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展示する場所/しない場所の区分けを無効にすること@luxembourg

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ルクセンブルクでは,前日に関係者へのオープニングが行われ,まさにその日に一般客へと公開される「Musée d'Art Moderne Grand-Duc Jean (MUDAM)(ジャン大公近代美術館)」を訪れた.1964〜2000年まで在位していたルクセンブルク大公国の国家元首であったジャン大公の名前にちなんだもの.ポンピドゥーみたいなものだ.名前は近代美術館だが,実際は現代美術を扱うところ.設計はI.M.ペイ.今更ペイの美術館なんてとも思ったが,とにかくヨーロッパの国立現代美術館のオープンに立ち会えるのならばとルクセンブルクまで行ってみた.

セレモニーでもあるのかと期待して行ったのだが,開館前には50人くらいの行列ができていただけで,残念ながら前日に華やかなオープニングは終わってしまった後のようだった.旧市街から離れた丘の上に新市街があるのだが,その端部に1732年に作られた要塞跡があり,要塞本体は博物館として整備中で,そこに隣接する遺跡のようなものの上に美術館は作られている.外観は石貼りによる最近のものとはとても思えないデザインだが,とりあえず中に入ってみた.
オープニングは「Eldorado」展.70年代生まれのアーティストも数多く含む現代美術が,全館を使って繰り広げられている.入口を入った正面に大きなガラス天井を持つホールがあり,そこには蔡国強の巨大な作品が堂々と展示してある.展示室というよりは,やはり展示室へ繋がる動線が集まるホールと呼ぶべき空間なのだが,ここもキチンと展示空間として使われている.この美術館には他にもガラス屋根を持つ大きな空間があり,大きな木までもが植えられているスペースがあるのだが,やはりそこにも作品が展示されている.いわゆる展示室然としているスペースにしても,建物全体が要塞跡に建つというコンテクストにより矢印状の平面形を持つため,菱形を変形したものとなっている.その他にも本体から独立したパビリオン状の展示室(もちろんガラス屋根),緩い円弧を描く壁を持つ展示室,メディア・アート用の暗い展示室など,いわゆるホワイトキューブと同じような性格を持ちながら,各々が個性を持った展示空間を作り上げている.しかも非常に良質な建築として実現しているのが,さすがペイと言うべきだろうか? アーティストもそれに応え,ピピロッティ・リストは菱形の展示室で見事なインスタレーションを行っていたし,ナリ・ワードのビンを吊した作品はパビリオンに展示されていたが,この空間のために作られた作品のようにすら見えた(実際は違うので,これはキュレーターの腕前だろう).
繰り返すようだけれども,建築デザインとしては前時代的なシンボリックなものと思わざるを得ないが,美術作品が置かれる場所をバリエーション豊かに提示しているという意味では,非常に新しい美術館なのかもしれない.動線も決められた順路を持たないが,あらゆる空間に作品が展示されているため,展示室と動線空間(及びロビー空間)といった区分けがほとんどされておらずに楽しく回ることができる.オーディトリアム(Mark Lewisの個展を開催中)も展示室に挟まれて通り抜けられるようになっているし,カフェやショップすらも,それらのインテリアデザインがアーティストの作品であるために展示室内に取り込まれている.パブリック・アートまでを射程に入れている現代美術にとっては,もはや展示する場所とそれ以外の場所といった区分けは必要ではなく,あらゆる場所に作品が介入可能であるということを美術館の中で再現しているのかもしれない.もちろん,そのバックグラウンドには良質な建築デザインがあることは言うまでもない.一歩間違えれば単なる商業施設のようになるだけだから.
この美術館では独自のフォントを開発して使用していたり,美術館のコンセプト,美術館建築のコンセプト,「Eldorado」展のガイドをそれぞれまとめた小冊子を無料で配布していたり(今後も無料であるかは不明),出版関係もクオリティの高いものを制作している.webも不思議なデザインで,文字画像のページがパラレルに存在しているというルールを理解するまでは戸惑ったが,他には見たことのない独自なもの.ちょっと不親切だとは思うが.何れにしても力の入ったオープニング展を見ただけの感想なので,今後どのような活動を行うのかわからないが,1つの重要な美術館誕生の瞬間に立ち会ったような気がした.

美術 | Posted by satohshinya at August 15, 2006 1:04 | Comments (3) | TrackBack (0)

機能転用@trier

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トリーアというドイツ最古の街にはローマ時代の遺跡が多く残っている.その1つで世界遺産でもある「ポルタ・ニグラ」は180年に建造された城門だが,中世には教会として使われていたことがあったらしい.いわゆる機能転用.19世紀に元の城門の姿に戻され,今では観光名所として3つ目の機能を担っている.建築における機能なんて昔からこんなものか.

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この写真がその教会時代の姿を描いたもの.現在の「ポルタ・ニグラ」の写真と比べてほしい.結構大掛かりな増築をしていたのがわかる.上の写真は「ポルタ・ニグラ」内にあるレリーフがガラスによって保護されている様子.教会時代に内部に作られたものが,城門に戻された結果に外部になってしまい,そこでガラスで覆ったということ?

