ブラック@paris

R0041088.jpg

「Centre Pompidou(ポンピドゥー・センター)」の「Musée National d'Art Moderne(国立近代美術館)」では「Le Mouvement des Images」展が開催中だった.いつもならば圧倒的な物量を誇るコレクションが年代順に展示されているのだが,それらを「二十世紀と今日のアートを映画の観点から見直」すというテーマに沿って組み換え,5階のほぼ全体を使った展示が行われている.

内容はDéfilement(連続),Montage(モンタージュ),Projection(映写),Récit(物語)の4つのテーマに分けられている.代表的な実験映画を上映するスペースのギャラリーが中央に通っていて,その両側に各テーマの展示が行われている.ホームページには展示作品のリストが掲載されていて,いくつかは画像を見ることもできる.

R0041086.jpg

ギャラリーの左右の壁には交互に映像が映し出されており,それぞれの前にはベンチも設えてある.エントランスに続く最初の展示空間が,今回のテーマである映画だけを展示する場所となっていることは印象的であった.これらの展示壁面が今回のために作られたものなのか,通常の展示を流用しているものかははっきりとはわからない.以前訪れたときに見たコレクション展も,ギャラリーを中心としていたような記憶があるので,基本的には同様な構成であると思う.しかし,ギャラリーが映写のために暗いスペースとなっていることと,白黒映画の印象を延長したことの2つの理由が考えられるが,今回の展示壁には黒から白へのグラデーションから選ばれた色が塗られていた.このブログでもブラックキューブダークキューブなどという呼び名を付けてみたが,白ではない展示壁面の意図的な採用がここでも見られた.
他にも4階のGalerie du MuséeではAlfred Manessierの個展,Galerie d'art graphiqueではJean Bazaineの個展を開催していた.通常は4階に1960年から現在までの展示,5階に1905年から60年までの展示が行われているのだが,5階ではピカソなどコレクションの一部だけが展示されており,大部分は展示換え作業のためだと思うが閉館となっていた.これだけ膨大なコレクションとスペースを持つ美術館であるからこそ,このような柔軟な運営が可能であるのだろうし,おそらくこの間に展示されていないコレクションが世界中に巡回され,大きな収入をもたらしているのだろう.
ポンピドゥーは可動壁を持つユニバーサル・スペースによる美術館であったが,20年を経過した後に固定壁を持つ美術館へと改修されたことは有名な話である.「GA Japan」の鼎談において,長谷川祐子は以下のように語っている.《展示室については,大きな箱を用意して,毎回展示に合わせて壁をつくっていくのはコストがかかるということがあった.それを節約するために,ある程度,さまざまなバリエーションの部屋を設けましょうと.……その予算で,もっとアーティストを助けてあげた方が遙かにいいと思うんです.……可動式の壁という選択肢もあるのですが…….可動式の壁は空間として問題があって,非常に弱いんです.それは,アーティストもすぐ分かってしまう.》その結果,金沢21世紀美術館の展示室が生まれたわけだが,それはともかく,ここでの示唆は重要な意味を持つ.ポンピドゥーが可動壁の限界を示して固定壁となったことは,作品を展示する空間を作り出すための建築要素として(当時の)可動壁が望ましいものではなかったためである.そしてその先には,これは企画展を続けてゆく場合の問題ではあるが,展示毎に望ましい展示空間を作り上げてゆくことにコスト上の大きな問題が生じると示唆する.予算が潤沢な国立美術館ならばいざ知らず,これからの美術館を考える際に重要なポイントとなるだろう.
6階には2つの企画展示室があり,Galerie 1は準備中,Galerie 2ではデヴィット・スミスの回顧展が開催されていた.これはグッゲンハイム,ポンピドゥー,テート・モダンと続く豪華な巡回展だけあって,重要な作品が網羅されていた.しかし,この展示構成が最悪だった.大きな展示室に全く壁を作らずに,展示室を横断する台座の列を手前から年代順に並べ,台座の間が通路となり,台座が凹んだ部分だけが横断できる.つまり,手前が初期の作品で,奥に行けば行くほど晩年の作品となり,それらがレイヤー状に重なって鑑賞できるというものである.しかし,そのために全ての作品の前面が同じ方向に向けられており,1つの作品を正面から鑑賞すると,すぐ後ろに次の作品の正面が必ず目に入ってしまって非常に煩わしい.もちろん距離を取って鑑賞することも難しい.動線も不自由を強いており,作品の左右には展示台が延長されているため,作品をグルリと回りながら鑑賞することもできず,常に前後から見ることになる.平面的なアイディアはともかく,実際には雑然とした展示空間となってしまっている.さすがにこれが巡回展のフォーマットというわけではなく,テートでは普通に展示されているようだが,間違いなくこちらの方がよいだろう.
6階のテラスには坂茂さん仮設事務所がある.もちろんポンピドゥー別館建設のためのヨーロッパ事務所であり,ご存知sugawara君の勤務先である.しかし,sugawara君不在で中に入れず.

美術 | Posted by satohshinya at November 15, 2006 17:52


TrackBacks