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有効なポストモダン@stuttgart

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ジェームズ・スターリング設計の「Staatsgalerie Stuttgart(シュトゥットガルト州立美術館)」の新館は,ポストモダン建築の傑作だろう.建築史家であるokw先生とこの美術館を訪れた際に,ポストモダン建築の代表作を挙げるとすると,やはりこれと磯崎新の「つくばセンタービル」だろうと話をしていた.

ポストモダンの話はともかくとして,この美術館は1984年の新館(Neue Staatsgalerie)だけでなく,Gottlob Georg von Barth設計による1843年の旧館(Alte Staatsgalerie),バーゼル現代美術館の設計者でもあるWilfrid and Katharina Steibによる2002年の旧館増築(Erweiterungsbau der Alten Staatsgalerie)と,世紀毎に更新された3つの建物によって構成されている.現在は旧館が再編成中であるため,新館のみがオープンしている(10月4日まで).
その新館で注目すべき企画展である,世界中の美術館からクロード・モネの代表作40数点を一同に集めた「Claude Monet: Effet de Soleli - Felder im Frühling」展が行われていた.ヨーロッパだけでなく,アメリカや日本の西洋美術館からも出品されているこの展覧会は,今までモネの作品にそれほど興味のなかったぼくも,はじめてその魅力を知ったすばらしいものだった.もちろん,これまで日本で見てきたモネが,これらの傑作と比較するとそれほどではなかったということだったのかもしれない.同じモチーフの作品を並べて展示したり,展示壁にもさまざまな色を塗り分けてみたり,点数がそれほど多くないながらも非常に充実した内容だった(webで展示作品の一部を見ることができる).
この企画展示室は新館に位置しており,ガラスの入口扉を入ると,フローリングの床と白いグリッド状のルーバー天井を持つ大きな空間に,構造的にはオーバーと思える形状の打ち放しコンクリート柱が林立している.ルーバーの中に入り込んだ柱は,ご丁寧に白く塗られている.この展示室は,ともすると妙な装飾が施されているように思えるかもしれないが,スケールが適切であるとともに意外とこの柱がチャーミングに見え,不思議な魅力を持つ展示空間となっている.ちなみに同様なデザインによる講堂もあるのだが,普通の椅子を並べただけのラフな場所となっていて,こちらも魅力的であった.
旧館と新館の2階が常設展示室になっている.旧館は壁さえ白く塗ればホワイトキューブとなる古典的な展示室が連続し,1900年までの作品が並べられている.作品を年代順に追っていくとすると,観客はそのまま同じレベルで1900年以降の近代美術が展示される新館へと鑑賞を続けることになる.その接続部には外壁の名残を思わせるゲートがあって,旧館と同じように見える連続した展示室へと繋がってゆく.新館は旧館と比較すると,展示室の大きさに若干違いがあり,ホワイトキューブと呼ぶべき白い空間と変化しているのだが,天井にトップライトを持ち,部屋を繋ぐ入口に装飾的な要素が施されていたりして,観客は新旧の違いを明確に意識せずに鑑賞を続けることになる.つまりここでスターリングは,建築デザイン上の対比だけでなく,内部空間における展示空間の時間軸に沿った対比も試みている.
この新館は,シンケルのアルテス・ムゼウムの平面構成を反転させ,中央のドーム部分を外部化し,そこに美術館とは絡まないパブリックな動線を通過させるという,歴史的・都市的な知的操作が行われていることが魅力と言われている(それ故か,一部に旧館の設計者がシンケルとあるが,それは間違いだろう).しかし,同時に展示空間に対しても同様な知的操作が加えられており,無理なく一体となった美術館を成立させている.建築におけるポストモダンは,単なる無作為な歴史的様式のコラージュとして,特に日本ではバブル期の商業建築の隆盛と結び付いてしまったため,今では過去の流行として忘れ去られるどころか忌み嫌われてさえいるような気がする.確かにこの新館も外見上の色や形に対する好みの問題もあるだろうが,これらの知的操作がポストモダンの大きな成果であるのだとすれば,まだまだ現在でも有効であると思える.

建築, 美術 | Posted by satohshinya at September 12, 2006 10:58 | TrackBack (1)

美術のための美術館@stuttgart

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「Kunstmuseum Stuttgart(シュトゥットガルト美術館)」は2005年にオープンしたばかりの新しい建物だが,コレクションのスタートは1924年に遡る.ベルリンの建築家であるRainer HascherとSebastian Jehleの設計による建物は,一見して単純なガラスの箱に見えるが,実は基壇の下に広大な展示空間を持つ.

