダンサーにとっては非常にしんどいと思うんだけど、さすがにギエムは微動だにしないとんでもないバランス感覚と筋力でした。

 東京バレエ団の「春の祭典」(モーリス・ベジャール振り付け、音楽はもちろんストラヴィンスキー):男性ダンサーたちのレベルが低すぎて驚く。東京バレエ団はベジャールから「春の祭典」を踊ることを許されている世界唯一のバレエ団なんだけど(いまでもそうなのかな?)……これでいいんでしょうか? 女性ダンサーたちはすごかった。このギャップがかなり痛い。にしてもベジャールの「春の祭典」は官能的で野性的で、ときに楽しく、ときに恐ろしい、飽きない作品でした。なぜか『家畜人ヤプー』を思い出してしまった(苦笑)。いや、これはアジア人が踊るのに向いている作品だなあと。手足の長い欧米人には踊れないだろうな。女性パートはいいとしても、男性パートが。

 ギエム+ムッルの「小さな死」(音楽:モーツァルト、振り付け:イリ・キリアン):これもやっぱりギエムのためにあるダンスとしか言いようがないくらい、パワーバレエでした。尋常ならざる筋力とバランス感覚と雄大さが求められるダンスで、しかもすっごく官能的。最高でした。あのしなやかな身体は奇跡だと思います。とても短い作品なのが残念。もっともっと見たかった。

 東京バレエ団の「シンフォニー・イン・D」(音楽:ハイドン、振り付け:キリアン):喜劇でした。可笑しくて笑っちゃう。この曲でこの振り付けって……ある意味すごい。隣に座ってた親子連れの、どうやらバレエを習ってるらしい小さな男の子が大喜びしていたから良かったのではないでしょうか。「春の祭典」のほうが全然好きだけど。

 ギエムの「ボレロ」(音楽:ラヴェル、振り付け:モーリス・ペジャール):これもベジャールが東京バレエ団にしか踊るのを許可してないらしく。私はボレロといえばメロディ(赤い円卓の上に乗って踊る人)もリズム(円卓の下で踊る取り巻きたち)も男性のしか観たことがなかったので、今回が初の女性メロディ+男性リズム。この組み合わせはどんなにか官能的だろうとワクワクしていました。
 いや、もう、圧倒的だった。女性男性うんぬんよりも、魅入ってしまってすべての思考が停止。ギエムにしか目が行かず、結局リズムはどうだったか(1度目に観た時は)知りません。すっごいものを観てしまった。ベジャールの振り付けはとんでもなく、ローラン・プティ振り付けのユルユルのボレロがぶっ飛びました。
 
 えーと、2度目にボレロを観た時はさすがに泣いてしまいました(苦笑)。1度目にも増して鬼気迫るダンスで圧倒的。ギエムの身体が3倍くらい大きく見え、言葉には表現できない、とんでもないダンスでした。会場を徐々に渦巻いていくあの高揚感たるや、みんなまるで魔法にかかったようだった。ダンスが終わった瞬間に会場のほとんどがスタンディングオベーションで、カーテンコールが延々と続きました。あー、なんかもう死んでもいいなと本気で思った20分間でした。至福。これがもう観られないと思うと、本当に残念でなりません。


 ……って、こんな長い文章をいったい誰が読むんだろか。

乙女日記 | Posted by at 12 8, 2005 17:51 | TrackBack (0)

備忘録 051110

 10月は近年まれにみる最悪な月でした。叔父が亡くなり、愛猫のガン発覚。人間関係もうまくいかず、読書や映画、ライブ、演劇鑑賞で気を紛らわしておりました。はぁー、なんか面白いことないですかね。