建築 | Posted by satohshinya at August 13, 2006 23:45 | TrackBack (0)

大物の小品@basel

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バーゼルに事務所を持つだけあって,ヘルツォーク&ド・ムーロンの作品がバーゼルに数多くある.「シャウラガー」をはじめとして,ガイドブック「Architektur in Basel」にも10作品が紹介されている.しかし,そこにも紹介されていない小さな美術館が「Karikatur & Cartoon Museum Basel(バーゼル・カリカチュア&カトゥーン美術館)」である.

H&deM設計により,後期ゴシックの住宅がリノベーション+増築されて1996年にオープンした.オーバー・ジェスチャー抜きの彼らの作品は本当に好感が持てる.まだ行ったことはないが,「テート・モダン」はきっとよい建築だと思うけれど,結局こんな増築を隣に並べてしまうと全てがぶち壊しになってしまうのではないだろうか? それはともかく,中庭を挟みガラス張りのシンプルな増築部を加え,新旧の建物を結ぶブリッジを配しただけの(彼らにとっては)ささやかな作品ではあるが,その力の抜け具合が非常によい(ここには改修時を含む写真が多数掲載).
やはりバーゼルにもミュージアムの地図付きガイドブック(英語版)「Basel Buseums 2006 Guide in English」が配布されていて(web版もある),スイス・ミュージアム・パスポートが使えるところが多い.更に今回バーゼルで購入したのがOberrheinische Museums-Pass(上部ライン川ミュージアム・パス)である.ドイツ,フランス,スイスに跨るライン川上流沿いの町にあるミュージアム170館が無料になるという優れもので,大人1人61EURO(日本円で8,800円くらい)で1年間有効.もちろんカールスルーエでも使える.旅行者には勧められないけれども,長期滞在者にはお勧め.「カトゥーン美術館」もこれで入場.
写真は「ティンゲリー美術館」の向かいにあるH&deM作品.

建築 | Posted by satohshinya at August 13, 2006 16:13 | TrackBack (0)

ショッピングモール@basel

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「アート・バーゼル」と同時期にいくつかのアートフェアが開かれていた.「Volta Show 02」もその1つで,昨年から開始されたそうだ.「アート・バーゼル」でSCAIのUさんより勧められて急遽訪れてみることにした.他にも若いギャラリー(笑)を中心とした「Liste 06」などが開催されていたが,時間がなくて訪れることができなかった.

「Volta」の会場はバーゼル中心部から遠く,「アート・バーゼル」からはシャトルバス,「Liste」からはなんとライン川のシャトルフェリーによって無料送迎が行われていた.もちろん「Liste」(「バーゼル現代美術館」の対岸)からフェリーに乗り込むも,フェリーとは名ばかりの20人乗りくらいの小さなボート.しかも30分以上の長旅を経て会場付近に到着する.会場周辺は明らかに海運倉庫が立ち並ぶエリアで,運河に浮かぶ船を降り立ち,鉄道の線路を鉄橋で跨ぎ,やはり海運倉庫と覚しき建物へと入ってゆく.ちょっと横浜トリエンナーレを彷彿とさせるが,運河から直接アプローチするのでもっと特殊な場所に降り立つ気分になる(倉庫や周辺,フェリーなどここに写真あり).
アプローチまでは非日常的な雰囲気を十分に演出してくれるのだが,大きな倉庫を使った会場に入ると,結局普通のアートフェアと同様に細かく仕切ったブースが並ぶだけ.仮設で階段と2階を作っている非常に大掛かりなものであるが,結局普通のブースになってしまっている.しかも空調なんてないから2階は異常に暑い.もっと違う方法もあったと思うが,結局は小綺麗なギャラリースペースが再現されているだけ.当たり前だけど,場所の使い方は横浜トリエンナーレの方が断然おもしろかった.ここは観賞する場所というよりも買い物をする場所で,もちろん目的が異なるのだから仕方がない(内部の写真はここ,設営風景はここ).
こういう場所では,これがよかったとか作品個別の印象を持つのはなかなか難しい.もちろん見ている時間が十分でないこともあるし,こんなふうにスペースのことを考えている時点で場違いであるのかもしれない.「Volta」についてもいろいろ報告記事があるので,中身の詳細はそちらを参照してほしい(Volta報告1階2階京都造形大の研修報告,出展(店?)していたKaikai Kikiの報告(このページ後ろの方),伊東豊雄さんではなくて伊東豊子さんの報告(6月24日の日誌)).

美術 | Posted by satohshinya at August 13, 2006 14:33 | TrackBack (0)

動く美術,そして音楽と建築@basel

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ジャン・ティンゲリーはスイスのフリブールで生まれ,バーゼルで育った.そして「Museum Tinguely(ティンゲリー美術館)」が,スイス人建築家マリオ・ボッタの設計によって,1996年にバーゼルに建てられた.