1階と地下が常設展示室だが,特に地下が細長く変な空間だと思っていたら,プランを見てみると両側から道路に挟まれている特異な敷地条件による結果であることがわかった(特設サイトを参照).実際に訪れた限りでは,そのような地下道路の存在は全く窺い知ることができない.その悪条件を解いているということを差し引いたとしても,この地下の展示空間はあまり魅力的ではない.敷地自体が細いのに,吹き抜けを介して上下階に関係を持たせているため,なんだかスカスカの締まりのない展示室となってしまっている.1階も基壇部分にトップライトを嵌め込んでいるのだが,その光の落ちる先は廊下ばかりである(この辺の写真を見るとわかる).展示空間をキチンと作るよりは,どちらかというと建築表現を優先しているように見える.
更に上階のガラスの箱に入るとその傾向は顕著で,2〜4階が企画展示室だが,ガラスが廻るのは廊下状の部分だけで,その中に展示のために壁で覆った空間がある.しかもその空間は固定した壁で仕切られていて,中央には吹き抜けまであったりする.なんとも使いにくそうな展示空間だ.地下も上階も展示空間自体はいわゆるホワイトキューブで,天井は大部分が光天井だが,自然光は入ってこないようだ.
幸か不幸か企画展では「Leuchtende Bauten: Architektur der Nacht」展をやっていて,建築の夜景について,ブルーノ・タウトからはじまりH&deMやらヌーベルやらの模型や写真が並んでいた.コールハースのZKM(コンペ案)の模型を見ることができた以外は,こんなところでこんな展示を見たくなかったというのが正直なところ.一方で,テーマに合わせた暗い展示室を実現するためには,この閉鎖的な建物はピッタリであった.いや,これはほめているのではなくて嫌味です.
常設では,地下にあったレベッカ・ホーンのインスタレーションがよかった.吹き抜けのあるラフな展示空間だったが,これくらい力強い作品だと気にならない.その一角では「Frischzelle_04: Albrecht Schäfer」展という若手作家の展覧会がはじまるところだった.現代美術も視野に入れているのであれば,もう少し展示空間を考えてほしい.
唯一の見所であると期待していったのが,裏側の基壇に設置されたカールステン・ニコライ「Polylit」.ニコライはミュージシャンでもあり,Alva Noto名義で坂本龍一コラボレーションをやっていて,10月には日本ツアーも行われる.もちろんアーティストとしても,昨年にベルリンとYCAMですばらしいインスタレーションを発表したばかり(見てないけど).ということで期待していたが,実際にはインタラクティブな仕掛けがあるようなのだがよくわからず,単なる彫刻にしか見えずにガッカリ.
ちなみにこの美術館,Thomas Mayerという建築写真家(だと思う)が大量の写真をwebに載せている.この人のwebは充実していて,いろいろな建築の写真を見ることができる.驚いたのがこの写真で,他にもこんな写真をはじめとして長期に亘るドキュメントを大量にアップしている.この辺とともにいろいろ検索してみてほしい.しかしこの建物,完成したんだ.ドイツにあるんだよね.行ってみようかな?

美術 | Posted by satohshinya at September 10, 2006 10:14 | TrackBack (0)

Interconnect・Georg Nees・Ignasi Aballí

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ZKMMedienmuseumではいくつかの展覧会がはじまっている.

「Interconnect@ between attention and immersion」展は,副題に「Medienkunst aus Brasilien」とあるようにブラジルのメディア・アートを集めたもの.2000年以降6回目を数えるPrêmio Sergio Motta de Arte e Tecnologia(セルジオ・モッタ賞)の受賞作と候補作から12作品(内1作品はパフォーマンス)が選ばれている.出品作家はLucas BambozziGiselle Beiguelman作品),Caetano Dias,Luiz Duva,Grupo Poéticas Digitais,Raquel KoganDaniela Kutschat + Rejane Cantoni作品),Katia Maciel,Alice Miceli,Simone Michelin作品),Gisela Motta + Leanoro Lma作品),André Parente.展示構成の手伝いをしました.

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「Georg Nees – Die große Versuchung」展はコンピュータ・アートの先駆的アーティストの1人であるGeorg Neesの回顧展.1960年代の初期の作品も並ぶ,クンストハレ・ブレーメンのコレクションを中心としたもの.小さな展示だが,歴史的に重要な作品ばかり.展示構成を行いました.

