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記録に残るサーカス

1994年に水戸芸術館で「ジョン・ケージのローリーホーリーオーバー サーカス」という展覧会が行われた.これは,ジョン・ケージが生前に構想し,ロサンゼルス現代美術館により実現された巡回展の日本展.概要を抜粋すると,《1 ケージ自身の絵や楽譜を展示した「ジョン・ケージ・ギャラリー」,2 彼が敬愛したアーティストたちの作品を展示し,コンピュータの指示により会期中に何度も展示換えを行った「サーカス・ギャラリー」,3 茨城県内の博物館・美術館から任意に作品を借用して展示した「ミュージアムサークル」,4 さまざまなイヴェントが予告なしに行われた「オーディトリウム」の四部構成》(『水戸芸術館現代美術センター記録集1990-96』水戸芸術館現代美術センター)ということになる.
とにかく,取りとめもない,よくわからない展示だった記憶がある.もう少し正確に言うと,少しの滞在時間ではその全貌を掴むことなどできないものだった.そして,チャンス・オペレーションというコンセプトの下,さまざまな事件が起こり,観客はその目撃者となっていった.実際,僕自身も藤本由紀夫氏による「電卓と語学学習機」という不思議なコンサートに出くわすこととなった.しかし,その目撃者はごくわずかであった.その結果,その展覧会は,目撃者の記憶だけではなく,このような記録となって残ることになる.
「横浜トリエンナーレ2005」を見て,そんな展覧会を思い出した.こちらもコミッショナーの交代という事件から始まったこともあって,その開催までが大きな事件の連続であったとともに,更に会期中の会場においてもさまざまなイヴェントが繰り広げられていた.会場で販売されたカタログの中でも,川俣正氏をはじめとするキュレーターたちは,その準備期間の圧倒的な不足を嘆いたり,実現される展示が可変する魅力について書いたりしている.そして,会期終了後には,すべての資料を収めた記録集的なカタログが出版も検討されるらしい.
もしかするとその記録集が,この展覧会を,その実際の内容以上に伝説化させてゆく役割を担うかもしれない.それがどのレベルで達成されたかを抜きにすれば,川俣氏が仕掛けたさまざまな試みは,何れも興味深いものがある.そして,1つ1つの作品がどうだったかということは問題にならず,展覧会という事件だけが,大げさに言うと歴史に残っていくのではないかと思う.その意味で,おもしろい展覧会であった.そういえば,この展覧会の副題もまた「アートサーカス」であった.
しかし,本当にそれだけでよいのだろうか?

美術 | Posted by satohshinya at January 4, 2006 23:33 | TrackBack (1)