« September 2006 | Main | November 2006 »

近所の交通博物館

R0040347.jpg

交通博物館とは名ばかりの,日曜の10時から13時までしか開館していないマニアックな場所がカールスルーエにある.「Verkehrsmuseum Karlsruhe(カールスルーエ交通博物館)」がそれだが,古い工場のような建物にさまざまな自動車やバイクなどが並んでいる.そこにこのスチームボーイもあった.

「MONO-KRAD」という名前で,1928年にイタリアで作られたそうだが,名前でググッてみてもこの博物館に訪れた人がいるくらい.と思ったら,こんなページを作っている人もいるようで,どうやら同じようなものがたくさんあるらしい.
この博物館の最上階には鉄道模型コーナーがあって,多くのおじさんと子供たちが集まり,模型の運行について議論している.このためにこの博物館を存在させているのではないかと思えるくらい.ほとんど趣味でやっているのではないだろうか? と思ったら,ドイツ観光局によるこんな紹介もあるくらいで,どうやら由緒ある博物館らしい.とてもそうとは思えないけど.

@karlsruhe, イベント | Posted by satohshinya at October 28, 2006 16:45 | Comments (2) | TrackBack (0)

音楽と映画と美術館

R0040011.jpg

ZKMMedienmuseumに新しいスペースが登場した.「Das Museum der zeitbasierten Künste : Musik und Museum - Film und Museum」展と題し,音楽と映画という時間芸術を美術館の展示スペース内に組み込むためのものであり,音楽(Institut für Musik & Akustik)と映画(Filminstitut)のそれぞれの部門を持つZKMならではの試みである.

コンサート映像を上映するKonzertRaum,電子音楽アーカイブを常設するHörRaum,映画を上映するFilmRaumの3室が新たに作られた.とは言っても,ビデオインスタレーションを上映していた展示室を改造しただけで,残念ながら特別に建築的な仕掛けがあるわけではない.しかし,企画展に関連した映像を上映するだけでなく,美術館に展示されている作品として映画や音楽を扱うとことはあまり例がないように思う.
KonzertRaumでは「Ein Viertel der Neuen Musik」と題し,ルイジ・ノーノヴォルフガング・リームヘルムート・ラッヘンマンなどの現代音楽家による作品のコンサート映像に解説テキストを被せたものが上映されている.HörRaumでは,国際的な電子音楽アーカイブであるIDEAMA(The International Digital ElectroAcoustic Music Archive)から好きな作品を自由に選び出して鑑賞することができる.FilmRaumではアニエス・ヴァルダの作品や,FilminstitutのディレクターであるAndrei Ujica自身による宇宙飛行士のドキュメンタリー作品などが上映されている.残念ながらフィルムではなくビデオプロジェクターを用いているのだが,貴重な作品を見ることができる.
しかし,確かにおもしろい試みではあるのだが,美術館に長時間滞在して映像を見続けるのは骨が折れる.これはこのスペースに限らず,ビデオアートの持つ問題でもあるだろう.美術館で日常的に貴重なコンサート映像や映画を見ることができる,という意味では画期的であるかもしれないが,既に映像を見るアートがこれだけ溢れている現在において,この行為にどのような意味があるのかを考えなければならない.もし上映(展示)される場所やクオリティがどのようなものでもかまわないのであれば,いっそのことYouTubeで見ることができればもっと画期的なのかもしれないけれど.

@karlsruhe, 映画, 美術, 音楽 | Posted by satohshinya at October 27, 2006 17:40 | TrackBack (0)

美術館のショーウィンドウ

DSC08576.jpg

市制記念日に続いてこれも古い話だが,ZKMのSubraumでの展示について.ZKM自体は元兵器工場を機能転用しているが,そのエントランス横にガラス張りのヴォリュームが増築されている.2階はコンサート用スペースのKubusで,その下にSubraumは位置している.

