黄金町バザール2011「まちをつくるこえ」見学会

2011年10月28日(金)、2011年度第3回ゼミナールとして、「黄金町バザール2011「まちをつくるこえ」」の見学会が行われた。以下はその見学会に対するレポートである。

内野孝太
 黄金町に初めて行きました。歴史も文化も知らない町で「黄金町バザール」を通じて感じた事を書いていこうと思います。私は集合時間のちょっと前に着いたので周りを散策しました。そこには煙草屋のおじさんとベンチに座りながら話すおばあさんの姿、警察官と町の人が気兼ねなく話す姿が見えました。ゆっくりと流れる時間、下町情緒の残る風景。私は最初この町にそんな印象を受けたのを覚えています。
 黄金町はかつて麻薬や売春といったネガティブな印象の町であったと、説明の中で初めて知りました。そのような印象を変えるという一環で「黄金町バザール」を立ち上げたと。町の雰囲気としてもうネガティブなものはなく、会期中ということもあり賑わっている様子。私は説明がなければかつての黄金町に気づく事はなかったと思います。説明がなければ分からないくらいに過去を排除して新たな物を素直に受け入れることは正解なのか、このようなことを思いながらアート作品を見て回っていました。しかし、作品の中に風俗店の個室スケールをそのまま生かしたものや、Golden Studioによる過去と現在の対比による構成で事務所になっているものなどがあり、アート作品(現場)に過去の事柄を想起させる部分が組み込まれ、私はホッとしました。この町は風俗や麻薬という世間では悪とされるもので人々は集まってきた。そして、現在はアートを通じて人を集めようとしている。この二つはやり方は違うけれど、「人が集まる」ということは同じで、町の地域性のコミュニティはもともと強く存在し、人を惹きつける魅力というものはかつてからあったのではないかと思います。そのように考えると、まちづくりというのは地域の地盤があってこそのもので、何も無い中では生まれないのではと思います。リノベーションによるまちづくりでは過去の町の形を思い出す事が出来、新たな建物に作り替える事とは違う意味で、この町での特性というのをアート作品を通じて垣間見る事が出来て良かったです。
 高架下というわくわくするような場所で、町と人と建築が近い距離にある状況で、この黄金町バザールは展開されている。そこでアートによる自発的な行為をうながす装置があり、見知らぬおじさんや警察官の方と気軽にお話出来る環境が作り上げられている。このようなまちづくりの現場を体験出来たのは非常に良い経験になりました。町の人々や見に来ていた人々が楽しそうにしている事が印象的で、その事自体がこの黄金町バザールを表しているようでした。

長澤彩乃
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 私が黄金町を訪れたのは、これが初めての機会である。黄金町についてまるで無知であった私は、事前にインターネットで『黄金町』と検索をかけた。そしてこの街がかつて、非合法の薬の売買が行われたり、多くの売春宿の連なる特殊飲食店街であったことを知った。『ちょんの間』と言う単語も、ここで初めて知って若干の衝撃を受けた。そんなかつては決して治安の良い街とは言えなかった黄金町が今、「売買春の街」から「アートの街」へと変貌しようとしている。長年にわたって地域の再生のために日々努力を重ねて来た地域の人たちと、行政、警察、企業、大学、そしてアーティストが、街の再生という目標に向かって活動を始めた。それが今回訪れた『黄金町バザール』である。
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 黄金町の駅から、今回の会場である高架下を沿うように歩いて行くと、まずこの黄色いバスが目についた。このバスは、遠藤一郎さんといううアーティストの『未来へ号バス』という作品だそうで、沢山の人に夢を書き込んでもらい、その夢を載せて実際に東北と横浜を往復するのだそうだ。このように、今回未曾有の災害に見舞われた2011年に開催されるということで、震災を意識した作品や、その復興を願う作品が多くあったことが印象的だった。
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 上の写真は、チケット販売のブースである。棚の役割をしたオブジェのような物は、割り箸を組み立てて造ってある。そうして出来た棚に、この地域のお土産を展示するとともに販売もしていて、地域との交流や、街の中にアートを取り組もうという試みが見える。地域との関係が稀薄になっている現在において、そういった試みは地域を活性化させる意味でとても大切だと思った。少し話はそれるが、今回この黄金町バザールの見学に行ったとき、私たちに気さくに話しかけてくれた警察官がいた。まさに『まちのおまわりさん』といった風貌の彼は料理が得意で、時々料理を作ってこの黄金町バザールに訪れた人や地域の人へ振る舞うのだそうだ。そういった暖かい交流も私にはとても新鮮で、胸がほっこりとした。
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 先ほどのチケット販売ブースを出て、今回の会場をだいたい高架下に沿って回って行ったのだが、かつての形をそのままに、一見外から見ると何の変哲もない古い建物が会場になっていて、不思議な感覚だった。『ちょんの間』のスケールにアートを組み込むことで、現代らしいリノベーションが成立していた。
 また、高架下に関しては、おそらく何もないただの高架下に、新たにギャラリーやショップを建てたものになっていたが、私はシンプルな階段のスペースに魅かれた。広くとられた階段のスペースは、アートの街として生まれ変わった黄金町の、新たなコミュニティの場として活躍してくれそうである。
 2008 年より始まった『黄金町バザール』は今年で4回目を迎える、今回の『黄金町バザール』は「まちづくりとアート」の結びつきをより強く意識しているようだ。また、アーティストの交流を通して、それぞれが互いの仕事について理解を深め、意見交換の機会となることをめざしている。とホームページにあったが、まさにその通りで、熱いエネルギーが感じられる素敵な体験が出来た。私はこの街に初めて訪れたが、電車に乗って帰る頃にはこの街が好きになっていた。家族や友達にも紹介したいと思う。

ゼミナール | Posted by satohshinya at November 7, 2011 9:54


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