凸レンズ型の屋根架構を用いることで,天井高のある巨大な無柱展示室を実現させており,自然光は妻側のガラス面から入ってくる.坂倉準三と村田豊設計による「岡本太郎邸(現岡本太郎記念館)」(1953)の大型版といった感じ.展示空間としてはどちらかというと大雑把な印象で,普通の絵画の展示には不向きに思えるが,ティンゲリーのような作品にはこのくらいの場所がふさわしい(ここの写真参照).地階にもティンゲリーの作品が並んでいて,作品の中には光やプロジェクタを用いているものもあるために薄暗い展示室が用意されている.2,3階には企画展示室があって,企画展ではティンゲリーの友人などの展示が行われるらしい.
さすがにティンゲリーの作品はどれも素晴らしいものばかり.もちろん初めて見るものが多く,通常は他の作品鑑賞が騒音によって妨げられるために稼働を制限している場合が多いが,ここの作品は全てボタンが足下にあり,全ての作品を子どもでも稼働させることができる(実際には稼働後に再び稼働可能となるためにはインターバルが必要なため,動いている様子を全て見るためには時間が掛かる).ティンゲリーの作品は動かなければ意味がなく,やはり実際に動くところを見るととても楽しい.しかし,ティンゲリー以降にキネティック・アートで特筆すべき作家が現れていないのは残念で,これらのローテクノロジーを用いたアートは,ハイテクノロジーを用いたメディア・アートへと形を変えてしまったのかもしれない.
企画展示室はホワイトキューブによる普通の美術館.そこでは前衛音楽家エドガー・ヴァレーズを紹介する「Komponist Klangforscher Visionär」展が開催されていた.楽譜などの様々な展示をはじめ,もちろん音楽作品も聞くことができる.音楽に関して詳しい知識がないのが残念だが,時間があれば隅々まで見て,聞いて回ると楽しい展示だろう(参考リンク:).ル・コルビュジエとヤニス・クセナキス設計の「ブリュッセル万博フィリップス館」(1958)に関する展示も行われていたが,建築はもちろん知っていたけれども,ここでヴァレーズの作品が演奏されていたことは知らなかった(参考リンク:).展示に併せて分厚いカタログも作られていて,おそらく資料的な価値も高い貴重な展示であったと思う.
この建物はライン川沿いに建てられていて,そのライン川を望むことのできるガラス張りの空間があるのだが,これが単なる1階から2階に上がるスロープ状の動線空間.しかも建物本体とブリッジで接続する分棟配置.ティンゲリーの作品を展示することは設計時から明らかなのだから,絶好の場所をこんな建築的表現で使用するよりは,作品と一体となった空間とすべきであった.非常に無駄な空間になっている.
庭園にはティンゲリーの噴水があり,これがまたすばらしい.噴水を作らせるとティンゲリーの右に出る人はいないのではないかと本気で考えてしまう.建物はともかく,これらのティンゲリー作品を見るためだけに,この美術館を訪れる価値は十分にあるだろう.

美術, 音楽 | Posted by satohshinya at August 13, 2006 6:56 | TrackBack (0)

これは一級品@riehen

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クレーの美術館ではさんざん文句を書いたけれど,この美術館は違った.「Fondation Beyeler(バイエラー財団美術館)」は1997年に開館したレンゾ・ピアノの設計による一級品.特に自然光を採り入れる全面光天井については,よくやっているの一言ことに尽きる.

「アート・バーゼル」開催中のバーゼルは「Art City Basel」と銘打ち,どこの美術館も通常とは異なる開館時間が設定されていて,ここも毎日20時まで開館していた(通常は水曜日のみ).有意義に時間を使おうと閉館間際にここを訪れたのだが,それが失敗だった.実際に訪れたのは19時過ぎで,もちろんヨーロッパの夏はそのくらいの時間でも十分に明るいのだが,この美術館の本当の醍醐味を味わうためにはやはりもう少し日の高い時間に行くべきだったと思う.そんな時間であったが,マニアックな天井のおかげで形容しがたい薄らぼんやりとしたホワイトキューブが生み出されていて,近代美術の展示には相応しい展示空間だった.コレクションも一級品ばかり.特にジャコメッティや,真っ白い空間に展示された真っ白なアルプ(だったと思う)の作品など,彫刻の展示におもしろいものがあった.企画展はマティスの「Figure Color Space」展.さすがによい作品が並んでいる.
強いて文句を書くならば,やや建物が長いために,全てがこの光天井システムであったとしても単調さを回避することができていない.妻側の庭が見える場所は特徴的な展示室となるが,それ以外は天井高が一定のため,部屋の広さを変えるくらいしかできることがない.調べたところによると,展示点数の増加により2000年に12メートル分の増築を行っているそうで,もしかするとその分が余計に建物を長く感じさせているのかもしれない.
展示室だけでなく,美しい庭園が拡がる周囲にも見事な佇まいを見せている.一方で想像以上に近接していた前面道路に対しては,豪邸を囲む閉鎖的な壁(塀)が延々と続いてしまっており,それが残念であった.また,塀や建物自身に用いられている赤っぽい石だが,柱にまで貼っているマニアックなディテールはともかく,訪れるまでは正直言ってそれほど魅力的な素材には見えなかった.しかし実際に訪れて通り沿いに周辺を歩くと,地元産なのだと思うが,そこかしこに同じ石が使われていることがわかる.その延長として通りに面する塀があると思うと少し納得できる.
ちなみに「バイエラー」と「ヴィトラ」とバーゼルは三角形の位置関係にあるが,2つの美術館も下記のようにバス(要乗換)で連結している.
・Vitra Design Museum → Fondation Beyeler
  at 9:47, 10:47...
   Weil (Vitra) Bus 55 → Weil (Läublinpark)
   Weil (Läublinpark) Bus 16 → Riehen (Weilstrasse)
  at 10:30, 11:30...
   Weil (Vitra) Bus 12 → Weil (Marktstrasse)
   Weil (Marktstrasse) Bus 16 → Riehen (Weilstrasse)
・Fondation Beyeler → Vitra Design Museum
  at 9:57, 10:27, 10:57, 11:27...
   Riehen (Weilstrasse) Bus 16 → Weil (Läublinpark)
   Weil (Läublinpark) Bus 55 → Weil (Vitra)

美術 | Posted by satohshinya at August 12, 2006 2:14 | Comments (1) | TrackBack (0)

トップライト@basel

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クンストハレはコレクションを持たずに企画展示を中心に活動する施設であることがわかった.そしてバーゼルにも「Kunsthalle Basel(クンストハレ・バーゼル)」がある.