つまりZKMの顔とも呼べる場所なのだが,実際には周囲を巡るガラスは部分的にルーバーのように傾けられた半外部となっており,内部は中央に円形のステージがあって,周囲には水が張られている.なぜ水が用いられているかは,設計時のコンセプトの変遷による名残とかで,とにかく正面に位置しながらもなかなか有効に使うことが難しい場所となっている.ちなみにこの全面ガラス張りの増築だが,Kubusもホールであるために窓がなくて青い壁面が見えるだけで,結局ガラスは単なるスキンとなってしまっている.一応Subraumは作品を展示するショーウィンドウとして利用されているものの,この環境では展示できるものが限られてくるだろう.
そこにイタリア作家Stefano Scheda『Meteo 2004』が設置された.この作品はサッシ割に合わせて並べられた6面のスクリーンに映像が映し出され,それに合わせてマシンガンの音が付近に響き渡るというもの.映像は19時頃からスタートするのだが,展示期間が夏だったため,周囲は21時頃にようやく暗くなり始める.作品をまともに見ることができるのは大分遅い時間になってからで,オープニングも22時から行われたほど.その一方で,スクリーン自体はガラスのすぐ後ろに設置されていたために,昼間は内部の目隠しとなってしまっていた(もちろん内部には何も展示されていなかったが).作品自体は外部に展示するにはやや暴力的ではないだろうかと思うが,確かに迫力のあるものだった.展示室でこぢんまりと見せるよりは,このくらいの方がよいのかもしれない.建物と一体となって外部へメッセージを発する,という意味では成功と言えるだろう.

DSC08587.jpg

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at October 27, 2006 15:21 | TrackBack (0)

世界遺産のある街@speyer

R0040457.jpg

シュパイアー『地球の歩き方』には登場しないマイナーな街だが,ドイツで2番目に世界遺産に登録されたロマネスク様式の大聖堂がある.1030〜1124年に建造され,当時はヨーロッパ最大の教会であったそうだ.その後のゴシック様式の大聖堂と比べると装飾過多ではない分,内部に空間的な操作が見られる気がする.

それはともかく,そんなシュパイアーには2001年に作られた「Kulturhof Flachsgasse」という名前の一角があって,「Städtische Galerie(市立ギャラリー)」「Kunstverein Speyer(クンストフェライン・シュパイアー)」が同じ建物に入っている(他にも「Winkeldruckerey und Typographisches Kabinett」というスペースもあったらしい).何れの展示空間も天井が低く,美術館というよりは市民ギャラリーといった感じ(なぜかwebではQuickTimeを見ることができる.外部,内部キャビネット).5年前のデザインとは思えない.設計はシュパイアーの設計事務所Architekturbüro Weickenmeier.展示もやはりシュパイアーに関わりのある作家を選んでいるようで,1階の市立ギャラリーではKurt Kellerによる写真展「LichtZeitRaum」,2階のクンストフェラインでは「Neuland 5」と題したBrigitte Ebert,Michael Heinlein,Thomas Koppの3人展を開催中.作品もそれなりという感じ.ヨーロッパにだってこんなところもある.
写真はシュパイアー近くにあるライン川沿いの原発.

美術 | Posted by satohshinya at October 26, 2006 23:12 | TrackBack (0)

市の誕生日

R0042761.jpg

マルクト広場にあるラートハウス(市庁舎)でZKMの出張展示が行われた.

カールスルーエの市制記念日に行われるイベントの1つで,あちこちの広場でコンサートなどが行われている中,やはりメディア・アートらしく暗い室内での展示だった.もっとも,内容としてはアートというよりは,360°のパノラマスクリーンを紹介するもので,撮影した素材を連続した1つの映像に変換させるシステムが重要であるようだ.webで詳細なMovieを見ることができる.
写真は秋のカールスルーエ.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at October 26, 2006 16:59 | TrackBack (0)

サイト・スペシフィックと機能転用@colmar

R0040164.jpg

コルマールにある「Musée d'Unterlinden(ウンターリンデン美術館)」は1232年に創設された修道院を機能転用したもの.ここはグリューネヴァルトの『イーゼンハイム祭壇画』(1512-16)でよく知られている.

