美術家に必要な能力

「小林孝宣展 終わらない夏」(目黒区美術館)を見た.ここは,区立の美術館でありながら,時折このような好企画が行われる注目すべき美術館の1つである.小林は,「MOTアニュアル2003  days おだやかな日々」などのグループ展や,年に1度くらい開かれる西村画廊での個展を見ていて,以前から僕の好きな作家の1人であった.美術館での個展は初めてだったので,見たことがない多くの作品を見ることができるだろうと期待していたが,見事に裏切られた.それは,非常に展示点数の少ない個展であった.しかし,作品数が少なかったことを除けば,期待以上の展示でもあった.むしろ点数を減らし,それを効果的に展示することで,作品の魅力を十分に引き出すことに成功している.目黒区美術館は決して好ましい展示空間とは言えず,エントランスホールからそのまま繋がる展示室,多角形の平面と不思議な形状のトップライトを持つ展示室,外部に面した階段から直接繋がる展示室など,全体的にルーズな構成を持つ.インスタレーションならまだしも,平面には不利な展示空間であるように思う.しかし,この個展では,全ての展示室に見事に作品がはめこまれている.それは,今回展示されているノートのスケッチに現れているように,小林自身が展示空間に対して,詳細な検討を行っている結果であることが分かる.特に2階の連作を展示する空間は,仮設壁によって分割されているのだが,その小部屋のスケール感や開口の大きさは見事であった.
もちろん作品自体も,最初期の潜水艦の作品を初め(これは初めて見た),点数が少ないながらも,これまでの小林の軌跡をたどることができる回顧展になっている.しかも,カタログには展示されていないものも含めて,全ての小林の作品の図版が(モノクロだが)掲載されており,これもまた必見である.
作品を描くことと同時に,それらがどのような空間に,どのように展示されるかについて構想することは,平面作家であろうと,優れた美術家に必要とされる能力の1つである.

美術 | Posted by satohshinya at June 11, 2004 7:41


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