ここもクラシカルな外観にホワイトキューブの展示室という毎度おなじみとなってきた取り合わせで,バーゼル芸術家協会の展示空間としてJohann Jakob Stehlin設計により1872年に完成した建物.何度か改修が行われており,2004年に改修された際に「Architekturmuseum(建築博物館)」が併設された.
中ではLee Lozanoというアメリカの画家による「Win First Dont Last, Win Last Dont Care」展をやっていて,コンセプチュアルに見える作品があったり,展示壁面を黒く塗った上に抽象画が掛けられていたり(これは作家自身による指示らしい),その一方でドリルの先端を描いたような具象画があったり,なかなか一筋縄ではいかない作品が並んでいた.
ここの展示室もトップライトによる光天井を持ち,当たり前の話かもしれないが,機能転用による美術館にはトップライトはなく,元々美術館として作られた建物にはトップライトを持つものが多いことに気付く.20世紀以前に建てられたクラシカルな建物の場合,内部空間のスケールの違いがあるものの,一見すると元々美術館であったのか機能転用されたものなのかわからないときがある.結局は室内を真っ白く塗り潰してしまえば,それだけで展示空間になってしまう.それらの違いの1つにトップライトのある/なしが考えられるかもしれない.しかし現代の美術館では,いかに天井から自然光を入れるかという課題に真剣に取り組んだものがある一方で,そんなことにはお構いなく照明を均質に配置するだけのものも少なくない.
「クンストハレ」の横にはバーゼル劇場があり,その前の広場にはリチャード・セラの作品とジャン・ティンゲリーの噴水もある.

美術 | Posted by satohshinya at August 12, 2006 0:46 | TrackBack (0)

ヴィトラのセンス@weil am rhein

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「Vitra Design Museum(ヴィトラ・デザイン・ミュージアム)」はドイツのヴェイル・アム・ラインにあるのだが,スイスとの国境沿いの町であることから,バーゼルからバスで向かう.ちなみにこの「ミュージアム」が面する通りの名前はCharles-Eames-Straße.

「ミュージアム」(1989)はフランク・O・ゲーリーの設計.さすがの造形力ではあるが,予想していたよりも遙かに小さい建物であったことに驚く.更に巨大なコンクリートの塊というイメージだったはずが,エントランスのキャノピーの下から鉄骨構造を覗かせていたこともあって,非常に軽快な建物に思えた.主体構造がはっきりしない建物で,わざわざ本体と同等のボリュームで構成されるキャノピーが鉄骨造であることを示すなんて,きっと確信犯に違いない.何れにしても,この建物の主体構造は何なんだろう?
中ではジョエ・コロンボの家具やプロダクトを展示する「Inventing the Future」展を開催中.オープン当初は椅子のコレクションを展示していたのだが,最近は企画展示に使用しているらしい.そのため,開館当時の雑誌では巨大なトップライトから光が降り注いで複雑な内部空間を美しく見せていたのだが,現在では展示保護のためかトップライトが塞がれた暗い展示室を見ることができるだけで,せっかくの内部空間がぶち壊しだった.これは今回の企画展に限ったことなのかも知れないが,内部を含めた造形美が見所の建物のトップライトを塞いでしまうヴィトラのセンスを疑ってしまう.外観だけ見ることができればよいということだろうか? ビルバオは知らないが,このくらいの規模の建物だと,いくら複雑な造形であっても内部と外部には必ず関係が生じるだろう.トップライトを持つ故の外観の造形であるし(逆に外観故にトップライトが付いたのかも知れないけれど),内部に階段が必要である故にスパイラル状の造形が外観に現れているはずなのだが…….他にもゲーリーは「ミュージアム」の背後に「工場」を設計している.
12時と14時の2回,2時間の建築ツアーが行われる.それに入ると「ミュージアム」の奥にある工場の敷地内に入ることができる.入口近くにジャン・プルーヴェの「ガソリンスタンド」(1950年代)とバックミンスター・フラーの「ドーム」(1951)があるが,何れも外観を見ることができるのみ.続いてニコラス・グリムショー設計の「工場」(1981/86),アルヴァロ・シザ設計の「工場」(1994)も外観のみを見学.まあ,ただの工場で特筆すべきことはない.
続いてザハ・ハディド設計による「消防署」(1993)の見学.建設当初は消防署に使われていたが,以前「ミュージアム」に展示してあった椅子の展示室に変更された.デコンストラクティビズムを正確に実現したザハの処女実作として,今では歴史的な意味合いすら持つようになったが,コンクリートのキャノピーの先端が垂れ下がっていたり,風雪に耐えているとは言い難いようだ.建設当時には掲載された雑誌などを食い入るように見たものだが,正直言って現在でも通用するデザイン言語とは思いにくく,何よりもコンクリートの造形が重々しい.更に椅子の展示方法があまりにもひどく,壁一面に棚を作って100脚の椅子を並べているのだが,倉庫に在庫品が並んでいるという風情.椅子なのだから座ることができないまでも,せめてもう少し近い床の上で鑑賞したい.ここにもヴィトラのセンスのなさを感じてしまった.付け加えると2時間の建築ツアーの内,かなりの時間(30分以上?)をこのコレクションの解説に費やされてしまい,建築を見に来た身としては時間がもったいなく感じる.ちなみにヴェイル・アム・ラインにはザハ作品がもう1つある(「Landesgardenschau」(1999)住所はMattrain 1).
最後は安藤忠雄の「コンファレンス・パビリオン」(1993)の見学.ヨーロッパにおける安藤作品としてはよくできているし,断熱を確保するために二重壁を使ってまでも打ち放しコンクリートの壁を実現している.しかし,初期の安藤作品が打ち放しを選んだ大きな理由に経済的なこともあったと思うと,ここまで来ると様式と化しているとしか思えない.しかも,関西にある良質な安藤作品と比べると大したことはない.それでもヨーロッパの人たちにとっては実際に訪れることのできる安藤作品として貴重な存在なのだろう.海外の人たちは本当にANDOが好きだから.
結論から言うと,もしバーゼルに余裕を持って滞在できるのならばツアーの参加を薦めるが,時間のない日本からの旅行者は「ミュージアム」だけの見学に留めて,少しでも多くバーゼルの他の現代建築を見ることを薦める.やはりバーゼルでも建築のガイドブック「Architektur in Basel」が配布されていて,H&deM作品の所在地など105作品が地図・住所付きで紹介されている.そして日本に帰ってきてから,関西にある80年代以前の安藤作品をぜひ見てほしい.