この有名な祭壇画は元々は異なる修道院に付属した礼拝堂に置かれていたもので,それが後年になって元修道院であった美術館の,やはり礼拝堂であった展示室に置かれている.つまりは,ある特定の場所のために描かれた(サイト・スペシフィックな)作品が,結果的に以前と同様な機能を持つ場所に展示されていることになる.
ここに限らずヨーロッパでは,19世紀以前の美術を展示するための場所に歴史的建造物を転用したものが多く見られる.そしてそれらは展示空間として成功しているものが多いように思う.これらは磯崎新の言うところの第一世代の美術館に当たり,「教会にあった祭壇画や彫像を台座ごと持ってきて飾ったもの」をコレクションしており,その後の第二世代が額縁や台座を予め持つ移動可能な近代美術に対応したホワイトキューブということになる.
それでは,なぜ第一世代の美術館では機能転用が成功したのか? 思い付いた理由を適当に挙げてみる.教会にあった祭壇画や彫像などの作品は,それらが設置された建築物と機能的には一体化していたが,空間や場所との密接な関わりが(サイト・スペシフィックでは)なかったためにどのような建築空間にも展示可能だった./近代以前の(ある規模の)建築空間には機能による明解な差異がなかったため,どの空間に展示しても大きな齟齬が起きなかった./そもそも展示室として機能する空間を持つ建築物だけが美術館に転用されており,あらゆる近代以前の建築物が美術館に機能転用できるわけではない./宗教画などは展示空間と強い関係を持たず,天井が高いなどの崇高さが必要なだけだった./作品が描かれた時代と,それを展示する建築物が建設された時代が一致していたため.何れもたいした根拠はない.
「ウンターリンデン」を例に考えてみる.祭壇画のある展示室は元礼拝堂であり,壁こそ白いものの天井にはゴシック様式による交差リブヴォールトが現れ,シンプルな平面形状の教会のように見える.グリューネヴァルトの作品は実際には聖人の木造が安置されている扉に描かれたもので,二重の扉の両面に描かれており,それらはバラバラに展示されていることになるらしい(写真は一枚目の扉に描かれたもの).同じ修道院の礼拝堂に展示されているといっても,祭壇の扉という機能や礼拝堂空間との関係性は無視され,中央部に独立したオブジェのように置かれている.むしろ新しく芸術作品としての役割を担い,それに相応しい展示が試みられている.しかし,この祭壇画がフローリングにトップライトの同じ大きさの空間を持つホワイトキューブに置かれていたとして,それは果たしてこの作品に相応しいだろうか? やはりそうとは思いにくい.元礼拝堂の空間が持つ何らかの性質が,芸術作品として扱われた祭壇画に対して何らかの働きかけを行っていると考えるのが妥当ではないだろうか?

美術 | Posted by satohshinya at October 26, 2006 16:16 | TrackBack (0)

カンディンスキーの壁画@strasbourg

R0040135.jpg

「Musée d'Art Moderne et Contemporain de Strasbourg(ストラスブール近代・現代美術館)」は,世界遺産でもある旧市街に隣接した場所に1998年にオープンした新しい美術館.設計のアドリアン・ファンシルベールはラヴィレットの科学産業博物館が有名で,ここもガラスのアトリウムを持つ大味な建築である.

名前の通り近代美術と現代美術の双方を扱う巨大な美術館である.1階に近代美術のコレクション,2階に現代美術のコレクションが展示されている.それらは近代はブラックやアルプなどの一般的なもので,現代はダニエル・ビュランやニエーレ・トローニなど(ここでコレクションの一部を見ることができる).その周辺のあちこちに企画展示室が散在していて,訪れたときに行われていた企画展は以下のとおり.1階の大きな企画展示室ではアメリカ人作家Christopher Woolの平面による個展.奥にある天井高の低い展示室ではBernard Dufourの個展「Rétrospective en 40 Tableaux」,そのメザニン階ではジョン・ハートフィールド「Photomontages Politiques 1930-1938」展.奥のもう1つの展示室にはギュスターヴ・ドレの作品があり,その一角にJean-Luc Parantのインスタレーション作品が設置されている.2階のプロジェクトルームでは,部屋全体に斜めの床を作り出した大掛かりなDitler Marcelのインスタレーション.このようにさまざまな企画が行われていたが,あまりおもしろいものはなかった.展示室も何れも特徴のない一様な空間で,特筆すべき点のない美術館だった.
唯一その中では,近代美術コレクションの中で展示されていたカンディンスキーがデザインした陶製の壁画が興味深いものであった.これはミース・ファン・デル・ローエに要請され,1931年にベルリンで行われたドイツ建築展の会場の音楽室に設置された作品を再制作したものである.デザインももちろんのこと,セラミックの持つ表情がおもしろいインテリア空間の可能性を改めて示唆している.
ストラスブールには他にも美術館がある.大聖堂の横には,18世紀の古典主義様式による司教館であったパレ・ロアンが,今では「Musée des Beaux-Arts(美術館)」装飾博物館考古学博物館の3つのミュージアムに機能転用されている.2階にある美術館は14〜19世紀のヨーロッパ絵画をコレクションに持つ.その隣にある「Musée de l'Œuvre Norte-Dame(ルーブル・ノートルダム博物館)」は,14世紀と16世紀の建物を機能転用して11〜17世紀の絵画や彫刻をコレクション.一般的に日本語では博物館と訳されているが,美術館と呼べる内容.これらのミュージアムをまとめて紹介しているのがMusées de Strasbourgで,ここでは美術館と博物館の区別は存在しない.
写真はストラスブール駅をガラスキャノピーで覆うという意味不明なプロジェクトの構造.パースを見ると,前面だけが覆われるらしい.何のために?