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「0–24 h. Ignasi Aballí」展はスペイン作家Ignasi Aballíの個展.バルセロナ現代美術館,ポルトのセラルヴェス美術館(アルヴァロ・シザ設計),バーミンガムのIkon Galleryを廻ってきた巡回展.こちらはメディア・アートというよりはミニマルな現代美術.作家本人も河原温に影響を受けていると語っていた.
近くに来る人はいないと思いますが,もしお近くに来ることがあればぜひ.

@karlsruhe, recommendation | Posted by satohshinya at September 9, 2006 7:55 | Comments (3) | TrackBack (0)

水の波紋から11年@stuttgart

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シュトゥットガルトのBirkenwaldstraße沿いの住宅やその外部(庭)に150点の作品を点在させる「Vorfahrt」展が行われた.この通りは市街地近くから緩やかに蛇行しながら,丘の上の住宅地へと登ってゆく.終点にはシュトゥットガルト造形美術学校があり,そのすぐ先にはヴァイセンホフジートルングがある.

作品にはさまざまなレベルのものがあって,この場所でなければならないような巧妙な作品もあれば,別にどこの場所に置いたってかまわないような作品まである.予算の問題もあるのだろうけれど,それほど大げさなものは少なく,何れもささやかな作品ばかり.それにしても,住宅の中に展示しているもの(観客は外側から見る)もあって,これだけの作品をコーディネートするのは大変な労力だと思う.
日本も今では越後妻有が定着しはじめているように,野外展も特別なものではなくなりつつある.「Vorfahrt」の解説にもあるように,ゲント現代美術館の「シャンブル・ダミ(友達の部屋)」展からちょうど20年.この歴史的な展覧会を引き合いに出すまでもなく,個人的にはじめての野外展経験であった,同じヤン・フートのキュレーションによるワタリウムの「水の波紋」展ですら既に11年が経過する.表参道の歩道橋の下に川俣正がプレハブの倉庫を設置し,その中に吉田戦車(だったと思う)がマンガを書いているという作品があったり,今思うと都会の真ん中でよくやっていた(参考リンク:).その頃から思っていたけれども,やはり場所や状況との関わりを持つ作品の方が断然におもしろい.
午後からしかインフォテークが開いていなかったため,ガイドブックを購入することができなかったが,通り沿いに並んでいるために作品たちを発見できた.もちろん,「水の波紋」のときのように,アートを介して知っている街の新しい場所や視点を発見することと,まったく知らない場所をアートとともに廻ることは,大部異なる経験かも知れない.しかし,こんなことがなければ住んでもいないドイツの住宅地を子細に観察しながら歩くこともないだろう.日本と大きく違うと感じたことは,観客の人たち.杖をついたおばあさんが,ガイドブックを片手に作品を回っていたりする.
写真は作者はわからないが,住宅の窓の外側にカーテンを吊しただけの作品.なんてことはないけれど,気が付いたときには結構おもしろかった.
おまけ.ヴァイセンホフジートルングのコルビュジエ棟が,ヴァイセンホフミュージアムとして9月21日からオープンするそうだ.

美術 | Posted by satohshinya at September 8, 2006 6:22 | TrackBack (0)

Podcastと美術館

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ZKMでもPodcastがはじまっている.といっても「Lichtkunst aus Kunstlicht」展のオーディオガイドのPodcast版で,もちろんドイツ語のみ.ガイド・ツアーをはじめとする観客とのわかりやすい接点を生み出す活動は,Museumskommunikationという部門の仕事だ.

このオーディオガイドは,やっぱり自分のiPodに入れて作品を見ながら聞くことが想定されているのだろうか? こういった記事もあるから,きっとそうなのだろう.しかし,オーディオガイドは最近はどこでも見られるようになり,ヨーロッパの美術館や博物館,観光地では多くの人たちが耳を傾けている.ぼくはこれがあまり好きではなくて,そこから得られる情報が重要であることはわかるのだけれど,作品を見るテンポが阻害されてしまう気がしてイヤになる.事前に作品の背景をPodcastで予習をすると言っても,頭でっかちになってから作品を見るのもまた楽しくない.そうなると,時間の許す限りに読み飛ばすことができる文字情報(印刷物)を配布してくれるのが,個人的にはベターな方法だと思っている.もちろん音声だけでなく,画像や動画までもダウンロードできるようになってくると,確かに別の可能性があるのかもしれない.
そういえばMOTでもネットラジオ「Mot the Radio」をはじめている.もちろんオーディオガイド「Mot the Guide」もある.その他にも,スタッフによるブログ教育普及プログラムのブログなど,いつもは文句ばかりを書いているが,最近はがんばっているようだ.これについてもリンク記事あり.更に余談.長谷川祐子さんがMOTのチーフ・キュレーターになったようだが,金沢はどうなるの? とにかく,がんばれ東京!
おまけに「Lichtkunst」展について.この展示はとにかく膨大な光る作品が所狭しと3層のフロアに押し込まれていた.まるで秋葉原の照明売場に来ているような感じ(笑).その物量には圧倒されるが,どこをどのように見ればよいのか皆目見当が付かない.結局,光の中をさまようくらいしか手がなくなってしまう.もう少し交通整理がされていれば,本当に素晴らしい展示だと思うのだが,それが残念.webでMovieを見ることができる(右上のTRAILERをクリック).
写真は本題と関係なく,ZKM前のキース・へリング.最初はキースの偽物かと思っていたら,タイトルのパネルが設置されていた.なぜメディア・アートにキース? ちなみに子どもの滑り台と化して剥げている.