建築 | Posted by satohshinya at August 10, 2006 23:47 | Comments (1) | TrackBack (0)

オープン・ストレージ@basel

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Emanuel Hoffmann財団が自らの展示スペースとして作ったのが「Schaulager(シャウラガー)」.美術館ともギャラリーとも名付けられず,単に「シャウラガー」.「バーゼル美術館」や「バーゼル現代美術館」だけでは十分な展示が行えないために新しいスペースが必要とされ,ヘルツォーク&ド・ムーロンの設計により2003年にオープン.

1階では「The Sign Painting Project (1993-97) : A Revision」展というFrancis Alÿs(フランシス・アリス)の個展.作家自身が描かずに,看板画家に代わりに描いてもらった平面作品を展示.それらを立て掛けて重ねて展示してみたりしていて,絵そのものを見せるというよりもインスタレーションのようなコンセプチュアルなもの.最後の展示室では真っ暗な部屋に裸電球が1つぶら下がり,部屋の隅に小さな絵が1枚掛けられていたりしてなかなかおもしろい.そのためかそれほど大きなスペースを用いておらず,入口近くを壁で仕切って使っているだけで,背後には巨大な展示室が余っている.写真はこの展示室を後ろから覗いたもの(トイレに行く時に見える).使っていない部分の天井照明は点いているが,最後の暗い展示室の蛍光灯が消えている.
地下では「Analogue」展というTacita Dean(タシタ・ディーン)のフィルムや写真などによる個展.大きな展示室の中に16mmフィルムを使った作品のための小部屋がいくつも作られているのだが,これらがパヴィリオンのようにおもしろく配置され,その隙間が写真やその他の展示空間になっている.中心に3つの部屋が繋がったボリュームがあって,それにより単なるホワイトキューブではない展示空間が生まれている.しかも,それらが仮設の展示壁面とは思えないほどキチンと作られていることに驚く.今回は時間が十分になかったが,フィルム作品自体も時間を掛けてじっくり見てみたいものばかり.それにしても「アート・バーゼル」でもビデオではなくフィルムを使った作品を多く見掛けたが,最近の流行なのだろうか? ちなみにここで作品と展示風景の映像を見ることができる.地下には他にKatharina Fritschの巨大なネズミ,Robert Goberの大掛かりな水を使ったインスタレーションが常設展示.
作品,展示ともに質が高い一方で,建築はイマイチ.企画展示室は単なる巨大な空間で,柱も無造作に立っている.悪くはないけれどもよくもない.天井の照明もあまりにも一本調子.外観に至っては,エントランスの小さな建物にもう少し意味があるのかと思っていたけれども単なる通り道に過ぎないし,地下階を覗き込めるガラス窓もミラーフィルムが貼られていて外からは見えないし,大きく凹んだファサードはシンボリックなだけ.
しかし,どうしても腑に落ちないことがあった.天井の照明が一本調子であるのは,展示室の均質な照明を機能的に確保するとともに,地下から見上げた時に増殖して見える風景を作り出したかったのだろうということは理解できる.そうだとしても,2階以上の3層くらいに亘る空間は何なのだろうか? まさか見かけのためだけに照明を付けているわけがないし,事務スペースにしては大げさすぎる.調べてみたところ,そこは収蔵庫だったことがわかった.
美術館には「オープン・ストレージ」というアイディアがあって,展示室に展示しきれない作品を収蔵庫内で研究や鑑賞などの目的で限定的に公開する施設がある.それぞれの美術館が重要なコレクションを持っていたとしても,それらを見ることができなければ意味がないため,直接アーカイブにアクセスを可能にしようというアイディアだ.ポンピドゥーでも行われているというのを本で読んだことがあるし,日本でも博物館では行われることがあるようだ.それでも美術館で実現しているのは,平面作品が掛けられた収蔵庫内のラックが移動して鑑賞できるという程度のことで,インスタレーションを中心とした現代美術では例がないと思う.
「Schaulager」という名前はドイツ語で,「schau」が「みせること,展示」,「lager」が「倉庫,貯蔵庫」で,「見せる収蔵庫」という意味を持つ.その名の通り,この美術館(と呼ぶべきではないかもしれない)は現代美術におけるオープン・ストレージを実現した大きな収蔵庫だったのだ.確かにここで行われる企画展は年に1回で,今年は5月13日〜9月24日までのたった4ヶ月ちょっと.それ以外は基本的に内部は公開されておらず,研究を目的とする専門家や学生だけが上層階を含めたコレクションに一年中アクセスできる(もちろん建築関係者もお断り).
ここまでのアイディアはプログラムに関するもので,もちろんこれは財団が提示したものである.それをH&deMが建築化したわけだが,webなどでオープン・ストレージの写真を見ると,通常よりも接近して展示されている展示室といった程度の場所で,特別な空間の提案が行われているわけではないようだ.その意味でも,建築家の果たした役割が表層的な点に終始しているのが残念であった.何れにしても画期的なコンセプトによる美術館,もしくは収蔵庫であることは事実であり,今後の展開に期待してゆきたい.
余談だが,12年前に制作した自分自身の修士設計において,インスタレーションなどの空間化された現代美術作品を収蔵するオープン・ストレージを提案したことがある.それは地下鉄の駅に対してガラス張りの収蔵庫が面するといういささかオーバーなものであったが,ようやく現実が追いついてきたようでうれしく思う.

