さすがウィーン@wien

R0011278.jpg

実際に訪れるまではその存在を全く知らなかったのだが,ウィーンでおもしろい美術館を見つけた.正式名称は「Österreichisches Museum für angewandte Kunst(オーストリア応用美術博物館)」,通称MAKという名で呼ばれている.日本名を見たときにはあまり興味が湧かなかったのだが,たまたま美術館の前を通ったところ,イヴ・クラインの展示をやっているのがわかった.アートもやっているんだと思って中に入ると,それどころかそこはコンテンポラリー・アートの巣窟であった.

1871年に開館した建物に入ると,大きなホールに面していくつもの展示室が繋がっている.そこには確かにゴシック,バロック,ユーゲントシュティールなどに分類された応用美術(工芸)が展示されているのだが,それぞれの展示室のデザインを,なぜかドナルド・ジャッドやジェニー・ホルツァーといったアーティストたちが担当している.1986年にPeter Noeverが館長に就任してから現代美術のコレクションがはじまり,これらの展示計画が進められたらしい.中でもジャッドの展示室は「バロック ロココ 新古典主義」のテーブルや棚を展示するものだったが,そのミニマルな展示方法は1つのインスタレーション作品として成立するすばらしいものであった.その他にも,普通の博物館とは異なる不思議な展示室が並んでいる.クリムトの作品が段ボールの展示壁に掛けられてあったり,やりたい放題にやっている.
展示ホール(1909年に増築)ではジェニー・ホルツァーの最新作展「XX」展をやっていた.光天井(トップライト?)を持つ大きな展示室は真っ暗(ダークキューブ)で,床・壁・天井にプロジェクションされた巨大な文字が部屋中をクルクルと回転し,並べられたクッションに横たわって鑑賞する.建物の壁面にプロジェクションするものは以前にも写真で見たことがあったが,その室内版.単なる文字がプロジェクションされるだけで,しかもドイツ語だったので意味もよくわからなかったが,それでも迫力のあるものだった.それ以外にも大きな展示室が並んでいたのだが,そこも真っ暗で以前の作品をプロジェクタで映写していただけ.さすが大物,大胆かつ大雑把な展示だった.ついでということはないけれど,ウィーン市内を走るトラムに書かれた「I WANT」もおそらくホルツァーの作品だろう.
ちなみにクラインの展示は「Air Architecture」展という建築的プロジェクトの紹介.地下の小さなギャラリースペースが使われていた.

R0011415.jpg

MAKでは美術館外にも作品を設置している.美術館の敷地内にはSITEの作品など建築っぽいものがいくつかある.更に敷地外にはパブリック・アートとして,ジャッドやフィリップ・ジョンソンの作品がある.ジャッドの『Stage Set』(1996)は公園の中に設置されていて,黒いフレームに原色を使った布が張られている.布は発色がよく,光を透過するため,半透明のレイヤーのようにきれいに重なり合う.残念ながら大きな布の面を作り出すために途中で繋ぎ合わせる必要があり,その繋ぎ目が目立つと同時に汚れの線ができてしまっている.さすがジャッドだけあっておもしろい材料を使っているが,一方でパブリック・アートとして考えると耐候性に問題があり,ややみすぼらしいものに思えてしまう.元々は展示ホール内の個展で展示されたものを移設したようなので,外部での常設展示をどのくらい考慮して制作されたのかわからないが,その辺がもっと考えられていればよかった.
今回は行くことができなかったが,その他にも9階建ての元砲塔を倉庫と展示スペースに使っていたり,郊外の大邸宅を分館に用いて,庭にジェームズ・タレルの作品を設置していたり,果てはロサンゼルスにルドルフ・シンドラーの住宅(ウィーン出身ということらしい)を所有していたり,とにかく幅広い活動を行っている.

R0011407.jpg

MAKではこれらの活動を収めたガイドブックを出していて,独語,英語だけでなく,伊語,日本語版まである.その中にはウィーン案内があって,ワグナーやロースの作品の住所が掲載されている.それを見てわかったのだが,MAKのすぐ近くにコープ・ヒンメルブラウ設計の「ルーフトップ・リモデリング」(1983/87-88)を見つけることができた(郵便貯金局からもすぐ近く).今となってはデコンストラクティビズムの歴史的名作にちょっと感動した.

美術 | Posted by satohshinya at July 17, 2006 10:41


TrackBacks