<最近行った色々>
・10/8【遠足】外房を鴨川くらいまで
・10/9【レイブ】渚音楽祭@お台場
・10/11【観覧】鈴木邦男×二木啓孝@高田馬場トリックスター
・10/14【社会勉強】とある集会
・10/17【ライブ出演】角森隆浩withダイナミックオーシャンズ@下北沢mona records
・10/18【ライブ】東京中低域@渋谷 公園通りクラシックス
・10/19【観覧】安藤忠雄×福武總一郎@大さん橋ホール
・10/20【取材】すかいらーくスーパーカップ(女子フットサル)@駒沢体育館
・10/26【ライブ出演】角森隆浩withダイナミックオーシャンズ@渋谷 7th floor
・11/2【芝居】黒テント『ぴらんでっろ~作者を探す六人の登場人物』@神楽坂 theatre iwato
・11/2【テクノ】luciano@代官山 UNIT
・11/4【芝居】あぁルナティックシアター『バスキア』@池袋 東京芸術劇場
・11/5【観戦】ナビスコカップ決勝@国立競技場
・11/7【ライブ】epoch@代々木 zher the zoo
・11/8【ライブ】角森隆浩@高円寺 楽や

<最近観た映画>
・犬童一心『メゾン・ド・ヒミコ』(初)@渋谷シネマライズ
・ジャン=リュック・ゴダール『アワーミュージック』(初)@日比谷シャンテシネ
・ゴダール、パゾリーニ他『ロゴパグ』(再)
・ジャン・ユンカーマン『映画 日本国憲法』(再)

<最近読んだ本>
・島田裕巳『創価学会』(初)
・村上龍『空港にて』(初)
・宮崎学+大谷昭宏『殺人率』(初)
・見沢知廉『ライト・イズ・ライト』(初)
・見沢知廉『囚人狂時代』(再)
・小宮山典寛『ペットの万能薬―薬を超えたクスリ・バームの不思議』(初)
・宮野のり子+花田道子 『ペットがガンになってしまったら』(初)


 レポートしたいイベントはたくさんあったんだけど……もう記憶の遠くへ行ってしまいました。安藤忠雄×福武總一郎おもしろかったですよ。安藤さん相変わらずオシャベリがお上手で、たくさん笑いました。

 黒テントの『ぴらんでっろ~作者を探す六人の登場人物』は良かった! 私は客演のさとうこうじさんが大好きなのです。特に黒テントと組む時のさとうさんは素晴らしく、何年か前に初めて観た『メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス』ですっかりファンになってしまったのです。とんでもない存在感と、あの独特な語り口調は他を圧倒する。おまけに今回の『ぴらんでっろ』は高橋悠治さんもピアノ演奏で登場。これは行くしかないだろうと。
 ご存知、ルイージ・ピランデッロの代表作「作者を探す六人の登場人物」はものすごい難しい作品です。原作が難解すぎて、演じてる本人たちもよくわかってない、という状態に陥りやすい。黒テントは昨年初演したメンバーを総とっかえして、お芝居の中心人物“父”役にさとうこうじさんを客演で抜擢。原作にはない作家本人(つまりピランデッロ)役に悠治さんを登場させ、これがバッチリとハマりました。昨年のを観てないからなんともいえないけど、たぶん数段に良くなったと思う。

 話の4分の1くらいから登場するさとうさんは、信じられないくらい膨大なセリフを与えられていて正直しんどそうでした。それでもやはり彼の怪演は圧倒的だった! 悠治さんは最初と最後できっちりと場を全部かっさらっていって素晴らしかった。若手中心の配役だった黒テントは多少物足りなかったけど、この難解な作品を考えると健闘していたと思います。
 にしても、この作品は一度観ても難しくてなかなか本質を理解できないですね。難解な言葉が降り注ぐ膨大なセリフに気を取られちゃって、もっとじっくり体感したかった。できればもう1度くらい観に行きたかったんだけど結局行けずじまいで公演終了。theatre iwatoはとてもいい空間で、目の前に舞台があって、役者さんがすぐ横や目の前に座ったりして面白かった。

