遠距離のランドスケープ@luxembourg

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「Musée National d'Histoire et d'Art Luxembourg (MNHA)(ルクセンブルク国立歴史・美術博物館)」は元住宅を改修・増築した,歴史博物館と美術館が一体となった建物である.ルクセンブルク建築家Christian Bauerの設計により2002年に再オープンした.

通りに面して増築されたファサードはシンプルで,一見するとそれほど大きくない建物に見えるのだが,実際に中に入ると背後に隠れるように,18〜19世紀に建てられた2つの歴史的住宅を機能転用した展示エリアが拡がっている.既存部は地上5階,ファサードが面する広場の下は地下5階に及ぶ.実際には階高の低い住宅を基準としているため,展示エリアでは2層分利用しているところも少なくない.しかし,元魚市場であった敷地に広場を再生したり,その地下に中世の貯蔵庫を保存公開していたり,歴史的にも複雑で困難な立地に上品な解決を見せている.
地下階を含む大部分が歴史博物館のエリアで,地上3階からの3層のみが美術館になっている.最上階にはトップライトを持つ展示室があり,天井が高い増築部が企画展用であったが,訪れた時には展示換えのために残念ながら入ることができなかった.コレクションは近代美術までのアート(それ以降は「ジャン大公近代美術館」の担当)とルクセンブルクのアートが中心となっており,それらは天井の低い既存部に展示されている.

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その近くには「Musée d'Histoire de la Ville de Luxembourg(ルクセンブルク市立歴史博物館)」もある.ルクセンブルク建築家Conny Lentzの設計により1996年にオープン.ここもやはり中世に建てられたものを含む歴史的住宅を改修したもので,古い街並みの中にガラスのファサードが挿入されているが,4つの住宅を機能転用しているために内部は複雑.中では企画展として「Bilder, die lügen」展をやっていた.修整写真から最近のCG処理に至るまで,様々な場面で行われてきた嘘の映像をテーマとしたもの.
ここの活動は基本的に博物館と呼んでよいものだと思うが,一方でダニエル・ビュランによる「D'un Cercle à l'autre : Le Paysage emprunté」というパブリック・アートのプロジェクトを2005年にサポートしていたようだ.ルクセンブルクは城塞都市で,尾根のような部分に都市が築かれているが,その周りをグルントと呼ばれる低地に取り囲まれている.その7箇所に大きな円形の穴を開けたボードを設置し,それによって切り取られたルクセンブルクの風景を見せるという作品だった.もちろんこのボードにはストライプが描かれている.01年に一時的に展示された作品を,改めて常設作品として再設置したらしい.簡単な仕掛けの作品だが,パネルによってピクチャレスクな視点を発見させるとともに,丸く切り取られた風景と,それを取り囲むオレンジのストライプの絶妙な組合せにより,新たな風景を生み出している.その意味では,遠距離も射程に入れた,優れたランドスケープ・デザインであった.
ちなみにビュランのホームページで近作を見ると,あらゆる種類の作品を同時に生み出していることが分かる.ストライプだけでこんなに展開させるなんてよくやるものだ.

美術 | Posted by satohshinya at September 4, 2006 6:53


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