@karlsruhe, 美術 | Posted by satohshinya at September 7, 2006 14:20 | Comments (1) | TrackBack (0)

挿入された白い壁@luxembourg

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1882年に建てられたカジノ(ルクセンブルク建築家Pierre and Paul Funckによる)を改築した「Casino Luxembourg(カジノ・ルクセンブルク)」は現代美術の企画展を行う美術館である.改修はアーティストであり建築家でもあるUrs Raussmüllerによって行われ,1995年にオープンした.

ここでもやはり歴史的建造物の機能転用が行われているわけだが,展示空間として部屋の中に入れ子状にホワイトキューブが挿入されていることが特徴的であった.既存の部屋の壁ギリギリに白い壁がめぐっており,部屋と部屋の間や天井などから元の部屋のインテリアが覗いている.これには建物の展示への利用が恒常的に認めらたわけではなかったという背景があるようで,それを利用しておもしろい機能転用の方法を示している.その他にも道路側に向かって,ガラス張りの展示室が増築されている(webには,このパビリオンがジャン・プルーヴェによるものと書いてあるのだが……?).
ここでは「raconte-moi / tell me」展が行われており,12人(組)の作品が部屋毎に展示されていた.Melik Ohanianの映像作品の展示室では,明るい入口から奥の映像が映る部分に向かって,壁に白から黒へグラデーションが掛かっていた.実際には暗い部屋なので気が付く人はほとんどいないと思うが,印刷した壁紙を貼っている苦労の裏には,ホワイトキューブからブラックキューブへの移行をフィジカルに表現したいという意図が感じられた.バーゼルでも見たフランシス・アリスは,このホワイトキューブのあり方を逆手にとって,部屋と部屋の間を展示空間に選び,ホワイトキューブの外側の壁に映像を展示していた.映像といってもスライドプロジェクタを用い,床すれすれに路上生活者を小さく映し出すささやかな作品であり,それがこの展示空間にふさわしいものだった.上記の2つは見ることができないが(笑),webでは展示風景のMovieを見ることもできる.
クラシカルな建物にホワイトキューブを挿入した結果,それと同時に不思議な隙間が作り出された美術館.そういえば青木淳さんの作品にこんなものがあったことを思い出した.
ルクセンブルクにもmuséeskaartがあって,各美術館・博物館が無料になる.全ての情報をまとめたProgramme des muséesはwebでダウンロードも可能.
写真はルクセンブルク内のクレーン.足下は石を積み上げて固定している.ちょっと怖い.

美術 | Posted by satohshinya at September 6, 2006 0:52 | TrackBack (0)

アートにとって望ましい外部空間とは@luxembourg

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ルクセンブルクにあるデキシア銀行の本社を会場として「My Home Is My Castle」展が開かれていた.もともとロビー部分にギャラリー「Galerie l'Indépendance」が併設されていて,そこと庭園「Parc Heintz」を用いて現代作家の作品が並べられでいた.パナマレンコ,バルケンホール以外は,あまりなじみのないアーティストたちばかりであったが,なかなかおもしろい展示だった.

