力の隠蔽

山本理顕さん設計の『東京ウェルズテクニカルセンター』の話.構造は佐々木睦朗さん.この建築は,4.2メートルグリッドの,ブレースが存在しないフレーム構造であるのだが,ちょっとした工夫がされている.全ての柱は200ミリ角の鋼管柱で統一されているのだが,一部にキャンティレヴァー(片持ち梁)部分があるため,柱の負担する鉛直荷重が異なる.それを解決する方法として,200ミリ角という外形はそのままに,一般部は厚さ16ミリの鋼管でありながら,キャンティレヴァー部のみ厚さ25ミリの鋼管を使用している.
モダニズムの建築では,力の強弱は視覚化されるべきものだった.当然,ある高さを持つ建築の場合,上階にいくほど負担する鉛直荷重が少なくなるため,柱は細くてもよいことになる.そこで,上階に向かうほど柱が細くなっていくことを,外部から視覚化することが表現となった.ルイス・カーンの『エクセター図書館』,村野藤吾の『横浜市庁舎』などが,その例である.
それに対し,この建築では,力の強弱は視覚化されることなく隠蔽されている.実際の建物を見ていないので何とも言えないが,おそらく柱の肉厚の違いは,外から見てもわからないだろう.そうだとすると,これもまたモダンというよりは,ポストモダンな構造かもしれない.

建築 | Posted by satohshinya at June 23, 2004 8:01


TrackBacks