 一方、お友達のサックス奏者・松本健一さんが客演(?)した、あぁルナティックシアター『バスキア』は非常にわかりやすい陽気な作品で、なにも考えずに楽しめました。天使役のまっちゃんは舞台であきらかに困惑してて面白かった。


 で、今回特筆したいのはゴダールの『Notre Musique(邦題:アワーミュージック)』です(それにしてもこの邦題は酷いな。信じられないセンスです)。以下、長くなると思うので適当に流してください。

 ひとことで言うと、素晴らしかったのです。

 『Notre Musique』のゴダールは、ドキュメントとフィクション、音楽と音響、BGMと効果音、それらの枠組みをスコーンと超越して、すべてが絶妙な関係性を保ち、社会的な問題を芸術レベルまで引っ張り上げていました。これはある意味ドキュメンタリーよりも説得力があった。とある批評家が言っていたように、ここ最近のゴダール作品はアイロニーに満ちたシニシズムと、その裏に隠されたメランコリーを美しい映像と音楽で包み込むものが多く、そこがたまらなく素敵なんですが、『Notre Musique』は撮り方も違うしシニカルさも薄れていました。
 けど、そのせいか(?)ぐっと説得力があって、あらためて“映画”の力を見せつけられました。いやー、ゴダールすごいわ。いまさらですけど。今後もさらにすごくなりそうな予感です。

 私が観に行く前にすでに観ていた友人の音楽家・渋谷慶一郎氏とこの作品について語っていたんですが、「例えばアメリカとイラクのことに関しても、ゴダール以上の批評、というかアメリカ批判は映像に出来ないわけで、それはあくまでもゴダールが映画の側からやってるからというのもデカイなと思った。ドキュメンタリーには出来ないなーという感じだよ。今回のは」と言っていて、まさにそのとおりでした。第3章に出てくるアメリカ兵とかって……本当に発想がすごいと思う。

 ここ最近、ドキュメンタリーフィルムに興味を抱き、いろんなものを観てきましたが、やっぱり“映画”ではなく“映像”なんですね。どんなにキレイに撮ろうが、どんなに素晴らしく編集しようが、結局“映像”の枠からは出られない。
 もっとわかりやすく言うと、原一男や森達也や綿井健陽やエロール・モリスやジャン・ユンカーマンやモーガン・スパーロックは“映像”作家(というかジャーナリスト)であって“映画監督”ではない。是枝裕和やマイケル・ムーア(毛色が違いすぎるけど)は“映像”を“映画”にしようとしてる人(なぜかこの層は社会的に評価が高い)。で、ゴダールは“映像”を“映画”で飲み込んだ正真正銘の“映画監督”ではないかと。

 そう考えるとやっぱり社会問題を扱う作品に関してもいちばん心に響くのは“映画監督”が撮った映画であって、圧倒的な説得力がある。ということに気付きました(←遅い)。もちろんジャーナリストたちが撮るフィルムもじゅうぶん興味深くて楽しめるんだけど、こういう『Notre Musique』みたいなのを観てしまうと「うっわー! 全然圧倒的だ!」と思ってしまうわけですね。
 で、日本にもそういうゴダールみたいな人が出てきてほしいんだけど、いまのところ思い浮かびません。海外でも(私が知るかぎり)あまりいないような気がする。素晴らしい劇映画を撮る監督だったらたくさんいるけど、ドキュメンタリーをフィクションで飲み込んでしまうほどの圧倒的な力を持っている映画監督は、いまのところゴダールとアモス・ギタイしかいないなと。というか、策略的にそういうアプローチで撮ってる監督がいないんだろうな。このふたりは策略的に撮ってるもんね。そこを期待すると森達也はセンスが全然ないし、是枝裕和も力量が足りない(ふたりとも大好きですけどね)。エロール・モリス(いまのところ“映像”寄り)とケン・ローチ(いまのところ“映画”寄り)が開眼してくれればいいんだけど(笑)。

乙女日記 | Posted by at 11 10, 2005 16:21 | Comments (4) | TrackBack (1)