1ファンのたわごと

『スチームボーイ』を見た.正直言って,ほとんど絶望的な気分で映画館へ行った.
僕は『アキラ』の連載が始まる前からの大友克洋の大ファンだった.今でも,最も衝撃を受けたマンガだと思う『童夢』を読んでから,既に20年以上が経過している.その神様みたいな大友が,9年と24億円を掛けて映画を作る.あの『アキラ』でさえ,連載開始から,最後の単行本が出るまでが約10年で,その間に『AKIRA』も作っている.そして,今回の舞台は19世紀のロンドン.正直言って,企画が始まった時点から,おもしろいはずがないだろうと思っていた.それなのに,こんなに長い期間を掛けて……(ちなみに,『アキラ』はマンガ,『AKIRA』は映画.)
案の定,公開後の評判は最悪なものだった.特に夏目房之介さんが,自身のblogに《『スチームボーイ』はどうなんだろう.大友が抱え込んじゃったものだけに,ちょと不安はあるね.》と書いている.夏目さんに《大友が抱え込んじゃったものだけに》と言われてしまうと……そうだよな,9年間も抱え込んじゃったんだよな,とますます暗い気分になり,映画館に足が向かなかった.
そして,ようやく見た.結果は,とてもおもしろかった.これは紛れもない大友作品だった.この作品に批判的な人たちは,一体,何を大友克洋に望んでいたのだろうか? 『AKIRA』みたいな映画? 僕にとっては,『アキラ』以前の作品が,本来の大友作品だと思っている.むしろ,『アキラ』は少しハードすぎた.
『Fire-ball』は兄弟,『童夢』は女の子とおじいちゃん,『アキラ』は幼なじみ,そして,『スチームボーイ』は親子三代の話.それが,当事者以外の人から見ると,大事件に見えたり,戦争に見えたりするというのが基本的な構造.そして,その事件を冷静に見ている子どもたちの視線が描かれる.『童夢』もそうだし,初期の『宇宙パトロール・シゲマ』だってそう(まあ,今回のロンドンの子どもたちは中途半端だけど).スカーレットの行動がおかしいという話もあるが,これも初期の『酒井さんちのユキエちゃん』を彷彿とさせる.大友らしい女の子.もちろん,『AKIRA』の世界観から言えばアウトとなるキャラクターかもしれないが,この冒険活劇の中では違和感はない.科学に対する,少し説教じみたスタンスも,やはり『アキラ』の終盤で描かれていたことと同じ.それが陳腐だというならば,『アキラ』も大差ない.
褒めているのか貶しているのかよくわからなくなったが,結論としては,『アキラ』や『AKIRA』の亡霊を追い求めて映画館に行くのであれば,それはやめた方がよい.1つの娯楽大作として『スチームボーイ』を見るのであれば,絵の魅力とあいまって,必ず楽しめると思う.
そして,エンディングロールは,映画に更に拡がりを持たせるための粋な演出であって,次回作を予告するものなんかではないと思う.続編なんていう話も出ているようだが,間違っても大友には,そんなものはやってほしくない.『スチームボーイ』の続きが見たくないとかそういう意味ではなく,これで本当に続編があったとしたら,あのエンディングが台無しになってしまう.あれは,1本の映画として完結するためのエンディングであって,むしろその期待感を持たせることが重要である.
そして,まだ見ていない人がいるならば,ぜひ映画館の巨大なスクリーンで見てほしい.画面は全体に暗く,おそらくDVDで見たって,どこまで再現できることやら.それに,大友の全体を貫く画面構成は,巨大なスクリーンで見て初めて最大の効果を発揮する迫力を持ったものだ.小さな画面で見ることだけは勘弁してほしい.

映画 | Posted by satohshinya at August 11, 2004 6:00


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» スチームボーイ from simon
Excerpt: 過去を賞賛する映画でもなく、 未来を予言するような映画でもなく、 構想が実現化する時の暴力さを描く映画でもなく、 人と人との空間を緊張感のある中で描く純粋さが心地よかった。 少し不安を抱えながら迎えたクライマックス。 誰もが感じる美しい絵ではないか。 あぁい...

Tracked: August 20, 2004 10:35 PM




Comments

僕もスチームボーイ見てきました。
というかこのblog、トラックバック出来ないのですか?

Posted by hy at August 16, 2004 10:16 AM