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美術 | Posted by satohshinya at August 9, 2006 23:30 | TrackBack (0)

U字型@basel

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「Kunstmuseum Basel(バーゼル美術館)」は1671年にオープンした世界で最も古い公共美術館であるそうだ.建物自体は1936年にRudolf ChristとPaul Bonatzにより設計された.Bonatzはシュトゥットガルトのスタジアムや中央駅も設計している.そんな細かいことは後から知ったことで,訪れた時は普通の美術館だと思いながら見ていた.

コレクションはヨーロッパの標準的な品揃えに思える.実際はかなり充実したコレクションなんだろうけれども,ヨーロッパの美術館を数多く見て歩くたびに大分感覚が麻痺したようだ.現代美術も揃っていて,ジャッドやリキテンシュタインが並んでいる様子はどこかの美術館を見ているよう(しかし,ここの情報を久しぶりに見ると,なんと今はこんなものをやっているとのこと.大丈夫か?).2階と3階がコレクション展で,中庭を囲んだ展示室を年代順に2周する.もう1つ小さな中庭を囲んだ2階が企画展示室で,「Hans Holbein d.J.」展というホルベインが若い頃にバーゼルで描いた作品を集めたものを開催中だった.
ここの姉妹館がEmanuel Hoffmann財団と提携している「Museum für Gegenwartskunst Basel(バーゼル現代美術館)」.ほとんど期待せずに行ったのだが,かなりよい美術館だった.
ここはライン川沿いに位置しており,小さな川(運河?)が中央を流れる狭く複雑な形状の敷地を持ち,片側に既存建物(19世紀の紙工場を改修して使用),川を挟んで増築部分を配置している.設計はWilfrid and Katharina Steibで,1980年にオープンし,2005年にリニューアルされたらしい.彼らもシュトゥットガルト州立美術館の旧館増築を手掛けている.80年代らしいデザインのためか外観は格別なものではなく,敷地条件のためにこのようにしか建てられなかっただけかも知れないが,結果的にできた展示室が大変魅力的なものになっている.

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ここでは「Emanuel Hoffmann-Stiftung」展というEmanuel Hoffmann財団からのコレクション展が開催されていた.建物のあちこちに分散されて展示された作品はなかなかおもしろいものばかり.無料で配布していた各作家の解説を掲載した小さなブックレットもよくできていた.特に再び出会ったFiona Tanの作品がよかったが,一面がガラス張りで吹き抜けを持つ展示室に小さな暗い部屋を作っているのは無理矢理な感じだった.財団のコレクションとともに美術館自体のコレクションも混在して展示されているのだが,これらを見るために4階建ての既存と増築を行ったり来たりする.展示室はやはりホワイトキューブだが,蛍光灯が素っ気なく露出して付けられていたり,既存の窓周りを斜めに縁取っていたり,装飾的な既存柱をオブジェのように部屋の中央に残したり,さりげないデザインが非常に効いている.

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最上階には天井高が高くトップライトを持つ大きな展示室があり,Daniel Richterによる大型の平面作品を集めた「Hunterground」展が開催されていた.作品自体も幻想的な具象画で,色の使い方が独特なおもしろいものだった.下階から螺旋階段を上がるとそのまま大きな空間に出るのだが,複雑な形状をした展示室の平面がU字型を描いていて,トップライトもそのままU字型になっている.トップライト自体の形状も悪くない.一続きの部屋だがU字型の平面形状のために空間が緩やかに分割されていて,様々な距離感で作品を見ることができる.例えるならば伊東豊雄さんの「中野本町の家」(1976)みたいな平面計画.もちろんあんなにストイックではないけれど.
バーゼルは他にも建築デザインとして優れた美術館が数多くあるので,必ず訪れるべきなんてことは言いにくいのだが,建築家自身の過剰なジェスチャーの少ない,良質な展示室を持つ美術館であることは間違いない.