パナマレンコが置かれたギャラリーは,ガラス張りのロビーに絵を架けるための壁があるといった程度でたいしたものではない.一方の庭園は,もともといくつかの彫刻作品が展示されているのだが,邸宅跡の石積みが残されている趣のあるところで,それを用いた作品もいくつかあった.庭園に設置されている作品は何れも越後妻有を思い起こすようなインスタレーションだったが,中でもクロード・レヴェックのショッピング・カートを積み上げただけの作品は単純ながらも美しいものだった.後で調べてみると,レヴェックは水戸で個展もやっていて,妻有にも参加している(笑).
このような野外展示は場所に負うところが大きく,ここも遺跡が残る雰囲気のある場所なので成立しているような作品もあるし,場所をどれだけうまく利用しているかによって見え方が変わってくる.その意味では,レヴェックの作品は小高くなった高い木に囲まれた場所をうまく使っていた.ところで今年の妻有は行くことができないが,どうだったのだろう? あれも途中から作品を見に来ているのか,妻有の自然を見に来ているのかわからなくなり,作品が気に入ったのか,自然を気に入ったのか混乱してくる.まさにホワイトキューブとは正反対の主張する展示環境だ.そうだとすると,アートにとって最も望ましい外部空間はどのようなものか,という問いは成立するのだろうか? きっと意味がないだろう.つまり,アートにとって望ましい外部空間はデザインできないということだろうか?
この展示の情報はrhythm projectエントリーから得た.そうでなければ,こんな特殊な展覧会には行き当たらなかった.執筆者の遠藤さんに感謝.しかし,日本の銀行で現代美術展なんてやるかね? ちなみに立派なカタログを作っていて,それを会場で無料配布している.たいしたものだ.

美術 | Posted by satohshinya at September 5, 2006 23:24 | TrackBack (0)

遠距離のランドスケープ@luxembourg

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「Musée National d'Histoire et d'Art Luxembourg (MNHA)(ルクセンブルク国立歴史・美術博物館)」は元住宅を改修・増築した,歴史博物館と美術館が一体となった建物である.ルクセンブルク建築家Christian Bauerの設計により2002年に再オープンした.

通りに面して増築されたファサードはシンプルで,一見するとそれほど大きくない建物に見えるのだが,実際に中に入ると背後に隠れるように,18〜19世紀に建てられた2つの歴史的住宅を機能転用した展示エリアが拡がっている.既存部は地上5階,ファサードが面する広場の下は地下5階に及ぶ.実際には階高の低い住宅を基準としているため,展示エリアでは2層分利用しているところも少なくない.しかし,元魚市場であった敷地に広場を再生したり,その地下に中世の貯蔵庫を保存公開していたり,歴史的にも複雑で困難な立地に上品な解決を見せている.
地下階を含む大部分が歴史博物館のエリアで,地上3階からの3層のみが美術館になっている.最上階にはトップライトを持つ展示室があり,天井が高い増築部が企画展用であったが,訪れた時には展示換えのために残念ながら入ることができなかった.コレクションは近代美術までのアート(それ以降は「ジャン大公近代美術館」の担当)とルクセンブルクのアートが中心となっており,それらは天井の低い既存部に展示されている.

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その近くには「Musée d'Histoire de la Ville de Luxembourg(ルクセンブルク市立歴史博物館)」もある.ルクセンブルク建築家Conny Lentzの設計により1996年にオープン.ここもやはり中世に建てられたものを含む歴史的住宅を改修したもので,古い街並みの中にガラスのファサードが挿入されているが,4つの住宅を機能転用しているために内部は複雑.中では企画展として「Bilder, die lügen」展をやっていた.修整写真から最近のCG処理に至るまで,様々な場面で行われてきた嘘の映像をテーマとしたもの.
ここの活動は基本的に博物館と呼んでよいものだと思うが,一方でダニエル・ビュランによる「D'un Cercle à l'autre : Le Paysage emprunté」というパブリック・アートのプロジェクトを2005年にサポートしていたようだ.ルクセンブルクは城塞都市で,尾根のような部分に都市が築かれているが,その周りをグルントと呼ばれる低地に取り囲まれている.その7箇所に大きな円形の穴を開けたボードを設置し,それによって切り取られたルクセンブルクの風景を見せるという作品だった.もちろんこのボードにはストライプが描かれている.01年に一時的に展示された作品を,改めて常設作品として再設置したらしい.簡単な仕掛けの作品だが,パネルによってピクチャレスクな視点を発見させるとともに,丸く切り取られた風景と,それを取り囲むオレンジのストライプの絶妙な組合せにより,新たな風景を生み出している.その意味では,遠距離も射程に入れた,優れたランドスケープ・デザインであった.
ちなみにビュランのホームページで近作を見ると,あらゆる種類の作品を同時に生み出していることが分かる.ストライプだけでこんなに展開させるなんてよくやるものだ.

美術 | Posted by satohshinya at September 4, 2006 6:53 | TrackBack (0)