ポストモダンな構造

構造設計チームとして参加した建築が昨年完成した.『中国木材名古屋事業所』がそれである.意匠設計は福島加津也さんと冨永祥子さんご夫妻.実施コンペにより実現したものだが,構造設計を担当していたのが僕の大学の同期だった多田脩二で,そのため構造チームに加わることとなった.岡田章さん,大塚眞吾さん,宮里直也たちとともに,実施設計に向けて頻繁に行われたミーティングに参加することとなった.
提案の中心となったのは,木材事業所の事務空間の架構.木材による吊床版として,並べられた木材にケーブルを通し,それを両端から吊すことで屋根をつくるというものだった.施主が木材納入・加工業者であったことから,かなり過剰な数量の木材を面的な構造体として使っている.正確には半自碇式の吊り屋根構造と呼ぶらしいが,この「半自碇式」という言葉が構造設計界では話題になっているという話も聞く.詳しい構造的な話は,4月中旬に発売になる「建築技術」5月号に,多田と岡田さんによる解説文が掲載されるらしいので,そちらを読んでほしい.
構造チームに属していながら僕は構造の専門家ではないので,イメージだけの感想でしかないのだが,モダニズムの建築が持つ明快で経済的な構造形式と比較すると,この構造は非常に不思議なバランスで成立しているように思う.もし経済的な要求のみを優先した場合,今回のような構造への木材利用は必ずしも有効ではないかもしれない.しかし,これは別に否定的な意味で言っているわけではない.
構造材である木材をそのまま天井仕上げ面として見せるために,長さ3メートル,幅120ミリの集成材を136本並べ,7本のケーブルを貫通させ,更に厚さ9ミリの鉄板を貼ることで1つのユニットをつくり,それを11ユニット並べる.つまり,この曲面を描いた天井(屋根)面には1,496本の集成材が敷き詰められていることになるのだが,微細に見ると,変形の少ない集成材の使用と,正確なプレカット加工という工業的な技術によって,たった150ミリの厚さの中でケーブルと鉄板によるサンドイッチ構造が成立しており,俯瞰して見ると,それが16.5メートルのスパンに吊り下げられることで,緩やかな曲面が決定され,自己釣り合い系の構造が成立している.
部分と全体の関係が一繋がりの線的な関係を持つモダニズムの関係と比べると,この建築の部分と全体の関係には明らかな断絶,もしくは飛躍を感じる.微細な構造によって,ある性状を持つ材料(ここではサンドイッチ版)を生み出し,まずはそこで一段階が終了.次の段階では,ある材料の特性を活かした全体の構造(ここでは吊り構造)を成立させている.それらには,決定的な連続性はない.もちろん,連続性はあるが,それぞれは交換可能な関係を持っているように思う.
そこで,例えばこのような不思議なバランスで成立している構造を「ポストモダンな構造」と呼んでみたらどうだろうか,と思っている.

建築 | Posted by satohshinya at April 4, 2004 6:42


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Comments

『中国木材名古屋事業所』がJIA新人賞を受賞しました.
同時受賞は,藤本壮介氏の『伊達の援護寮』とのことです.

Posted by shinya at January 24, 2005 8:53 PM