美術 | Posted by satohshinya at August 3, 2006 23:17 | TrackBack (0)

ウィンドウショッピング@basel

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ようやくバーゼル編に突入.世界的なアートフェアである「Art 37 Basel(アート・バーゼル37)」に行く(気の早いことにwebは既に来年の情報を掲載中).会場は「Messe Schweiz」の2つの展示場.基本的にはお金持ちがアートを買いに来る見本市を,入場料を支払って一般の人々がウィンドウショッピングするというもの.

日本にも同様なアートフェアとして「アートフェア東京」(かつてはNICAFという名前だった)があって,会場内も同じように大きなメッセ空間を壁で細かく仕切ったブースが並んでいるだけなので,一見すると同じような雰囲気に思える.しかし,展示されている作品の質が高いことと,それを本気で買いに来ている人たちが半端でないほどお金持ちに見えることが決定的に異なっている.だからこそ世界中のギャラリーから最新の作品が集まってきて,それを見るだけでアートの最新動向がわかるということになるらしいが,会場があまりにも広いために見ているだけでクタクタになる.もちろん商売がメインであるのだから商品がよりよく見えることも考えていると思うが,同時に少しでも多くの商品を並べる必要もあって,最適な環境で作品を鑑賞するなんていう状況からはほど遠い.ちなみにこのギャラリーが並んでいたのがHall2で,Hans Hofmann設計により1954年にオープン.
もう1つの会場であるHall1は,Theo Hotz設計により99年にオープンしたもの.ここでは「Art Unlimited」展をやっていて,ブースに納まらない巨大な作品が並べられていた.これも売ってるものなのかも知れないけれど,美術館以外に誰が買うのだろうかという代物ばかり.インスタレーションやメディア・アートが多く,作品毎に壁で仕切られた部屋を持つか,部屋と部屋の間の通路に面して展示されているかのどちらかで,雰囲気としては横浜トリエンナーレ(特に1回目)のような感じ.つまり囲われたホワイトキューブを必要とする作品と,囲い込まれた場を必要としない自立した作品に分けられていて,やはりメディア・アートは囲い込まれた単なる暗い部屋が用意されていた.残念ながら「アート・バーゼル」だからといって特別な展示方法が採られているわけではなかった.よい作品も中にはあったが,共通したテーマや場所との関係といったコンテクストが全くなく(商品を並べているだけだから当たり前だけど),ただ脈絡もなく作品が並んでいるだけなのも残念だった.その中に石上純也氏のテーブルが展示されており,日本人建築家の作品であったためか,後でこの作品を見た人たちからいろいろと質問を受けた.さすがに話題となっていたようだけれども,これってアートなのかな?
屋外展示まであって,写真の噴水もパブリック・アートの1つ.さすがに話題のアートフェアなので,いろいろと報告記事・写真も多いので関連リンクを紹介(京都造形大の研修報告Unlimitedの報告女性起業家の報告お金持ち向けの情報).
ちなみに会場となったメッセは2012年に向けてH&deMが再編成を行うようである.バーゼルには彼らの事務所があり,お膝元だけあって大きな仕事だ.完成したらすごいもの(悪い意味で)になりそう.

美術 | Posted by satohshinya at August 3, 2006 13:28 | Comments (2) | TrackBack (1)

フェスティバルの時には@linz

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リンツの最後は「O.K Centrum für Gegenwartskunst(O.K現代美術センター)」.現代美術を対象とした実験的な施設だそうで,1930年代に作られたビルをPeter Rieplという建築家が98年にリノベーションしている.周辺が工事をしていたためか,今回の展示のためかよくわからなかったが,仮設の階段でいきなり2階に登らされる.webの写真と見比べてみると,正式な入口が塞がれていることもわかる(ブリッジもなくなっている!?).そんな導入部分に加えてラフな材料を多用したデザインも手伝って,建築までが仮設的なものに見えてしまった.

ここは企画展のみを行う場所で,「You'll Never Walk Alone」展が行われていた.ワールドカップ(ドイツ語圏なのでWM)に合わせた企画で,サッカーに関する作品が集められていた.訪れた時には「O.Kセンター」経営のカフェも設置されていて,イングランド×パラグアイ戦に盛り上がっている真っ最中だった.そんなタイミングに相応しい企画ではあると思うが,並んでいる作品がどれもこれもイマイチに思えた.建築自体が安普請に見えたために作品まで安っぽく見えてしまったのか,またはその逆なのかはよくわからないが,あまりよい印象を残さぬままに立ち去った.
後から知ったところによると,ここはアルス・エレクトロニカ開催時に関連展示が行われる場所であるらしい.確かに「アルス・エレクトロニカ・センター」よりはメディア・アートの展示場所に相応しいかもしれない.また「アルス・エレクトロニカ・センター」についても建物を中心に批判的なことを書いたが,その中の展示はフェスティバルから翌年のフェスティバルまでの1年間常設され,市民の誰もが作品と密接に関わることができることを意図しており,十分な作品の理解を助けるためにトレーナーも必要となるということらしい.(参考リンク:
何れにしてもフェスティバル期間中にリンツに行ってみないことには,これらの魅力が十分に理解できないのかも知れない.時間があればぜひ行ってみたい.
おまけに,リンツでもミュージアムの地図付きガイドブックが配布されていて(webではPDF版がダウンロード可能),街の中心にあるインフォメーションではお得な「Linzer Museumskarte」が販売されている.

