CUE
太田省吾さんが亡くなった。
はじめて太田さんを、というよりも転形劇場を知ったのは、さまざまな上演風景の写真が掲載された演劇の本だったと思う。それは『水の駅』『地の駅』『風の駅』を撮影したものだったが、具体的な物体を使っていながらつくり出された抽象的な風景に強い興味を持った。既にそのときには転形劇場は解散し、藤沢市湘南台文化センターの市民シアター芸術監督に就任した頃で、湘南台の『夏の船』(1990)ではじめて太田さんの作品を観た。
その後、いくつかの作品を観ることになるのだが、最も記憶に残っているのが『砂の駅』(1993)である。美術家の遠藤利克による鉄に縁取られた円形の砂場が、湘南台の円形ステージ上につくられている。砂場の上で俳優が台詞もなく淡々と芝居を続ける沈黙劇であったが、これほど豊かな演劇を観たことがなかった。そして終盤、砂場の中央から水が湧き出し、徐々に砂が水に覆われ、最後には円形の水盤が完成する。他にも水道の蛇口をめぐる沈黙劇
『水の駅-3』(1998)もまた、印象的な作品であった。
そして、ある論文執筆のために、太田さんの演出する『だれか、来る』(2004)の稽古場を調査することになった。太田さんから出された条件は可能な限り毎日稽古に参加することだけで、創作の現場である稽古場に他者が介入することを嫌がったわけだが、結局はぼくのことをスタッフの1人として快く迎えてくれた。そのときに太田さんの演出作業を目の当たりにできたことは、太田さんの演出家としての真摯な態度を知るとともに、人間的な魅力に触れる非常に貴重な経験となった。沖縄に至るツアー公演にまで同行することになり、沖縄では太田さんとともに城(ぐすく)を見に行ったり、海中の魚を見るためにグラスボートに乗ったり、楽しい思い出となった。象設計集団が設計した自宅で行われた新年会に呼ばれたこともあったが、その住宅もまた太田さんらしい作品であった。
この調査を通して『だれか、来る』の演出助手であった阿部初美さんと知り合い、更に俳優の鈴木理江子さん、谷川清美さんといった、今まで観客としてしか接していなかった人たちと仕事をすることができた。そのきっかけをつくってくれたのが太田さんであったと今になってあらためて思う。
調査の後、1度もお会いすることができなかったのが残念でした。ご冥福をお祈りします。
舞台 | Posted by satohshinya at July 15, 2007 8:08
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