ものとしての小説

舞城王太郎氏の『熊の場所』のノベルズが発売された.これは,ノベルズ出身の舞城氏が,初めて文芸雑誌に発表した同名短編を収めた第1短編集.以前はハードカバーの単行本で出ていたもののノベルズ化.ハードカバーといっても,実際にはふかふかしたソフトなカバーを使用した凝った装丁で,デザインは講談社の舞城本をすべて手掛けているVeia.
続くように,舞城氏の処女作である『煙か土か食い物』の文庫が発売された.これは,以前はノベルズで出ていたものの文庫化.そもそも,単行本がノベルズ化されるというのは珍しい気がするが,どうもここには,単行本>ノベルズ>文庫というヒエラルキーがあるようだ.となると,将来『熊の場所』は更に文庫化されのだろうか? それはともかく,話のポイントは中身について.中身といっても,これらの小説が印刷されたページ自体のデザインについての話.
ノベルズ版の『熊の場所』には3つの短編が収められているのだが,実は,それぞれ使用しているフォントの種類とポイント,段組がすべて違っている.もちろん,単行本版で使われていたのは1種類だけ.通常の単行本のつくり方だった.このアイディアは,そもそも「ファウスト」で始まったもの.すべての作品は,それに相応しいフォントや段組を必要とすべきであるということから,1つの雑誌に,作品毎に異なるフォントや段組が選択されている.もちろん,In Design(今はCreative Suite)使用によるDTP技術の発達が背景にある.そして,芥川賞を取り損ねた『好き好き大好き超愛してる.』の単行本では,異なるフォント,段組どころか,使用している紙までが作品によって異なっていた.作品を読ませるに当たって,ものとしての小説が持っている空気をつくり出すためのデザインが行われているように思う.
実際に,それらのデザインによって作品の印象がどれくらい変わるかは,読み比べたわけではないのでわからないが,何れにしても,『熊の場所』ノベルズ版は,単行本版より更に進化した完成版である.

|Posted by satohshinya at December 18, 2004 11:53 AM | TrackBack(0)
Comments

その小説が持つ空間作りの傾向がさらに進むと、どこへ向かうのか。Oタロー先生ならば、本を超えた表現へ自らの欲望を携えて突き進む気がする。ぱらぱらPOPオン山手線が企画を超えようとしているのも一つの片鱗であって然り。ついでに、建築が新しいエンジニアリングやセオリーを欲しながら突き進むように…。なぁんて、かたいコメントも添えておきます。

Posted by: simon at January 4, 2005 01:27 AM
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