美術 | Posted by satohshinya at August 3, 2006 0:16 | TrackBack (0)

結局重要なのは作品か?@linz

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「Landesgalerie Linz(リンツ州立ギャラリー)」も毎度おなじみのクラシカルな建築.ここも転用ではなく,1895年に展示施設として作られたようだ.創設自体は1855年に遡り,150年の歴史を持つ美術館.

これまたおなじみのようにいくつかの展示が同時に行われている.WappensaalではKatharina Mayerという写真家の個展をやっていて,上質なポートレイトに回転運動が加わった佳作で,更に実際に回転している様子が収められたビデオ作品もあった.展示室はこれもおなじみのフローリングに白い壁のホワイトキューブ.Kubin-KabinettはAlfred Kubinsという画家のコレクションを展示する専用の部屋.Gotisches Zimmerではコレクション展である「Selbstbildnisse」をやっていたようだが,既に見た記憶がない.FestsaalでもChristian Hutzingerの「Festsaal-bild 2006」をやっていたようだが,その夜のイベントに備えていたためか見ることができず.
そしてオーストリアで見た展示の中で最もすばらしかったと思うのが,Landesgalerie 2. StockでやっていたFiona Tanの「Mirror Maker」展.いわゆるプロジェクタを用いたメディア・アートの一種で,橋口穣二のように真っ正面から人物を捉えたビデオ作品と言ってしまえばそれまでだが,スクリーンの扱い方がとてもうまく,空間の完成度が非常に高い.まったく知らない作家だと思ったが,2001年の横浜トリエンナーレにも出展していたらしい.確かにこの作品は記憶にある.展示自体はホワイトキューブを暗くした,これもおなじみのダークキューブだったが,それでも作品に空間的なおもしろさによる強度があるためか,外部に面した小さな窓からはそのまま自然光を入れている.それでも十分成立していた.久しぶりに完成度の高いメディア・アート(と分類することもないけれど)を見た気がする.

美術 | Posted by satohshinya at August 2, 2006 0:32 | TrackBack (0)

科学博物館@linz

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アルス・エレクトロニカは世界的に有名なメディア・アートのフェスティバル.1979年から開催されており,87年からは「アルス・エレクトロニカ賞」も制定され,日本人では坂本龍一+岩井俊雄が『Music Plays Images X Images Play Music』で受賞している.そして96年に「Ars Electronica Center(アルス・エレクトロニカ・センター)」がオープンした.

そんな背景を持つセンターだから期待していたのだが,実際は美術館というよりも,どちらかというと科学博物館の様相を呈したものだった.メディア・アートが元々そういった展示となる可能性を秘めていることは理解できるが,少しゲームとしてのフォーマットが強すぎる気がした.使い方をていねいに教えてくれるトレーナーたちの存在が,より子ども向けのイメージを強めている.本当はアルス・エレクトロニカで発表された作品をコレクションする美術館を想像していたのだが…….
フェスティバルからはじまりセンター建設に至る道筋が,いわゆる箱もの美術館とは一線を画すものとして評価されており,この建物も機能転用などではなく,Walter MichlとKlaus Leitnerというオーストリア建築家によって新築されたもののようだ.しかし,この建築がひどい代物であり,それがまた追い打ちを掛ける.正直言って何を考えて設計しているのかよくわからない.
もちろんZKMでも子ども向けのプログラムには力を入れており,メディア・アートに限らずあらゆる美術館において子どもを対象としたプログラムを持つことは必須であろう.しかし,それらの美術館も子ども専用に展示を行うわけではなく,展示を子ども向けにわかりやすく解説しているといった場合が多い.そうでなければチルドレン・ミュージアムまで専門化すべきだろう.
それよりも,ここで問題となっているのはメディア・アートの持つゲーム的側面だろうか? もう少していねいに考えなければいけないことかもしれない.例えば岩井俊雄の作品を思い出してみると,ほとんどゲームのようなものがほとんどだけれども,一方でアートと呼べるような部分を必ず持っている.「アルス・エレクトロニカ」の作品がアートになっていないというと大げさだけど,結果的に建物とインテリアデザインによる空間が異なったものに思わせているのかもしれない.もちろんアートだからと,いかにも大事なもののように扱う必要はないけれども,科学博物館のようなフォーマットに押し込んでしまうと,その作品が訴えかける可能性を狭めてしまうように思える.老若男女がゲームのように楽しむことで,メディア・テクノロジーへの造詣を深めることは結構なことだが,もう少し別な作品との関わり方があるのではないだろうかと思っただけのことである.
ちなみに今年のフェスティバルのチラシには小沢剛の『ベジタブル・ウェポン』が表紙に使われていて,テーマは「Simplicity」.なぜ小沢剛?

美術 | Posted by satohshinya at August 2, 2006 0:20 | TrackBack (1)