美術 | Posted by satohshinya at October 3, 2006 9:44 | TrackBack (0)

トップライトの影@baden-baden

DSC08927.jpg

「Staatliche Kunsthalle Baden-Baden(州立クンストハレ・バーデンバーデン」)」は,Hermann BilingとWilhelm Vittali設計により1909年にオープンした.2人ともカールスルーエ生まれの建築家.ここはクンストハレの名前の通り,コレクションを持たない企画展専用の美術館である.温泉で有名な保養地のバーデンバーデンだけあって,美しい公園の中に位置しているのだが,その入口脇にはリチャード・セラの作品が置いてあったりして,箱根の美術館とはちょっと違う.

展示空間がなかなかよい.1階の入口から2階への階段を上がると最も大きな展示室(Großer Lichtsaal)に直接出る.その天井はトップライトを持つのだが,隅の方では屋根の上に掛かる木の影がガラスに映っていて,なんとも風情がある.ニュートラルなホワイトキューブでは,光天井に木の影が映るなんてあり得ないのかも知れないけれど,この場所ではこのくらいの緩いトップライトが相応しく思える.平面図を見ると,1階に展示室が1室あり,2階に敷地なりにいくつかの異なる大きさ・形のホワイトキューブが並んでいるだけで,それほど特別なものには見えないかもしれないが,十分に小気味よい美術館となっている.特別なものが何もないことがよいというわけではないのだけれど,特別なものがなくてもよいものができる可能性があるということだろう.
シュテファン・バルケンホールの個展を開催中で,その作品が非常によかったことも美術館がよく思えた原因の1つだろう.日本で見た作品もいくつかあったけれども,やはり展示空間がよいと更に作品もよく見える.これまでにも意欲的な展覧会を行ってきたようで,こんな場所でも十分に現代美術が通用するというのはうらやましい限りだ.
その一方で,「クンストハレ」とガラス張りのブリッジで結ばれた隣に,2004年にオープンした「Museum Frieder Burda(フリーダー・ブルダ美術館)」リチャード・マイヤー設計だが,まさに箱根の美術館のようだった.マイヤーの作品としてはディテールを含めてよくできていると思うし,さすがにバーデンバーデンだけあってお金もたっぷり掛けられているようだ(こちらは建設のドキュメント).しかし,美術館としては首を傾げざるを得ない.周囲の緑を展示室に取り込むべく各所にスリット上の窓が開いているのだが,これが結果的に分節過多の落ち着きのない空間を作っている.もともとマイヤーの建築はそういう傾向があるのだが,これではバルセロナの方がまだよかった.
ここは個人コレクションを収めた美術館で,近代美術だけでなくゲルハルト・リヒタージグマール・ポルケなどのドイツ現代作家の作品を中心に集めている.地下の展示室でその作品の一部を見ることができる.企画展は「Chagall in Neuem Licht」展を開催中で,シャガールの代表作が数多く集められていたのだが,散漫な展示空間のために作品までもよくないように思える.もしかすると人によっては,ここはよくできた美術館であると思うのかもしれないけれど,ここまで壁や柱や窓やスロープが散りばめられた空間では,作品鑑賞以前にそれらの建築要素が気になって仕方がない.周囲の木々にしても,直接スリットから垣間見えるよりも,光天井に影を落とすくらいのささやかなあり方の方が,この場所と展示空間をうまく結びつけているのではないかと思う.

美術 | Posted by satohshinya at October 1, 2006 8:45 | Comments (2) | TrackBack (0)